第6話:永遠の森の秘密
振り返ると、ハインが木の陰から姿を現した。昨日の夢で見た彼と同じ姿。黒いローブに身を包み、左耳のルビーのピアスが陽の光を受けて輝いている。
「あなたのことを、もっと知りたくて」
素直な気持ちを口にした私に、彼は静かに微笑んだ。
「私も君のことを知りたい。本当の君を」
彼の言葉の意味を考える間もなく、彼は私の手を取り、森の奥へと誘った。
禁忌の森の内部は、噂で聞いていたような死の気配に満ちた場所ではなかった。確かに魔力は濃密で、普通の人間なら気分が悪くなるかもしれない。けれど私には、どこか心地よく感じられた。
「この森の魔力が、君を拒絶していないようだね」
ハインの言葉に、私は驚いた。
「どういう意味?」
「この森は私の意思の一部でもある。私が認めない者は、ここまで深く入ることができない」
彼の赤い瞳が私を見つめる。その視線には、測り知れない時間を感じさせる深さがあった。
「なぜ私を認めるの?」
「…君は本当に覚えていないんだね」
彼の表情に一瞬、寂しさが浮かんだ気がした。
森の奥へと歩いていくうちに、魔力の渦が次第に強くなっていくのを感じた。そして開けた小さな空間に辿り着いた。
中央には青く澄んだ小さな湖。周囲には見たこともない花々が咲き誇り、空気はかすかに甘い香りに満ちていた。
「美しい…」
思わず息を呑む私に、ハインはゆっくりと頷いた。
「ここは私だけの場所。君以外に案内したことはない」
「私以外に?」
疑問が湧いた瞬間、激しい頭痛が私を襲った。
《画面の中の青い湖。キーボードで打ち込む説明文。「魔王の秘密の場所、彼が唯一心を許せる場所…」》
前世の記憶の断片。私がゲームの中で設定したシーンだった。
「大丈夫か?」
ハインが心配そうに私の肩を支える。その手の温もりが、現実感を取り戻させてくれた。
「ええ、大丈夫…ただちょっと、奇妙な記憶が…」
「無理に思い出そうとするな。時が来れば、全て思い出せる」
彼は私を湖のほとりに導き、二人で腰を下ろした。
「ハイン、あなたは私のことを知っているわよね。藤堂美咲として」