第1話:死刑宣告から始まる転生
「今日、貴女は処刑されます、クラリス様」——私がこの世界で最初に聞いた言葉は、自分の死刑宣告だった。
目を覚ますと、見知らぬ天蓋付きのベッドに横たわっていた私の体は、ゲームの悪役令嬢そのものだった。
脈拍が耳元で鳴り響く中、とっさに口から漏れたのは——「私、本当に転生してしまったの?」
見知らぬ天井。豪奢な調度品。そして、私の隣で静かに待っている何人もの侍女たち。
「お目覚めですか、クラリス様」
侍女長らしき年配の女性が丁寧に頭を下げる。
クラリス?
私の名前は藤堂美咲のはずだ。28歳、ゲーム会社のシナリオライター。昨日まで締め切りに追われてオールしていた記憶がある。
でも、この体は違う。鏡に映る自分は、金色の巻き毛と碧眼を持つ、西洋人形のような美しい少女だった。
「……!」
その刹那、全てが一気に理解できた。ここは私が手がけていた乙女ゲーム「永遠の約束」の世界。そして私はその中の登場人物、クラリス・フォンティーヌになっている。
公爵令嬢で、ゲーム中では主人公を苦しめる悪役。最後は魔王との共謀が暴かれ、処刑される運命の女性――。
《処刑? この私が?》
冷や汗が背筋を伝った。ゲームのシナリオを書いた私にとって、クラリスの最期は既に確定していた。彼女は美しく、プライドが高く、そして残酷。主人公を陥れるために魔王と手を組み、最後には魔王にも裏切られ、無様に処刑台の露と消える。
私が書いた物語の中で、最も哀れな結末を迎える女性。
「クラリス様、本日は王宮での茶会がございます。エリザベス王女様からの招待状です」
侍女長の言葉に思考が現実に引き戻される。エリザベス王女――彼女がゲームの主人公だ。優しく聡明で、魔力も高い理想的な王女。そして、私が最も忌み嫌う設定の相手。
「…わかりました」
とりあえず状況を理解するため、侍女たちの世話を受け入れることにした。着替えを手伝ってもらいながら、頭の中で状況を整理する。
ゲームの中盤、クラリスが魔王と接触する前の時期のようだ。まだ主人公との関係も決定的に悪化していない頃。つまり、運命を変えるチャンスがある。
「このままではクラリスとして処刑される…」
小声で呟いた言葉に、侍女が不思議そうな顔をする。
「何かおっしゃいましたか?」
「いいえ、なんでもありません。今日の茶会、しっかり準備してちょうだい」
心の中で決意を固める。絶対に原作通りの結末は迎えない。運命を変えてみせる。
でも、どうすれば悪役令嬢の処刑という運命から逃れられるのだろう?そして、このゲームの世界で私を待っているのは一体何なのか——?