第4話:魔王との出会い
振り返ると、木々の影から一人の男性が姿を現した。
漆黒の髪と血のように赤い瞳。シンプルだが上質な黒い服に身を包み、左耳には小さな赤い宝石のピアスが光る。
「ハイン…」
思わず口から名前が漏れた。
彼の瞳が驚きで見開かれる。「私の名を知っているのか?」
私は言葉に詰まった。ゲームの設定では、彼の本名を知る者はほとんどいない。人々は彼を単に「魔王」と呼ぶだけだ。
彼はゆっくりと私に近づき、顔を覗き込んだ。その瞳に浮かぶのは、驚きと…懐かしさ?
「見つけた…」
彼の囁きは風のように柔らかく、でも私の心を貫いた。
その瞬間、再び激しい頭痛が私を襲った。閃光のような記憶の断片。パソコンの前で眠る私。画面の中から私を見つめるハインの姿。そして彼の声――。
《いつか必ず、あなたを見つけ出す》
「あなたは…私のことを知っているの?」
彼は答えずに微笑んだ。冷酷な魔王の仮面の下から覗く、優しい微笑み。
「クラリス・フォンティーヌ。いや、それだけではないな…」
「どういう意味?」
「時が来れば、全てわかる」
彼は私の手を取り、軽く唇を押し当てた。その仕草は古風で優雅で、まるで永遠の誓いを交わすかのようだった。
「また会おう。だが気をつけろ。お前が私に近づけば近づくほど、危険も増すことになる」
ハインはそう言うと、風のように森の中へと消えていった。
私はその場に立ち尽くしたまま、自分の鼓動が激しくなるのを感じていた。
こうして私は、自分が作り出した物語の中で、思いがけない出会いを果たしたのだった。
この出会いが、私の運命をどう変えるのか――まだ誰にもわからなかった。
しかし一つだけ確かなことがある。
魔王ハイン・ヴァンデルクは、クラリス・フォンティーヌのことを知っていた。
いや、それ以上に、藤堂美咲という存在を知っているようだった。
「永遠の約束…」
唇から零れたその言葉は、夕闇の中にやさしく溶けていった。
彼の言った「危険」とは一体何を意味しているのだろう?そして、なぜ彼は私のことをこれほどまでに知っているのだろうか——?