第12話:真実の魔薬
王女の私室は、宮殿の西翼にあった。華やかながらも上品な調度品に囲まれた部屋は、彼女の性格そのものを表していた。
「お茶をどうぞ」
エリザベスが差し出したカップを受け取りながら、私は部屋を観察していた。出入り口は一つだけ。窓は高い位置にある。
「ありがとう」
カップを受け取ったが、口をつけることはしなかった。エリザベスはそれに気づき、口元に笑みを浮かべた。
「心配しなくても大丈夫よ。毒なんて入れていないわ」
示すように、彼女も自分のカップから一口飲んだ。
「失礼しました」
私もカップに口をつけた。お茶の香りは普通だったが、何か違和感があった。魔力の痕跡だろうか。何かが混入されているのは確かだ。
しかし、表情には出さず、部屋の中を見回した。
「素敵なお部屋ですね」
「ありがとう。ところで、クラリス…」
エリザベスの声色が変わった。
「あなた、最近禁忌の森によく行ってるそうね」
ここからが本題のようだ。緊張が背筋を走る。
「たまに散歩するだけですが」
「単なる散歩?魔王と会っているという噂もあるけど」
「噂というのは面白いものですね。事実がどれほど歪められるか」
「では、魔王とは会っていないと?」
エリザベスの眼差しが鋭くなる。今の私からは嘘も見抜けるという自信に満ちた眼差しだ。
「…会ったことはあります」
「!」
エリザベスは驚いたように目を見開いた。嘘をつくよりも、一部の真実を認めた方が信頼を得られると判断したのだ。
「でも、脅威ではないと思います。彼は私たちの国を攻撃する気はないようです」
「まさか…あなた、魔王を擁護しているの?」
「事実を述べているだけです」
エリザベスの表情が険しくなった。彼女はゆっくりと立ち上がり、窓の方へ歩いていった。
「知っている?このフィラディア王国は、200年前に魔王によって半分を焼き尽くされたのよ」
「それは…」
「多くの命が失われた。私の先祖も、必死に国を守ったの」
エリザベスの声には、本物の怒りが含まれていた。
「今のハイン…魔王は、当時と同じ存在ではないかもしれません」
エリザベスが振り返った。彼女の表情は驚きに満ちていた。
「ハイン?あなた、魔王の名前を知っているの?」
しまった。うっかり本名を口にしてしまった。




