第20話:新たな物語へ
光の中で、二人の姿が変化していくのが見える。彼女たちの顔から邪悪な表情が消え、混乱と共に本来の人格が戻っていく。
《操られていた騎士や魔道士たちも正気を取り戻し、二つの国の間に真の和平が訪れる。》
アレクシスとユリウスの目に光が戻り、彼らは混乱したように周囲を見回した。
《そして魔王ハイン・ヴァンデルクは、もはや恐れられる存在ではなく、禁忌の森の守護者として人々に認められる。》
ハインの周りを取り巻いていた暗い魔力のオーラが、穏やかな光に変わる。彼の姿も、より人間に近いものになっていった。
《クラリス・フォンティーヌは…》
ここで私は躊躇した。クラリスの運命をどう描くべきか。
《クラリスは…》
ハインの声が私の思考に割り込んできた。
「美咲、君の望む結末を。遠慮はいらない」
彼の言葉に勇気づけられ、私は続けた。
《クラリスは藤堂美咲の魂を宿しながらも、一人の人間として生きる。二つの記憶、二つの人生を持つ彼女は、創造主でありながら登場人物でもある特別な存在として、永遠の約束の守護者となる。》
光が徐々に収束していき、辺りが見えるようになってきた。エリザベスと隣国の王女は地面に膝をついており、混乱した表情を浮かべている。
「私…何をしていたの?」
エリザベスの声は、以前とは別人のようだった。彼女の目には、プレイヤーの冷たい光はなく、本来の優しさが戻っていた。
「エリザベス王女?」
「クラリス…?なぜ私はあなたを投獄したの?何が起きたの?」
彼女は本当に混乱しているようだった。隣国の王女も同様に、周囲を困惑した様子で見回している。
「長い話よ。でも大丈夫、もう全て終わったわ」
私はハインの方を見た。彼の姿も変わっていた。以前の漆黒の魔王の雰囲気は薄れ、より人間に近い温かみのある存在になっていた。しかし、その本質は変わらない。彼は私を見つめ返し、静かに微笑んだ。
石碑の光が完全に消え、朝日が地平線から昇り始めていた。新しい一日の始まり。新しい物語の始まり。
それから一か月後。
フィラディア王国と隣国アストリア王国の間で和平条約が締結された。二つの国の間にあった長い緊張関係が、ようやく解消されたのだ。
私はクラリス・フォンティーヌとして、その和平条約の調印式に立ち会っていた。式典の後、エリザベス王女が私に近づいてきた。
「クラリス、あの日のことは断片的にしか覚えていないけれど…あなたが私たちを救ってくれたことは感謝しているわ」
「気にしないで。私もあの日のことは、はっきりとは…」
嘘をついた。私は全てを覚えている。二つの人生、二つの記憶。そして物語を書き換えた瞬間のことも。




