第11話:王女の罠
王宮は普段よりも華やかな装飾で彩られていた。
中央ホールに入ると、すでに多くの貴族たちが集まっていた。皆がエリザベス王女を中心に、華やかな輪を作っている。アレクシスとユリウスもそこにいた。
「クラリス・フォンティーヌ様がお見えです」
執事の声に、ホールの視線が一斉に私に向けられた。今夜は特に、その視線が冷たく感じられる。
エリザベスが優雅に歩み寄ってきた。彼女は水色のドレスに身を包み、王冠を思わせるティアラを頭に乗せている。完璧な王女の姿だった。
「クラリス、よく来てくれたわ」
にこやかな笑顔だが、その目は笑っていない。
「お招きありがとうございます、王女様」
深々と一礼すると、エリザベスは私の腕を取り、ホールの隅へと誘導した。
「素敵なドレスね。いつもと違うわ」
「気分転換も必要かと思いまして」
「あなた最近、変わったわね。何かあったの?」
エリザベスの問いには、さりげなく肩をすくめて答えた。
「特に。ただ、視点を変えてみようと思っただけです」
「視点?」
「人は見る角度によって、まったく違って見えるものですから」
エリザベスの表情が一瞬こわばった。
「そう。面白い考え方ね」
しばらく社交的な会話を交わした後、エリザベスは少し身を乗り出し、声を低めた。
「実は、今夜はあなたにお願いがあるの」
「お願い、ですか?」
「私たちの間には誤解があったと思うの。もっと親しくなりたいわ。夜会の後、私の個室でゆっくり話しましょう」
これは罠だ。ハインの警告が頭をよぎった。
「喜んで」
それでも、私は笑顔で答えた。罠だとわかっていても、立ち向かうしかない。
夜会は予想以上に長く感じられた。貴族たちとの会話、ダンス、食事——全てが終わるのを待ちながら、私はポケットの赤い石を何度も触って確かめていた。
そして深夜、客人のほとんどが帰った後、エリザベスが私に近づいてきた。
「さあ、行きましょう」