際どい水着を着たびしょ濡れの天使ヒナスタシア……軍神アレスvs.大天使ミカエル……ぶどう村の展望台
「ワンワンワン」
悪魔犬グラシャラボラスがものすごいスピードで吊り橋を走っていった
「ワンコ丸出しだな…」
俺は呟いた
よく見るとなぜか悪魔犬グラシャラボラスの背中にヒヨコの獣人が乗っている
「いつの間に仲良くなったんだよ」
俺は足がすくみ一歩が踏み出せないでいた
なかなかの高さがある吊り橋である
時折吹く強い風により木製の吊り橋は軋み異様な音を発していた
足元は1枚の板のみである
「お先に失礼」
そう言うとエルフの王女ソラファはスタスタ早足で歩いていった
あっ、謎の御者もソラファの後について行った
「ルキ、怖いわ…」
月の女神アルテミスが言った
不安な顔がまた可愛い
俺も吊り橋は怖かったが勇気を出してアルテミスに手を伸ばした
「さあ、アルテミス、行こう!」
アルテミスは俺の手を取り微笑んだ
「ええ」
俺とアルテミスは手を繋ぎ、揺れる吊り橋を渡り始めた
足元を見るとエルフ川が急流によりうねりを上げている
「アルテミス、俺を見て!前を向くんだ」
「分かった、ルキを見てるわ」
俺達は吊り橋の中程で見つめ合っていた
時間がゆっくりと流れていく
周りの音が消え怖さがなくなっていった
「ワンワンワン」
突然足元でグラシャラボラスの鳴き声がして俺とアルテミスは我に返った
「なんだよ、戻ってきたのか?」
俺が言うとグラシャラボラスは言った
「お取り込み中のところ失礼します
ルキ様、あそこをご覧下さい」
俺は今は小型犬のグラシャラボラスの可愛い手の指す方を見ると誰かが、この急流の中を泳いでいる
「こんな急流の中を泳ぐなんてすごいな…おーい!」
俺が叫ぶと俺の声に気づいたのか、その誰かが泳ぐのをやめ、こちらを見た
「あっ!」
そう言うとその誰かは突然白い羽を広げ羽ばたき始めたかと思うとこちらへ向かって飛んできた
「えっ!」
俺は目が点になった
際どい水着だったからだ
その際どい水着を来た誰かは俺とアルテミスとグラシャラボラスの前にそっと降り立った
びしょ濡れである
まあそれは当たり前か…
「ルキ様、こいつ天使ですよ」
「ああ、分かってる…」
俺はその天使を凝視していた
「痛っ」
俺はアルテミスに手を思いきりにぎられた
俺が後ろを振り返るとアルテミスの負のオーラがみなぎっていた
アルテミスはその天使に話しかけた
「あなたは、誰?」
すると天使は言った
「わ、私ですか?…私は今天使界隈で噂の可愛すぎる天使ことヒナスタシアで~す」
その瞬間、またアルテミスに俺の手は握りつぶされたのだった……
大天使ミカエルは最新式の小型空浮艦ココアサンドラ号で空のドライブを満喫していた
「やはり、最新式は快適ですね」
すると突然前方の窓の外に巨大な顔が現れたかと思った途端ガクンと船体が揺れ空中で止まったのを感じた
どうやらココアサンドラ号が大巨人によって掴まれたらしい
すると耳をつんざくような大きな声が聞こえてきた
「誰だ!私の可愛い娘ココアサンドラの小型空浮艦を盗んだやつは!!!」
それは軍神アレスであった
軍神アレスは本来の姿に戻ると身長が200メートル以上あるのである
軍神アレスは小型空浮艦ココアサンドラ号を掴んだまま船内をのぞきこみ犯人の顔を見ようとしている
「これは、困りましたね」
大天使ミカエルは落ち着いた様子で言った
が……そう言った次の瞬間にはもうココアサンドラ号は軍神アレスの手の中から消えていたのであった……
俺達は吊り橋を渡りきった
そこは辺り一面にぶどうの果樹園が広がっていた
俺達が歩き出すと可愛すぎる天使ことヒナスタシアも俺達の後をついてきた
悪魔犬グラシャラボラスはヒナスタシアの匂いを必死に嗅いでいる
しばらく行くと村の入口らしき所に着いた
「あっ!!!」
みんな同時に叫んだ
そこには月の女神アルテミスの銅像が立っていたのだった
俺達がまじまじとアルテミスの銅像を見ていると前方からぞろぞろと村の連中らしき1団がやってきてその中の長老らしき者が前に出てきて言った
「月の女神アルテミス様、ようこそぶどう村にいらっしゃいました、キコリのどデカい月ノ輪熊の獣人ムーンシャンの無礼をお許しください……私どもは貴方様の熱狂的な信者でらございます……今宵は宴をご用意致しております、どうぞゆっくりしていらしてください……ではどうぞこちらへ……あっ、天使様、いらしたのですか?では天使様もご一緒に……あっ、従者の方はあちらへ」
「誰が従者だ!」
俺は毎度のことで慣れているせいかキレの悪いツッコミを長老に放った……
ココアサンドラはオリンポス山の実家でダンゴムシはなぜ目が回らないかを研究していた……夏休みが終わればアルテミス神殿でアルテミスに課題を提出しなければならないからだ……自由研究である…ココアサンドラはダンゴムシと一緒になって丸まり高速でんぐり返しをやっていた
だが何回やっても目が回るココアサンドラであった……
森の中の開けた場所にある村はほのぼのとした雰囲気だった
周りには30メートルくらいの高い木で囲まれていた
エルフ川から水を引き大きな風車もあった
「歓迎会までどうぞ御自由に村を見て回ってください、案内はこの代々忍者の家系でムササビ獣人のシノビにさせますので」
長老が言うと忍者の格好をしたムササビ獣人のシノビは言った
「では、この村の展望台にご案内いたします、どうぞこちらへ」
俺達がシノビについて行くと村の周りの木々の中でも一段と高い木の前に案内された……木の高さは50メートルはありそうだ
「ではまいりましょう」
そう言うとムササビ獣人のシノビはまるで忍者のように木を登り始めあっという間に行ってしまった
俺は言った
「えっ、これどうやって木の上の展望台まで行くんだよ……」
するとエルフの王女ソラファが言った
「私に任せといて!」
ソラファはエルフの杖を取り出すとエルフ族が得意とする風魔法の呪文を唱えた
するとすぐに目の前に巨大な竜巻が現れたのだった
竜巻は木の上まで続いているようだ
ソラファは続けて何事か唱えた
すると俺達の目の前にあった竜巻に自動ドアが現れた……ソラファが先に入り俺達も後に続くと中は、らせん階段になっていた
俺達は竜巻の中のらせん階段を上がって行った
最初はみんなワーワーと楽しそうに上がっていたが途中から無口になった
そして50メートルの木の上の展望台に着く頃にはみんな疲れ果てていたのだった
景色は……最高であった
俺はそっとアルテミスの手を握った……
夕焼けが指しエルフ川が赤く染る……
逢魔時をこえたのかひんやりした風が俺達全員の頬を通り過ぎていった……
かすかに見える王都の先には高い山が見えた……




