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01 - ひよっこ領主、誕生



 ――両親の葬式に、“魔女”が現れて告げた。



「あなたの父親は別の世界の男爵家に長男として生まれ、この世界に駆け落ちしたのよ、チカ」



 美しいブロンドの髪、人の生き血を啜ったような真っ赤な瞳。

 見るからに“日本人ではない”魔女は、真っ赤なルージュを引いた唇で笑う。



「私はエヴァ・ダリ。あなたを迎えに来た魔女」



 そうして魔女はこちらに手を差し伸べてきた。

 ――数日前、突然の事故で両親を亡くした。親戚はおらず、一人残された娘である私も大学一年生で経済力がなかったため、参列者が少ないこぢんまりとした葬式になった。

 そんな中、突然現れたのがエヴァ・ダリと名乗った魔女のような女性だ。

 私の両親が異世界で生まれた? この世界に駆け落ちしてきた?

 到底信じられない荒唐無稽な話なのに、私は心のどこかでその話を信じてしまった。――自分の“日本人らしくない”容姿に十年以上悩まされてきたからこそ、納得してしまったのだ。


 私は生まれながらにしてほぼ白銀に近いホワイトブロンドの髪を持っていた。それだけではない。肌は焼いてもいないのに小麦色で、瞳の色は亡くなった父曰く『朝焼けを閉じ込めたようなブルーとピンクのグラデーション』。

 どこからどう見ても異国の血を引いているのに、名前は小倉おぐら千佳チカ。派手な髪色を指さされ、小麦色の肌をチャラいだとかギャルみたいだとか笑われて、瞳の色は褒められることが多かったけれど、生まれ持ったものだと主張しても誰も信じてくれなかった。

 ――もし、私のルーツが日本ではなく“異世界”にあったのなら、この“日本人らしくない”容姿にも納得がいく。

 私は改めて魔女に向き直る。そして夢見心地のまま問いかけた。



「魔女が、どうして私を?」



 エヴァ・ダリと名乗ったこの魔女はいったい私とどういう関係なのだろう。

 色素の薄い髪色という共通点があるが、まさか血縁者だろうか? それとも白銀やブロンドはこの世界でいう黒髪のようなスタンダードな髪色だったりして?

 ――このときの私は、突然現れ、長年の悩みを解消する都合のいい“御伽噺”を語る魔女に、すっかり心が浮ついてしまっていた。その上両親を亡くし、これからどうやって生きていこうかと不安に押しつぶされそうになっていたところに、優しい微笑みで手を差し伸べられたのだ。

 だから私は愚かなことに、疑うことを忘れてその美しい手を取ってしまった。



「あなたに領主になってもらいたいのよ」



 魔女はそっと囁く。

 ――領主?

 耳慣れない単語に首を傾げた瞬間、強く手を引かれて前につんのめる。するとすかさず下から掬い上げるように両肩を掴まれて、そのまままるで氷の上を滑っているような不自然な動きで、私は扉をくぐった。

 視界に飛び込んできたのは豪勢なシャンデリア。一面ガラス張りの壁からは青々と生い茂った森を見下ろすことができる。足元には上品な赤いカーペットが敷かれていて、高校生の間に散々履き潰した黒のローファーが不釣り合いだった。



「ここがあなたのご両親が生まれ育った世界よ、チカ」



 魔女が笑う。

 にわかには信じられない話だが、どうやら私は“異世界”へと足を踏み入れてしまったようだった。



 ***



「つい先日、あなたの祖父――アマンド・オーグ男爵が亡くなったの。体の頑丈さと頭の頑固さだけが取り柄の男だったのに、風邪を拗らせてぽっくり」



 豪華なシャンデリアの下で、上品なアンティークソファに腰かけて、香り高い紅茶と共に、私は自分の本当の生い立ちを魔女から聞かされていた。

 早くに亡くなったと両親に教えてもらった祖父はどうやらついこの間まで生きていて、名をアマンド・オーグと言うらしい。姓の後に“男爵”とつくことからして、貴族だったのだろう。

 まさか自分が異世界の男爵の孫だとは思いもしなかった。――と同時に、こんな非現実的で自分に都合のいい話が本当にあるのかと、今更ながら冷静な思考が帰ってきた。

 先ほどは熱に浮かされたような心地で思わず魔女の手を取ってしまったけれど、実は異世界の貴族の孫でした、なんて、御伽噺でも見たことがない展開だ。質素な葬式会場から一瞬で豪勢な屋敷に連れてこられた以上、異世界の存在を疑うことはできないけれど、果たして本当にアマンド・オーグ男爵が私の祖父なのかという疑問は残る。

 目の前の女性は私を迎えに来た良い魔女ではなく、身寄りのない異世界の子どもを騙す悪い魔女かもしれないのだ。



「アマンドはとある町を一つおさめる領主だった。本来であればアマンドの息子――あなたの父親が後継者になるはずだったのに、彼は二十年ほど前に駆け落ち済み。その上、アマンドと同じ時期に事故で亡くなってしまった」



 魔女はため息を飲み込むように紅茶に口をつける。

 だんだんと話の行く先が見えてきた。



「だからアマンドの孫であるあなたに領主になって欲しいのよ、チカ」



 宝石のような真っ赤な瞳に射抜かれて、胸の内で不信感がむくむくと膨らむ。

 彼女の話が真実だという確証がない。証拠もない。それなのに態度と表情だけやけに真摯で、甘く夢のような話で誘い出されているような気がしたのだ。

 もしここで頷いてしまったら、怪しい魔女の儀式に生贄として捧げられたり――

 あらぬ方向に膨らむ妄想を振り払って、とにかく証拠を求めようと毅然とした態度で問いかけた。



「ちょっと待ってください。私の祖父が異世界の領主? 父が駆け落ち? ……信じられません」



 すると魔女は余裕に満ちた笑みを浮かべ、一枚の写真を差し出してくる。



「これでも?」



 ――写真に写っていたのは、まだ幼さが残る青年姿の父と母だった。



「な……」


「あなたの両親はこの屋敷で出会ったのよ。お母上がここのメイドだったから」



 差し出された写真を手に取ってまじまじと眺める。写真の中の両親は肩が触れるか触れないかの微妙な距離感を保ったまま、それでも互いを意識しているのか、頬を赤らめてはにかんでいた。

 じわり、と眦に涙が浮かぶ。つい先日、電話口で聞いた楽し気な母の声が鼓膜の裏に蘇る。

 ――どうして私を置いて二人で死んでしまったの? これから私はどうすればいいの? 本当に二人は、この世界で生まれたの?

 写真に写っているのは間違いない、私の両親だ。例え父がフリフリの貴族らしい服に身を包んでいようと、母がクラシックな丈の長いメイド服に身を包んでいようと、見間違えるはずもない。


 この世界で父と母は生まれて、貴族とメイドという許されない関係であったため、異世界に駆け落ちした。


 徐々に私は魔女の話を信じ始めていた。否定しきれなくなった、と言った方が正しいかもしれない。

 そんな私の心の内を魔女は見透かしたのか、満足気に微笑んで立ち上がった。そして一面ガラス張りの壁に近寄ると私を手招きする。

 私も椅子から立ち上がって魔女の隣に立った。すると彼女がある方向を指さしたので、その先に何があるのかと目を凝らす。

 改めてガラスの向こうに広がる景色を見るに、屋敷は小高い山の頂上に建てられているようだった。下には青々とした森が広がっているのだが、魔女が指さした先に、森と崖の隙間を切り拓くようにして建物が建てられているのが見える。



「あそこに見えるのがあなたの祖父、アマンドに任せていた町」


「任せていた?」


「アマンドは私の部下だったの」



 男爵である祖父を部下と言った魔女にぎくりとした。男爵の上司ということは、当然彼女はそれより上の立場にあるということになる。

 これほど大きく立派な屋敷に住んでいることや、その優雅な言動から高貴な身分にあるのだろうと思ってはいたが、祖父の上司となるとただの貴族同士の関係とは話が変わってくる。私はとても失礼で不遜な態度をとっていたのではないか――



「あなたは……」


「エヴァおばさまとでも呼んで頂戴。名前で呼ばれるのが好きなの」



 萎縮する私に魔女――“エヴァおばさま”は自身の身分を明かすことなく微笑んだ。

 改めて祖父が任されていた町を見下ろす。ここから見ると、そこまで大きな町には見えない。しかし大きさはあまり関係がないのだ。一つの町を任されるということ自体、私には荷が重すぎる。

 私はもうすぐ十九の誕生日を迎えるただの少女だ。外見から「チャラい」「遊んでそう」などと誤解されることが多く、その誤解を解くために学級委員を自ら買って出ていた影響でクラスをまとめることには慣れているけれど、クラスと一つの町では規模が違いすぎる。そもそもこの世界では元の世界の常識が通じるかも怪しいし、いくら前の領主の孫とはいえ、私に任せるなんて“エヴァおばさま”も不安ではないのだろうか。



「別の世界で育った私に領主が務まるとは思えません」



 言外に断ったつもりだった。しかし“エヴァおばさま”は美しい微笑みを崩さず、私の眼前に手のひらをずいと近づける。

 祖父の上司というからにはそれなりの年齢のはずだ。しかし彼女の顔にも手のひらにも、高齢女性らしい皺は一本も刻まれていない。だからといって二十代のように若々しく見える訳でもなく、一言で言うならば年齢不詳。まさしく“魔女”と称するに相応しい不思議な女性だった。

 “エヴァおばさま”は目の前で小指と薬指を折りたたんで、こちらに“三”という数字を示してみせた。



「三ヶ月だけでも試してみない? それでも無理だと言うのなら諦めるわ」



 にわかに不信感が顔を出す。ちょっとだけでいいから試してみないか、すぐにやめられるから、なんて人を騙すときの常套句だ。

 信じかけていたが、先ほどの両親の写真だってまだ疑う余地はある。異世界に移動できる手段がこの世界にはあるのだ、写真の捏造なんてお手の物ではないか。

 私は騙されてなるものか、と頑なな態度で言葉を返す。



「そもそも、あなたの話が本当だという確証がありません」


「ご両親の写真が何よりの証拠ではなくて?」


「あんな写真、いくらでも捏造できます。異世界に通じる扉があるぐらいですから」


「まったく、アマンドを思い出す頑なさね」



 魔女は困った子ね、と苦笑を浮かべる。

 私としては会ったこともない祖父に似ていると言われても、なんのことやらさっぱりだ。そもそもアマンド男爵が私の祖父ではない可能性もまだあるのだから。

 これ以上話を聞く気はないと意思表示するつもりで、私は体ごと後ろを向いた。そうすれば魔女は小さくため息をついて、



「チカ、あなたはね、あの世界に不法滞在していたのよ」



 先ほどまでとは一転、氷のように冷たい声で言った。



「ふ……?」


「駆け落ち先の異世界で、永住権を手にすることができると思う? 異世界という概念が存在しないあなたの世界でどうやって手続きをするの?」



 魔女は早口で捲し立てる。不安が背筋から駆けあがってきて、私は思わず振り返った。

 赤の瞳と目が合う。瞬間、全身を糸でからめとられたような感覚に襲われて、私は身動き一つとれなかった。蜘蛛の巣にかかった悲しき羽虫の気持ちが、今なら痛いほど分かる。




「全部不正にでっち上げたものに決まってるじゃない。駆け落ちしたせいで異世界に移住する際に必要な手続きも行っていないようだし、遅かれ早かれこの世界に“収容”されるわよ」



 確かに魔女の言う通り、日本で生まれた私はともかく、両親の戸籍はどう考えてもでっち上げたものだったのだろう。なにせ元の世界には異世界からの移住者に対する制度なんて一つもない。

 いや、でも、あの写真が偽装されたものだとしたら、私も両親も歴とした日本人のはずだ。不正な戸籍も存在しない。――本当に?

 あの写真は本当に偽物? 私のルーツは本当に日本にある? ホワイトブロンドの髪に、小麦色の肌に、朝焼け色の瞳という、日本人らしさが何一つない容姿をしているのに? この容姿のせいで受け入れられず、溶け込めず、苦労してきたのに?

 ――否定し続けるのもそろそろ限界だった。



「“収容”された罪人は、暗く冷たい監獄で一生を過ごすことになるのよ」



 お前は罪人なのだと魔女は冷たく突き付けてきた。そして罪人は、暗く冷たい監獄で一生を過ごすことになるのだと。――それを避けたければ領主になれと言いたいのだろう。

 つくづく自分は頑固で損な性分をしていると思いつつ、不正な取引を持ちかけられたことで、私は余計に魔女の甘言に頷きたくなくなってしまった。それこそ過去、この外見のせいで様々な“不正”をしていると勘ぐられたせいだろう。

 自分の身の潔白を証明するためにも、私は一度だって人様に顔向けできないような選択をしたことはない。それはもはや意地だった。外見だけを見てあらぬ噂を立て、私のことを嘲笑う、そんな“悪意を持った人たち”が私の腹を探っては何も出てこないと肩を落とす、その瞬間に一種の爽快感を覚えていたのだ。それ見たことか、人を見た目で判断するな、と見返してやったような気持ちもあったと思う。

 だから今回も、私は不正に塗れた魔女の手を取ろうとは思わなかった。



「父と母が罪を犯したというのなら、二人の罪も背負って、贖罪に一生を捧げます」



 高々と宣言するように言い切った。

 ――このとき、この瞬間の選択を、もしかすると数日後には牢屋の中で後悔しているかもしれない。しかしそれでも、魔女と取引をしたことを一生後悔するよりずっとマシだ。

 心からそう思っていたのだが。



「あぁもう! その真面目すぎて意地っ張りになる性格、直した方がいいわよ。アマンドそっくり!」



 魔女はがっくりと肩を落として叫んだ。かと思うとやってられないと言いたげに、今度は彼女が私に背を向ける。



「今のはただの脅し。別に牢屋なんかに閉じ込められないわよ。どうしても無理だと言うのなら生活の援助を約束した上で自由にさせてあげるから、三か月だけやってみなさい。いいわね?」



 ――生活の援助。

 それはこれ以上なく魅力的な提案だった。悲しいかなまだ学生の私には、どう頑張っても経済力がない。学費に生活費、その他諸々の出費をどうしようかと葬式の最中も頭を悩ませていたぐらいだし、もしこんな立派な屋敷に住む貴族から、援助を受けられたのなら。

 そのためには三か月間、ここで領主の“お試し”をすればいい。果して三か月後、本当に解放してくれるかは分からない。そもそも先ほどの“脅し”がどこまで嘘でどこまで本当かはっきりしない以上、元の世界で今まで通りに暮らせるのか甚だ疑問だ。

 それに――日本人らしくない容姿を揶揄われて泣いた私を抱きしめてくれた母はもういない。お前の髪も肌も瞳も綺麗だと優しく諭してくれた父もいない。もう誰も、あの世界で後ろ指を指される私を守ってくれない。

 これから元の世界で一人、生きていけるだろうか。領主になるにせよならないにせよ、こちらの世界で援助を受けながら暮らした方がよっぽど賢い選択なのではないか――



「明日は町を案内させるから早く寝なさい。リリィ!」



 まだ頷いていないのに、魔女は強引に話を打ち切った。

 彼女が呼んだのは屋敷のメイドだったようで、扉の前で待機していたのか、すぐさま入室してきた。かと思うと紳士のような動作でエスコートしてくれる。私はもう少し魔女と話して確認したいことがあったが、彼女はこれ以上会話を続ける気はないらしく、部屋の奥へと引っ込んでしまった。

 親を失い、今後の生活がどうなるか分からない現状からすると、魔女――“エヴァおばさま”の申し出はこれ以上なくありがたいはずだ。若干気がかりな点はあるものの、頑なになりすぎていた自覚はあるし、とりあえずは三か月、領主見習いをやってみるべきだろう。それからのことは、三か月後にまた考えればいい。

 心の中で結論付けて、気持ちを切り替える。そして案内してくれるメイドの背中を追った。



「チカ様のお部屋はこちらの廊下を曲がられて……」



 屋敷はどこもかしこも豪勢だ。それでいて派手過ぎず、上品さを損なっていない。

 美しい調度品の数々に目を奪われつつ、エスコートに従って突き当りの角を曲がったときだった。



「ナーシャ様!」



 メイドのリリィが咎めるような鋭い声を上げた。

 何があったのかと首を伸ばして彼女の肩越しに前を見やる。すると目の前に、抱きしめ合う男女の姿があった。

 正確には男性の胸元に女性がしな垂れかかっている。ナーシャ様と呼ばれた女性はボリュームたっぷりの豪華なドレスを身に纏っており、“エヴァおばさま”の面影を感じる目元を緩ませた。血縁者だろうか。



「あら、ごめんなさいね」



 “ナーシャ様”は体を起こして男性から離れた。そしてちっとも謝罪の意が感じられない声と表情で謝ると、そのまま私たちの横を通り抜けていく。

 残されたのは“ナーシャ様”にしな垂れかかられていた男性だ。彼は照明の光を反射するどころか全て吸収してしまいそうな、深く暗い漆黒の髪を持っていた。――私が喉から手が出るほど欲しかった、美しく自然な黒の髪。

 しかし彼の瞳は日本人とは違い、赤みがかったオレンジ色だった。夕焼けの色だ。そのことになぜだかほっとして、しかしすぐさま警戒心を高める。“ナーシャ様”とは違い“エヴァおばさま”の面影を感じられないこの男はいったい何者なのだろう。



「失礼」



 男は一言断りを入れて、“ナーシャ様”と同じように私たちの横を足早に通り過ぎていった。メイドのリリィがその背を目で追って「まったくもう」とため息をついたが、それ以上のアクションを起こさないのを見るに、屋敷に忍び込んだ不審者ではないのだろう。

 廊下でばったり会った見知らぬ男女のことをこれ以上考えるのはやめにして、案内された部屋のベッドに靴も脱がずに飛び込んだ。するとすぐさま眠気が襲ってくる。それだけ気を張っていたのだろう。



(お父さん、お母さん……)



 脳裏に浮かんだのは見慣れた両親の笑顔。そしてそこに重なる、“エヴァおばさま”が持っていた若い頃の写真。

 父と母が事故にあったことを聞かされた日、体中の水分がなくなる勢いで泣いた。そのせいで涙が枯れ果ててしまったのか、葬式のときにはもう一滴も出なかったのだが、眠気で霞む視界が潤んだのを感じた。

 この数日間のことがすべて夢だったらどれだけ良かっただろう。目を覚ますと見慣れた天井がそこにあって、母の声が私の名前を呼ぶのだ。私を迎えに来る魔女もいないし、異世界なんて存在しない。相変わらず誤解を向けられる息苦しい日々は続くけれど、それが私の“日常”だった。

 これからどうしよう。領主見習いなんて、ただの小娘にできるはずがない――

 未来への不安に押しつぶされそうになりながら、私は眠りに落ちた。



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