第8話:魔王からの贈り物
「なぜ?私は原作のクラリスとは違う行動を取っているわ。彼女を陥れるようなことはしていない」
「それがかえって彼女の警戒心を煽っている。特に私との接触が噂になっている今は」
そうか、あの茶会でのやり取りで、すでに疑念を持たれていたのだ。
「どうすればいい?」
「行くしかない。だが、これを持って行け」
ハインは右手を差し出し、小さな光が指先に集まった。光が消えると、そこには小さな赤い石が現れた。
「これは?」
「私の魔力の一部だ。危険を感じたら、強く握りしめるといい。私に繋がる」
私は恐る恐るその石を受け取った。手のひらに乗せると、かすかに温かい。
「あなたの魔力…大丈夫なの?」
「心配するな。私なら」
彼は自信に満ちた表情で微笑んだ。魔王としての余裕と誇りが感じられる笑顔だった。
「ありがとう」
お礼を言うと、彼は少し戸惑ったような表情を見せた。
「お前は前世でも、よく私にお礼を言っていたな」
「え?」
「何でもない。そろそろ戻るべきだ。日が暮れる」
確かに空は薄暗くなり始めていた。不思議なことに、彼との時間はあっという間に過ぎていた。
帰り道、ハインは森の入り口まで私を送ってくれた。
「また会えるかしら?」
「望むなら、いつでも」
彼の言葉に、妙な安心感を覚えた。
「それじゃあ、また」
踵を返そうとした私を、彼が後ろから抱きしめた。突然のことに息が止まりそうになる。
「気をつけろ。お前を狙う者はこの世界にたくさんいる」
耳元でささやかれた言葉に、背筋に冷たいものが走った。彼の腕の中にいると、不思議と安心感と緊張感が同居する。
「わかったわ」
彼は黙って私を解放し、一歩下がった。最後に軽く会釈すると、あっという間に森の闇に溶け込んでいった。
公爵邸に戻る馬車の中、私は彼からもらった赤い石を握りしめていた。温かく、安心感を与えてくれる存在。
《永遠の約束…私たちは何を誓い合ったの?》