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皮削ぎビリィちゃん ——その6

"皮削ぎビリィちゃん"騒動の翌日。七時限目の授業を少しばかり早く抜け出した私は、二年二組の教室前に張り込んでいた。

終業の鐘が鳴るのと同時に、私は「ごめんあそばせ! 蟷螂坂えちごさんはいらっしゃいますでしょうか!?」と教室の扉を開ける。我が圧倒的な美貌に気圧されてか、後輩たちが一斉にざわめく。


「い、隠神センパイ!? どうしたんすか急に……」

「いましたね。よし、それじゃあ行きましょう」

「へ? 行くってどこに……?」

「決まっているじゃあないですか。親睦を深めに、ですよ」


蟷螂坂えちごは大層訝しんでいた。それはそうだろう。私と彼女は、和泉ちゃんという共通の知人で繋がっているだけ。友達の友達、という気まずさの象徴のような間柄なのである。

誤解なきように言うが、私はべつに彼女を嫌っているわけではない。彼女に怖がられているのは知っていたが、それは私にとってはよくあることで、今さら気にも留めるほどのことでもなかった。


「ま、そう邪険にしないでくださいよ。私はアナタと仲良くなりたいだけなんですから」

「仲良く……っすか?」

「ええ。さしあたってはお茶会でもどうかしら、と思って誘いに来たわけです」

「アタシ、お茶会の作法とかよくわかんないっすけど」

「私も知りません。まぁ麦茶でもグビグビ飲めば、お茶会っぽい雰囲気にはなるんじゃないですか、たぶん」

「野球部の練習後っぽい雰囲気になると思うんすけど!?」


蟷螂坂えちご渾身のツッコミに、二年二組のそこかしこから笑い声が漏れた。私の登場で張りつめていた空気が一気に和らいだのを感じる。

彼女がどれだけクラスで信頼され、慕われているかが、このやり取りだけでよくわかった。今まで積極的に関わってはこなかったけれど、本質的に良い子なんだろうな、と思う。


「……いやホント、いきなりどうしたんすか。アタシと仲良くなりたいだなんて」


ちゃちゃっと荷物をまとめて教室を出てきた蟷螂坂えちごと並んで廊下を歩く。彼女はひとまず観念して着いてきてくれたが、まだ戸惑いを隠しきれずにいた。


「私もそろそろ、和泉ちゃん以外のお友達を増やそうと思いましてね」

「はぁ。つまりアタシをお友達候補にしてくれたってわけっすか。それは……光栄っすけど」

「そうです、蟷螂坂えちごさん――いえ、お友達というからには、もっと砕けた呼び方をしたほうがいいでしょうか」

「まぁ、好きに呼んでくださって結構っすよ」

「じゃあ『えちごっち』と『えちごザウルス』、どっちがいいですか?」

「巨大トカゲ扱いはちょっと……じゃあ、えちごっちで」


ふむ、えちごっちか。自分で提案しておいてなんだけれど、ちょっと口慣れないな。それでも言い続けていれば、いつかは馴染んでくるだろうか。


「では、えちごっち。ここらで一発ガールズトークでもブチかましておきますか。えちごっちは好きな人とかいるんですか?」

「距離の詰め方えぐいっすね。いや、まぁ……アタシだってそりゃあ、好きな人くらい」

「ほう。相手の名前は? 年齢は? 年収は?」

「ちょ、掘り下げ方がキュレーションサイトすぎる」


難しいな、ガールズトーク。

せっかく赤々熊ちゃんにやり方をレクチャーしてもらったのに、私がやるとどうにも尋問みたいになってしまう。


「……っていうか隠神センパイこそ、会長のことが好きなんじゃないんすか?」


蟷螂坂えちご――ああ違う、"えちごっち"が唇を尖らせて、そう聞いてきた。

ちょうどガールズトークの進め方に苦心していたところだから、彼女のほうから話題を振ってくれるのは非常に助かる。


「私は和泉ちゃんのこと大好きですよ。焼きそばパンと同程度には」

「いや比較対象……せめて『友達として好き』とかじゃダメだったんすか」

「もちろん友達として好きですよ。和泉ちゃんも、焼きそばパンも」

「焼きそばパンも!?」


これは照れ隠しでもなんでもなく、私の本心である。私は和泉ちゃんが好きだが、それは異性に向ける好意とは違う。


「私、馬鹿みたいなものが好きなんですよ。ほら、焼きそばパンってなんか、カロリーとか食べ合わせとか無視してウメェもん詰め込みました、みたいな馬鹿っぽさがあるじゃないですか」

「べつに焼きそばパンが好きな理由はどうでもいいんすけど……第一、その理論だと会長のことも『馬鹿だから好き』ってことになっちゃいません?」

「合ってますよ。和泉ちゃんって、すっごい馬鹿じゃないですか。だから大好きなんです」

「会長、入学以来ぜんぶのテストで学年一位だって聞いてるっすけど」

「ふふふ、そんな点数がとれるのに椰子木高校なんかに入学しちゃってる時点で進路間違えてるじゃないですか。ここの偏差値、私が入学できる程度ですよ?」

「うわ、正論だぁ」


そう、和泉ちゃんは馬鹿なのだ。成績の良さは関係ない。馬鹿真面目で、馬鹿正直で、馬鹿みたいに優しい。それが白蔵和泉という男だ。

中学時代から彼のそばにいる私が太鼓判を押そう。和泉ちゃんは空前絶後の馬鹿だ。すさまじくものすごくとんでもない大馬鹿だ。彼のうんざりするほどの馬鹿さ加減に、私はどれだけ救われてきたことか。


「……ちょっと、和泉ちゃんのお馬鹿エピソードをお話しましょうか」


それがガールズトークに相応しい内容なのかはわからなかったけれど。私は和泉ちゃんのことを、彼女に知っておいてほしかった。

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