大巨人ヒッポリュトス
俺たちの乗ったペガサス2頭立ての魔法の馬車は海岸の砂浜に降りた……
「さあ! どうやってコーチス王国まで行くかよね……このモモーナの地図によるとコーチス王国は大陸の南側にある大国だし……このまま魔法の馬車で飛んでいったらすぐに捕まっちゃうわよね」
月の女神アルテミスはそう言って魔法の馬車の中にあるテーブルの上に、南の大陸の地図を広げ、しばらく考えていたが、不意に聖女モモーナに言った
「モモーナ、現在地は、この地図でいうと、どのあたりかしら?」
「そうね、おそらく上空からみかんの森の広大な景色が見えたから、大体この辺りだと思うわ……」
モモーナがそう言って地図を指さすとアルテミスが言った
「じゃあ、そのみかんの森の中に大きな道路があるはずね……そしてその道を大陸中央に向かって進むんだ先に、大陸各地から中央に伸びる道の全てが交わる地点があって、そこのヘスティア神殿に【炉の女神】ヘスティアがいるわけね……」
俺は何気なく言った
「じゃあその道を通っていく?」
「はっ? そんなことしたらすぐにヘスティアに捕まるわよ」
何気なく言った俺の一言にアルテミスが苛立った声で答えた……
「じゃあどうするんだよ」
「モモーナ、他にルートはないの?」
「うーん、大きな川を通っていく選択肢もあるけど、見つかって調べられる可能性が高いわ……あっ、あとは、大陸をぐるっと1周してる大陸鉄道にトロッコ列車は走ってるけど……」
「トロッコ列車か……難しいわね……」
再び考え込んでしまったアルテミスに俺は言った
「道も川も鉄道もダメって……じゃあどうすんだよ」
「ルキ! せかさないでよ! もう……仕方ないわ……正面突破しましょう」
「えっ、どういうことだよ……」
「まあ、見てなさい!」
俺たちはアルテミスを先頭に魔法の馬車から降りた
綺麗な砂浜の上に立ったアルテミスは言った
「みんな、下がって!!!!」
俺たちが下がったのを見てアルテミスは、両手を海に向けて何事か唱えた……
すると辺りの風が急に俺たちの後ろからアルテミスが両手を向けている海に向かって吹き出した……
突然アルテミスの両手の先にある海の1点が光り出し、風が雲のように変化した
その雲は、海の光っている所に向けて吸い込まれていく流れから徐々に渦を巻いていった
そしてその渦が全て吸い込まれたかに見えた瞬間、ものすごい水しぶきと共に何かが、せりあがってきた
「頭?」
俺がそう言って、せりがってくる頭らしきものを見てから、その頭の大きさに驚愕するまでに時間はかからなかった
「で、でかいぞ!! でかすぎる!!!!!!!!」
その巨大な頭は、やがて顔を見せ、首から肩が出て、姿を現していき、ついに大巨人の全身が海の中から現れたのだった
「な、な、何だよ……この大巨人は…… 一体身長何センチあるんだよ!!!!」
「えっ、ああ……このヒッポリュトスの身長は200mよ」
「に、200m? 一体何食ったら、そんなにデカくなるんだよ!」
「はっ? 食べ物で大きくなったわけじゃないわよ! オリンポスの神々やその親戚は、本来大きい姿をしてる者も多いのよ……このヒッポリュトスだってオリンポスの神々の遠い親戚よ」
「へー……それでこのヒッポリュトスって誰だよ」
「ヒッポリュトスは、巨人族の国、ギガンテスを治めるエウリュメドン王の側近の1人よ……ちなみに、私の眷属よ」
「そ、それはすごい眷属をお持ちで……」
ドーン!!!!!!!!
その時そのヒッポリュトスが片膝をついてアルテミスに、かしずき言った
「アルテミス様、お呼びですか?」
その頭上からの大迫力サウンドに、俺は、すかさず言った
「うるさい! 喋ると空気が揺れるぞ、小声で喋れよ! あれっ、その手に持ってる巨大すぎるジョーロはなんだよ」
アルテミスも同じことをヒッポリュトスに聞くとヒッポリュトスは言った
「ちょうど、庭で花に水やりをしてまして……」
「それはごめんなさい……でもヒッポリュトス急用なの……私たちをコーチス王国まで連れて行って欲しいのよ……道案内は私がするから」
「はい……かしこまりました」
俺たちは魔法の馬車に乗り込むと、巨大なジョーロを持って立っている身長200mの大巨人ヒッポリュトスの頭に乗った
俺はその見慣れない景色に興奮しながらアルテミスに言った
「それで、この大巨人と、どういうルートでコーチス王国まで行くんだよ」
「ええ……さすがにヒッポリュトスに乗ったまま、一直線でコーチス王国まで正面突破は出来ないわ……だから私は、大巨人ヒッポリュトスに海を泳いでコーチス王国に向かってもらうつもりなんだけど、この地図によると、右の海岸線は張り出してて泳ぐとかなり遠回りになるから、張り出した陸地の向こう側まで走ってもらってその海岸から大陸を右から回り込むルートで、コーチス王国までヒッポリュトスに泳いでもらおうと思ってるの」
「えっ、この大巨人が海まで陸地を走っていくだって? それはさすがに見つかるだろ」
「それは、仕方ないわ……もし、見つかっても……当然見つかるだろうけど、中央にいる【炉の女神】ヘスティアたちに報告される前に海にたどり着ければいいし……」
こうして俺たちは、巨大なジョーロを持った大巨人ヒッポリュトスの頭に乗ってコーチス王国を目指すことになったのであった……




