第5話:不思議な夢
あの日以来、私の夢にはハインが頻繁に現れるようになった。
現実では会っていないのに、夢の中では彼と長い会話を交わしている。まるで昔からの知り合いのように、自然な笑い声を交わし、お互いの考えを打ち明ける——そんな不思議な夢だ。
「クラリス様、お目覚めですか?」
朝の光と共に侍女長の声が部屋に響く。目を開けると、夢の余韻がまだ胸に残っていた。何を話していたのか、具体的な内容は思い出せない。けれど温かい感覚だけが心に残っている。
「ええ、起きるわ」
ベッドから体を起こしながら、私は思い返していた。あれから一週間。禁忌の森での魔王との奇妙な出会いは、まるで幻のようだった。
しかし、あの出会いは確かに現実だ。手の甲に触れた彼の唇の感触は、今でも鮮明に覚えている。
「何を考えているのですか?頬が赤いですよ」
鏡の前で髪を整えながら、侍女が私の顔を覗き込んでくる。
「なんでもないわ」
顔を背けながら答えたが、心の中ではもう決めていた。今日、また禁忌の森へ行くと。
朝食を済ませた後、書斎で公爵領の政務に目を通していると、執事がやってきた。
「クラリス様、エリザベス王女様から招待状が届いております」
受け取った手紙には、明後日の夜会への招待が記されていた。いつもより丁寧な言葉遣いで、何か重要な話があると匂わせる内容だ。
原作ではこの夜会で、エリザベスがクラリスの悪行を暴露する場面があった。でも今の私は原作のクラリスとは違う行動を取っている。だから大丈夫…のはずだ。
「返事を書いておいて」
心配を押し殺し、いつもの調子で執事に命じた。王女からの招待を断ることはできない。行くしかないのだ。
午後、私は馬車に乗り込み、またしても禁忌の森の近くまで足を運んだ。今回は誰にも気づかれないよう、使用人には別の用事があると告げている。
森の入り口に立つと、風の音だけが耳に入ってくる。不思議と恐怖は感じない。むしろ懐かしさを覚える場所だった。
「来ると思っていたよ」