第18話:国境の決戦
夜明け前の薄暗い空の下、私たちは国境地帯に降り立った。
ハインの黒い翼が静かに閉じられ、普通の人間の姿に戻る。冷たい朝霧が私たちの周りを包み込み、視界はわずか数メートル先までしか見えない。
「ここが国境?」
私は周囲を見回した。荒れた大地に、かつて壮麗だったであろう建物の廃墟が点在している。
「かつての聖地だ。二つの国の間にあった中立地帯」
ハインの説明に、私は頷いた。ゲーム設定で私が書いた場所。「永遠の約束」の最終決戦の舞台として設定していた聖地。この場所にたどり着く予定だったのは、エンディングでエリザベスと選ばれた騎士団長または神官だったはずだ。
「でも、なぜここに来たの?」
「ここは二つの世界の境界が最も薄い場所。プレイヤーの意識が最も強く影響を及ぼせる場所でもある」
ハインが指差した先には、大きな石碑があった。風雨に晒されて文字は判読できないが、その形状は見覚えがある。ゲームの中で描かれていた「永遠の石碑」だ。
「あれは…」
「君たちの世界と、この世界を繋ぐ門だ」
「だから、エリザベスたちはここに来るの?」
「ああ。彼らは石碑を使って、この世界をゲームの結末通りに導こうとしている」
私たちが石碑に近づくと、霧の中から人影が現れた。エリザベス王女だった。彼女の隣には見知らぬ金髪の少女がいる。隣国の王女だろうか。
「来るとは思っていたわ、クラリス」
エリザベスの声は冷たく響いた。彼女の瞳は、以前よりも鋭く、別の意思が宿っているように見える。
「エリザベス…いいえ、『プレイヤー』と呼ぶべきかしら?」
彼女は一瞬驚いたような表情を見せ、すぐに冷笑を浮かべた。
「そこまで理解しているとは。さすがは創造主ね」
「なぜこんなことを?」
「単純よ。私たちプレイヤーは、ゲームの中の世界を支配したいだけ」
隣の金髪の少女も口を開いた。彼女の表情も同様に、別の意識が乗り移ったような違和感がある。
「現実世界では力のない私たちも、ここでは神になれる。思い通りの展開にできる」