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生者を笑うモノ ——その8

放課後、俺たちは特殊教室棟の裏手にやってきていた。ニラにトマトにエンドウマメ。園芸部が育てた野菜がみずみずしく畑を彩っている。

英語の授業をサボって行った調査では"生者を笑うモノ"の現象を確認することができたが、そのカラクリまでは解き明かせなかった。しかし隠神がなにか閃いたらしく、その日のうちに検証を行うことになったのだ。


「そろそろ詳しい話を聞かせてくれるか、隠神」

「ロボットのように頑強、それでいてすくすくとたくましい子に育つように、すくすくロボマッチョ三世の名を与えました」

「金魚の名前の由来についてではなく。……まさかお前、俺をからかうためにこんなところへ呼び出したんじゃあるまいな」

「ふふふ、そのまさかですよ!」

「そのまさかだとしたら帰らせてもらうが?」

「冗談です。そのまさかじゃないので帰らないでください」


隠神は「本題はこっちです」と人差し指を上に向けた。特殊教室棟を見上げてみると、屋上の端から女子更衣室の屋根が少しだけ覗いていた。


「そういや、この上がちょうどプールになってんだな」

「よくできました。10ポイント差し上げましょう」

「なんだそのポイント。何に使えるんだ」

「1000ポイント貯まったら私と結婚できます」

「ポイントの失効を待つばかりだな」

「あらあら、照れちゃって可愛いですね。990ポイント差し上げます」

「貯まっちゃったよ」


とまぁ馬鹿な話はそれくらいにして。隠神には本題とやらを説明してもらおう。


「私の推理によるとですね。あの笑い声がしたとき、やっぱり屋上には人がいたと思うんですよ」

「だけど屋上への出入口は俺たちが見張ってただろ?」

「そう! つまり犯人は出入口を使わずに屋上から脱出したということ! そしてその方法が……これです!」


ジャジャーン! と効果音が聞こえてきそうなほどオーバーな動きで、隠神は特殊教室棟の壁面を示した。

これといって変哲のない校舎の壁だ。ぽかんとして「……どれ?」と尋ねると、隠神は首を振って「やれやれ……こんな簡単なことに気づかないとは頭脳派が聞いて呆れます。マイナス1000ポイントです」と言った。どうやら婚約は破談になったらしい。


「いいですか和泉ちゃん。犯人はこれを使ったんですよ」


隠神がここんと叩いたのは、壁面に取り付けられている金属製の排水パイプだった。見れば、ところどころに錆が浮いたその排水パイプは屋上まで一直線に伸びている。


「まさかとは思うがお前、『犯人はこのパイプを伝って一階まで降りたんです!』とか言うなよ」

「ふふふ、そのまさかですよ!」

「そのまさかだとしたら帰らせてもらうが?」

「あれ? 今度は冗談でも何でもなかったんですけど?」


いっそ冗談であってくれよ。我が校のプールは特殊教室棟の屋上、階数にして四階相当の場所にあるのだ。

たしかに排水パイプは屋上から一階まで繋がっているが、命綱もなしにこれを伝って降りてくるなんて正気の沙汰ではない。


「第一、そいつらはどうやってプールに侵入したんだよ。降りるのも命懸けだけど、登るのは輪をかけて難しいだろ」

「え? だからパイプをよじ登って侵入したんですって。行きも帰りもパイプを使えばいいだけじゃないですか」

「いや無理だろ。プールは屋上だぞ。あんなとこまで登れる学生がいるか。チンパンジーじゃねぇんだから」

「いやいやいや、できますって絶対。見ててくださいよ?」


あっけらかんとそう言うと、隠神はひょいと排水パイプに飛びついた。

それから当然のように登っていこうとするものだから、俺は慌てて隠神の腰を抱きとめた。


「待て待て待て! なにやってんだお前! 危ないだろ!!」

「あぁ、うっかりしてました。たしかにスカートのまま登ったら和泉ちゃんにパンツを見られちゃうところですね。危なかった」

「そんな心配はしてないの! こんなとこから屋上に登ったら! 危! ない! よ! って言ってんの!!」


渾身の注意を聞いているのかいないのか、隠神は涼しい顔をしてするりと着地した。


「まったく、油断も隙もないんですから」

「こっちのセリフだわ」

「でも私、これくらいなら本当に登れますよ?」

「お前が登れても、普通の人に登れなきゃ意味ないの。それにホラ、見てみろ」


排水パイプを掴んで強めに揺らしてみると、上からパラパラと錆の粉が降ってきた。パイプそのものは頑丈そうだが、留め具が錆びて外れかかっているのだろう。

その上、排水パイプの一部パーツは脱落していた。壁の留め具痕からみて、本来このパイプは地面スレスレの位置まで伸びていたことがわかる。しかし今は下部のパーツが外れてしまっており、地上1メートル程度の位置で途切れてしまっているのだ。


「こんな老朽化したパイプ、体重かけたらすぐぶっ壊れるぞ」

「なるほど……じゃあ登るのはやめたほうが無難ですね」

「残念ながらな」

「お、やっぱり残念でした? 私のパンツが見られなくて」

「そういう意味じゃねぇよ」

「はー……やれやれ、これだから男子は。男はオオカミとはよく言ったものです」

「壁登ろうとしたチンパンジーに言われたくねぇよ」

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