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アオイさんのノート ——その4

先輩方の埋めたタイムカプセルを勝手に掘り返す……なんて許可が取れるわけもないので、俺は「生徒会による中庭の再生計画」というプロジェクトをでっち上げることにした。

「正門付近の中庭は長年に渡ってまともに管理されておらず、雑草の生い茂る空閑地となっており――」などと問題を提起し、長ったらしくてそれっぽい計画書を作成。要約すると「花壇を作るので中庭を掘り返させてくれ」と学校側に要求したのである。


「……そんなことで本当に許可が取れちゃうものなんですね」

「取れちゃったなぁ。これが日頃の行いってやつよ」


爆速で計画書をこしらえたのが一昨日。校長先生にプレゼンして許可が下りたのが昨日。そして今日、俺たちは園芸部から借りたシャベルを携えて中庭に立っている。

なにがなんでも許可を勝ち取るつもりではいたが、正直こうもスムーズにいくとは思っていなかった。校長先生は一も二もなく「是非やってくれ」というような対応だったから、荒れ果てた中庭は学校側にとっても悩みの種だったのだろう。


「なんにせよ中庭を掘り返す許可は得た! あとはタイムカプセルが出るまで掘って掘って掘りまくるぞ!」


土曜日の午前中。授業はないが部活生のために学校は開放されている。今日は夕方の閉門時間まで、俺たちは地道に中庭を掘り返していく予定だ。

お目当てのタイムカプセルが中庭のどこに埋まっているのか、正確なところはわからない。中庭は上から見るとゆるやかな台形で、広さはおよそテニスコート二面分。かつて芝生が張られていたという土壌は、今やすっかり雑草畑と化している。

このプチジャングルからたったひとつのタイムカプセルを掘り返すのはなかなか骨が折れそうだ。しかし時間はたっぷりあるから、きっと見つかるはずだと信じる他ない。


「さすがに草が多いな。掘り返す前に草刈りから始めたほう……が……」


ふと隣を見ると、隠神はすでに穴を掘り始めていた。足元は雑草だらけでシャベルを突き立てるのも難儀するレベルなのだが、隠神はまるでプリンを削るように穴を広げていった。ざっく、ざっく、と土が積みあがっていく様が見ていて心地いい。


「……前世、ショベルカーか何か?」

「さぁ? 私に前世があるとすれば"美の女神"とかじゃないですかね」


一応、俺も地面にシャベルを突き立ててみる。足で押し込めばなんとか刺さるが、雑草の束に邪魔されて上手く掘り返すことができない。

肉体労働における俺と隠神の戦力差は歴然だった。呪いがどうとかはさておき、普通に隠神に任せておけばよかったんじゃないかという気がしてくる。


「ほらほら和泉ちゃん、早く手を動かさないと日が暮れてしまいますよ」


やっぱり一人で作業しててくれ、なんて今さら言えるはずもなく。微力も微力ながら、俺も地道に穴を掘り始めた。


「縦に1000メートルくらい掘れば出てくるでしょうか」

「温泉でも掘り当てるつもりか?」

「でも実際、タイムカプセルってどれくらいの深さに埋まってるものなんでしょう」

「埋めた人の匙加減だから確証はないが……たぶん、そんなに深く埋められてはいないと思う」

「どうしてです?」

「目印がないからな」


タイムカプセルを埋めるなら、掘り返すときのことも想定しておかなければならない。

つまり「どこに埋めたか」を一目でわかるようにしておくのがベターだ。例えば大きな木の根元や、銅像の近く、そういった不変的な目印の近くに埋めておけば数十年後経っても見つけやすい。

ところがこの中庭には目印になりそうなものが存在しなかった。タイムカプセルを埋めた直後には看板か何かを立てておいたのかもしれないが、今となってはその痕跡すらも見当たらない。

イタズラで引っこ抜かれたか、台風で飛ばされたのか……なんにせよ、DIYの立て看板じゃ耐久年数はたかが知れている。埋めた人たちも、それくらいのことは予想していたはずだ。


「あまり深く埋めると探し当てるのも難儀だからな。大した目印もなく埋めたってことは、簡単に掘り返せる程度の穴しか掘らなかったってことなんだろう」


あとでちゃんと掘り返す気があったなら、の話だが。

当時の卒業生が"アオイさんのノート"を封印するつもりで埋めたのだとすると、タイムカプセルがとんでもない深さに埋められている可能性は否めない。


「とはいえ、あんまり浅すぎると大雨なんかでタイムカプセルが露出する可能性もあるからな。1メートルくらいは掘り下げたとみるべきだろう」


地下1メートル程度を目途にして中庭を掘り進めていく。隠神が穴を五つ掘る間にようやく一つというペースではあったが、俺も地道に捜索を続ける。

予想していた以上の重労働だ。夏本番というにはまだまだ早いが、太陽光が白い矢となって全身を突き刺してくる。シャベルを振るたび、汗が土くれと共に弾けていった。


「あ゛ーーー……暑ぢぃーーー……なにが悲しくてこの炎天下で穴なんか掘ってんだ俺らは」

「まぁたしかに。これだけ苦労して、出てくるのが呪物だとしたら割に合いませんねぇ」

「せめて金銀財宝でも埋まってろって話だ」

「案外、タイムカプセルの中身は大判小判がざっくざくってやつかもしれませんよ」

「知ってるか隠神。日本の法律じゃあ、掘り当てた金銀財宝は遺失物扱いになるから所轄の警察署に届けないといけないんだぞ。これを怠れば遺失物横領の罪に問われる」

「なんと。トレジャーハンターに厳しい国ですねぇ」


とか、そんなことはどうでもよくて。この炎天下のせいもあり、モチベーションが上がらないのは大問題だった。


「だいたい事情が事情でなきゃ、呪物の発掘作業なんかしたくないんだよ俺は。正直、地雷原を掘り進めてる気分だ」

「やる気を出すために勝負でもしますか。先に見つけたほうがご褒美って感じで」

「いいけど、現金を賭けるのはダメだぞ。賭博罪になっちゃうからな。ギャンブラーにも厳しいんだ、日本は」

「真面目ですねぇ。それじゃあ、負けたほうがご飯を奢る、というのはどうです?」

「まぁ、そのくらいなら。じゃあ俺が先にタイムカプセルを見つけたら、隠神の奢りで牛丼な」

「いいでしょう。では私が先に見つけた場合、和泉ちゃんは毎朝私に味噌汁を作ってください」

「その要求って"奢り"のカテゴリで合ってる?」


ひたすらに掘り返し続けて二時間ほどが経過した。隠神が掘った穴は塹壕のように中庭を侵食しているが、タイムカプセルはいまだ見つからない。

お昼時になると周辺に人通りが多くなってきた。体育館や運動場で練習に打ち込んでいた部活生たちが昼食を買うために出入りするからだ。買ってきた弁当を中庭近くのベンチで広げる生徒たちもいて、一心不乱に土を掘り返す俺たちを遠巻きに観察しているようだった。


「腹減ってきたな。俺たちも休憩にするか?」

「けれど二人して汗だくの土まみれじゃ、昼食も買いに行けませんね」

「それもそうか。着替えを用意しておくべきだったな」

「いったん家に帰ってマイクロビキニに着替えてきます?」

「いったん家に帰るならマイクロビキニじゃない服に着替えような」

「似合うと思うんですけどねぇ、和泉ちゃん」

「しかも俺が着る想定なのかよ」


そのとき、ベンチで昼食を取っていた女子生徒から「会長のマイクロビキニ見たーい」とヤジが入った。反射的に「着るわけあるか!」と返事をしたら、周りの生徒たちがどっと笑い声をあげた。

なんだか最近、隠神と一緒にいると周囲に笑われることが増えてきた。嘲笑されている……という感じでもないのだが、周りの反応が変わってきているのはたしかだ。俺が以前ほど後輩に敬われなくなった気がするのはさておき、隠神に対する畏怖が薄まってきたのは良い兆候である。


「……ちょっと印象が変わったからかな」

「なにがです?」

「お前の印象が変わったって話だよ。やっぱユウレイラジオの影響か?」

「影響はあるかもしれませんね。なにしろDJユウレイは私の憧れですから」


隠神がユウレイラジオを聴き始めたのは昨年の十月ごろからなのだそうだ。言われてみれば、隠神が軽口を叩くようになったのはその頃からだったような。


「DJユウレイの考え方に感銘を受けたんですよ。先日の放送でも言ってたでしょう、世の中に"楽しい"の総量を増やしたい、って」


世の中に"楽しい"の総量を増やしたい。それはDJユウレイが放送中にときどき口にする言葉だった。

この世界には数えきれないほどの悲しみや憎しみがあって、残念ながら個人の力でそれらすべてを消し去ることはできない。しかし世界に"楽しい"を増やすことは誰にでもできる。

馬鹿な話で誰かを笑わせること。人の心を震わせる作品を作ること。大切な人と一緒にいること。方法はいくらでもある。誰もが自分にできる形で"楽しい"の総量を増やしていけば、悲しみや憎しみは、無くせなくとも薄まっていく。DJユウレイはそう主張していた。

そして彼の信念が隠神を変えてくれたのだ。以前にも増して無茶苦茶言うようにはなってしまったが、俺は今の隠神がけっこう好きだった。俺の友達を良い方向に導いてくれたDJユウレイには感謝の念しかない。


「もしDJユウレイに会えたらお礼を言いたいんです。アナタが増やしてくれた"楽しい"のおかげで、私は毎日幸せですって」

「本当にユウレイラジオが好きなんだなぁ」

「世界一好きですよ。焼きそばパンと同じくらい」

「焼きそばパンのランク高いな」

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