天界から引っ越した俺
俺は天使ミラを追いかけなかった......
俺が天使ミラの出て行ったドアの方を向き立ち尽くしているのを見て大天使ミカエルが天界最高指導者、熾天使セラフィムに言った
「セラフィム様、いくら何でも天界から今すぐ出て行けとは......せめて新たに住む場所が決まり、引っ越しするまで猶予を与えるというのはいかがでしょう?」
「まあ、そうだな......今までの功績に免じて3日だけ猶予をやろう」
「ありがとうございます! ルキ、3日後に引っ越しをするのです、分かりましたか?」
「分かった......ミカエルありがとう......」
俺は無理やり心を奮い立たせて声を絞り出した......
10分後、大天使ミカエル以外の全員が帰っていった......
「ルキ......大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ」
俺はそう言うとネックレスを外した
「ルキ、そのネックレスは?」
「これは、ミラが俺のために手作りしてくれた四つ葉のクローバーをあしらったネックレスだ......これをつけていると誰からも召喚されないらしい......俺が浮気しないようにプレゼントされたのに、まさかミラのほうが......」
「......そうですか......では3日後に引っ越しをしたら連絡を下さい」
「分かった......いろいろありがとう」
1日目、俺は苦しくて悲しくて寝込んだ......
2日目、俺はミラとの思い出を考えていた......心の整理も始めた......
3日目、引越しの約束の日だ......俺は心を鬼にして動き始めた......
俺は3日ぶりに外へ出るとあてもなく歩いた......しばらくすると公園に着いた......
「どこへ行こうかな......」
俺がそう呟いた途端、後ろから誰かが回り込んで来て俺の顔を見て言った
「あっ、やっぱりルキだ! 久しぶり!」
「えっ......チホリリス? どうしてここに......」
突然チホリリスは抱きついてきて言った
「ルキ、幼なじみの私とこんな所で会うなんて、これはもう運命よね!」
「おい、やめろよ! 魔界の女王と、こんな所で抱き合ってたら、誤解されまくりだろ!!」
「ねえ、今からルキの家に行ってもいい?」
「いやいやいや......」
俺はこれまでのいきさつをチホリリスに話した
「えっ、あのミラと付き合ってたの? で、別れさせられたと......でも良かったじゃない! おめでとう! 」
「いや、なんでめでたいんだよ!! 彼女と無理やり別れさせられて天界から追放されるんだぞ! しかも今日中に引っ越ししなきゃいけないし......」
「ルキ......ごめんなさい......辛かったよね......でも、すぐに堕天使のレッテルを貼るようなこんな天界から出て行けるなんてやっぱりめでたいわよ!......かつて私のパパも堕天使のレッテルを貼られて追放されて......今に天界に復讐するんだって言って、天界の1階層下に、1から魔界を作り、今では天界も一目置く世界になったわ......」
「ああ、知ってる......チホリリスのパパは凄いよ......チホリリスがエンジェル・スクールに通ってる途中に追放されて、あれよあれよという間に、あんな凄い世界を作ってしまうんだから......俺はチホリリスのパパを昔から尊敬してたんだぞ」
「ルキ......パパのことを褒めてくれてありがとう......パパもルキのことを小さい頃から、褒めてたのよ、賢い子だって......きっと将来出世するだろうって」
「そうか......嬉しいな......チホリリスのパパは魔界の王を引退して今は何してるの?」
「今は悠々自適に世界中を旅してるわ」
「そうなんだ......」
「ねえ、ルキ! 魔界に来なさいよ! 私の宮殿に! ママもきっと喜ぶわ!」
「そうか......魔界か......それもいいかもな」
「じゃあ決まり! さっそく私の宮殿に引っ越すわよ!」
「ああ、分かった......ていうか、何で魔界の女王チホリリスが天界にいるんだよ! それにその格好、天使そのものだな」
「ええ、私は今、天使に変装して、有名な天界の美容院に来ているのでーす!」
「いや、でーす、じゃねーし、見つかったらやばいぞ......よく天界と魔界の界境を通れたな」
「まあ、そこは、あれよ、あれ......天界にも秘密のレジスタンス集団がいるから......」
「えっ!!!! そうなんだ!!!!」
魔界の力が天界に匹敵するほど大きくなった為、今では天界も魔界とパワーバランスを取っていた
天界は表向きにはしていないが、天界と魔界を行き来する界境のルートを、一つだけ密かに認め、そこから魔界と取り引きや人的交流などを行っていた
そのルートは通称観覧車と呼ばれていた
まあ、観覧車そのものなのだが......しかも巨大だ......
「ルキ! 天界のレジスタンスのみんなが引っ越しを手伝ってくれるって!」
その日の午後......俺は天界の秘密のレジスタンス集団の力を借りて、巨大観覧車から魔界のチホリリスの宮殿へと向かったのだった......