深海城
「亀さん、いるーー?」
深海城行きの亀乗り場に降り立った俺は、海の中に首を突っ込み叫んだ
しばらくすると大きなウミガメがやって来た
「なんスか?」
「いや、ちょっと深海城に行きたいんだけど」
「お客さんですね、いいっスよ! 背中に乗るっス!」
俺は亀さんの背中に乗ると、息を大きく吸い込み、肺に酸素を目一杯取り込んだ……
それから2時間くらい経った頃、ようやくぼんやり深海城の看板らしき光が見えてきた
俺はホッとした……
そろそろ息が苦しくなってきた所だったからだ
深海城のそばまで来たところで俺は亀さんに手でありがとうのサインを送ると亀さんに別れを告げ自分で深海城まで泳いだ
深海城に着くと以前、俺と天使ミラにオシャレなラッピングを施した呪いのおみやげ箱を渡し、俺と天使ミラをドン引きさせたプリンセスオットー様が出迎えてくれた
「今回は、おひとりで……」
(ほっとけ!!!!!!)
俺は心の中で叫ぶと、うなづきプリンセスオットー様としばらく談笑したあと、ネクタル・コーヒー深海城店に向かった……
ネクタル・コーヒー深海城店の店内は天使ミラと来た時同様、鯛やヒラメが舞い踊って……いやいや、鯛やヒラメの半魚人の店員が応対してくれた
俺は深海のように真っ黒な、暗黒フラッペと暗黒ドーナツを買って、深海城を見渡せるラウンジに移動した
深海を見ながら食べていると天使ミラを思い出し涙が出そうだった……
「あれっ、きみ、大丈夫? 落ち込んでいるようだけど……」
声のした方を見ると、俺の席の近くに座っていた、いかついサメの半魚人が立っていた
「あっ、大丈夫です、ありがとうございます」
「それならいいんだけど……何があったか知らないけど元気だして! そうだ! 今年から一般客もスパが利用出来るようになったから行ってみたら?」
「はい、あとで行ってみます」
いかついサメの半魚人がラウンジから出ていくのを見送ったあと、急に俺は左から視線を感じたので左を向いた……
するとそこには俺を見つめる一人の女性がいた……しかも微笑んでいる
その女性はとにかくものすごい美人で、今までに見たこともないような美人だった……少なくとも俺がいた天界、魔界でも、これほどの美人は……いやいや、天界や魔界の女性に怒られそうだから言っとくけど、あくまで、悪魔の俺にとっては、と言うことだから……あっ、ダジャレじゃないよ……あれっ? 何話してたっけ? そうそう……とにかくその女性は光り輝く美しいオーラを放っていたってこと……実際、その女性はここで何かのパーティーがあるのか分からないけど、頭には宝石が散りばめられたティアラをつけて、豪華なドレス、豪華なアクセサリーで身を包んでいたのだから……
その女性は近づいてきて言った
「となり、よろしいですか?」
「はい? えっ、ど、どうぞ……」
その女性は俺の隣の席に座るとジィーっと俺のほうを見つめてきた
俺は照れながらその女性を見つめ返すと言った
「あ、あの……俺はルキって言います……あなたは?」
「私? 私はアルテミスよ」
「えっ、その美しさで、そのお名前……まさか、あの有名なオリンポスの女神、アルテミス様じゃありませんよね?」
「いえ、そのアルテミスです」
「えっ……」
俺は、びっくりし過ぎて何を喋っていいのか分からず、つい目に付いた事を聞いてしまった
「あの……そのティアラの散りばめられた宝石はなんて言うんですか?」
「あっ、これ? この宝石はブルームーンストーンよ」
「そ、そうなんですね……」
(ああ、変なことを聞いてしまったー)
それからしばらく俺も女神アルテミスも見つめ合ったまま、一言も喋らなかった
俺は女神アルテミスの、あまりの美しさに、うっとり見とれていると、女神アルテミスが言った
「ねえ、ルキさんは彼女いるの?」
「えっ、いませんけど……」
「良かった……じゃあ今度、そこのスパの温泉プールで一緒に泳がない?」
「えっ……」
女神アルテミスはドギマギしている俺をみて笑うと言った
「冗談よ、じゃあ私は時間なので、これで……あっ、私はアーサー王国のアルテミス神殿におりますから、是非いらしてくださいね」
「分かりました……是非お伺いします」
女神アルテミスがラウンジを出て行ったあと、俺もすぐに席を立ち、スパを見学するためラウンジをあとにした
スパの大きな入り口の前に来ると張り紙がしてあった
【このスパは深海城近くの深海底から湧く温泉水を使用しています
温泉、岩盤浴、サウナ、プール、フィットネス、ヨガ、マッサージなどの施設があり、あなたの心と体を癒してくれます
只今、ホテル建設中、近々併設予定です
尚、絶対に長期滞在してください!!!!】
「すごいな……ホテル出来たら、ホカンスに来ようかな……でも、なぜ、最後の一文だけ、圧が強いんだろう……」
俺がそう思いながらスパに入ろうとしたその時……意外な人物が現れたのだった……