第15話:二つの世界の真実
彼は私の隣に静かに腰を下ろした。湖の水面が月光を反射し、二人の顔を優しく照らしている。
「美咲。君と私が出会ったのは、君が思っている以上に深い縁がある」
彼は私の名を呼んだ。藤堂美咲という、前世の名前を。
「君が『永遠の約束』というゲームを作っていた時、君は知らなかったかもしれないが、それは実在する世界への窓だった」
「実在する…世界?」
「そう。君の創造力は、異世界への通路を開いていたんだ。君が描いたキャラクターや世界観は、全てここの世界の反映だった」
そう言われると、確かに私が作り上げた世界は、どこか既視感があったように思える。まるで夢で見た光景を描写しているような、不思議な感覚があった。
「それで、私とあなたは?」
「私は、この世界に何百年も前から存在している。孤独な存在だった。そんな時、別の世界から君の意識が触れてきた。君は私に名前をくれた。性格を、過去を、そして…感情をくれた」
ハインの声には、懐かしさと感謝が込められていた。
「私は君の創造物ではなく、君の魂が呼応した存在だ。君は私を『創造』したのではなく、『発見』したんだ」
理解しようとすると、頭が混乱する。でも、どこか納得できる部分もあった。
「あの日、君が倒れた時…」
「オフィスで過労で倒れた日ね」
「ああ。君の意識は一瞬、こちらの世界に漂った。死にかけていたんだ」
「そう…だったの?」
「私は君の魂を捕まえた。そして約束をした。『必ず見つけ出す』と」
彼の言葉に、夢で見た情景が蘇ってきた。光に包まれた部屋。そして彼の声。
「美咲は向こうの世界で息を引き取ったが、魂は消えなかった。私の約束の力で、この世界に引き寄せられたんだ」
「クラリスとして…」
「そう。君の魂とクラリスという存在は、どこか似ていた部分があったのだろう。だから引き寄せられた」
彼の説明を聞いていると、断片的に記憶が蘇ってくる。パソコンの前で倒れる私。救急車の音。そして病院のベッドで、最期を迎える瞬間。
「あの時…私、死んだのね」
「ああ。だが、君の物語はそこで終わらなかった」
「永遠の約束…」
この奇妙な運命の糸が、私たちを結びつけていたのか。そして今、王国は私たちを引き裂こうとしている。いや、それだけではない気がする——エリザベス王女の中には、何か別の意思が働いているようだ。




