開会式
VIPルームに戻った俺たちは部屋のソファーに座った
テーブルの上には今買ってきたカリカリポテトスティックとキンキンヒエヒエダイナソーパンチとキンキンヒエヒエダイナソーキックが置いてある
最初にカリカリポテトスティックに手を伸ばした等身大の餅人形、エルフの国の王女ソラファが恐る恐るヘラに言った
「あの……ヘラ様、ちょっと聞いてもいいですか?」
「なんじゃ、ソラファ」
「その素敵なお召し物はどうされたのですか?」
「ん? どういうことじゃ?」
「い、いえ……ドレス姿とは、また違う美しさでよくお似合いなのですが、突然どうされたのかと思いまして……」
「なんじゃ、そんなことかの、それはじゃな、ルキが……」
その途端、慌ててイーリスが話に割って入ってきた
「ソ、ソラファ王女!! それは側近である私からお話します!」
「えっ、は、はい……どうぞ」
「実はソラファ王女たちがVIPルームから出ていったあと、ヘラ様がギネヴィア・アリーナを見て回りたいとおっしゃられ、私とルキをお供にVIPルームから出たのです……でもそこは有名なヘラ様でしょう……変装の必要があったので庶民の服を取り寄せたというわけです」
「なるほど、分かりました」
ソラファが納得するとイーリスはホッとしたようだった
俺がそんなイーリスを見てニヤついていると、俺の表情に気づいたのかイーリスが急に意地悪そうな顔をして俺に言った
「それはそうとルキ、まずあんたが、その買ってきたキンキンヒエヒエダイナソーパンチを飲んでみなさいよ」
「えっ、なんで俺が?」
するとイーリスが俺に近づき小声で言った
「は? あんた、私に逆らえるの? ヘラ様と秘密で付き合うには私の協力が不可欠なはずよ」
(なんだよ……イーリスのやつ、脅迫かよ)
俺は心の中で舌打ちしながらも笑顔でイーリスに言った
「分かったよ、イーリス、俺が実験台になるよ」
「フンッ……分かればいいのよ」
俺はキンキンヒエヒエダイナソーパンチを一口飲んだ……
グワシャ!
あれっ、目をパンチされた?
ドンッ! クラクラ……
あれっ、頭をパンチされた?
バチンッ!
あれっ、頬をパンチされた?
ん? でも後味は美味しい……
「いやいやいや……これ、一体何入っとんねん!!!! 魔術だろ! これ絶対魔術かかっとるだろ!」
するとそれを見ていたソラファが言った
「みんな、飲むのやめときましょう!」
「なんでだよ、飲めよ!」
俺がソラファに不機嫌に言ったのが気に食わなかったのかセリーナが急に怒り出した
「コラッ、ルキ! ソラファにそんな言い方やめなさいよ! ねぇ……ソラファ怖かったね、かわいそうに」
「いや、かわいそうなのは俺だろ!」
その時、叫び声が聞こえた
「うわー!!!! は……腹をキックされたやん!!!!」
見るとそこにはキンキンヒエヒエダイナソーキックを飲んだあとソファーの上で、くの字に折れ曲がって倒れているササーヤンがいた
「そんなに衝撃がすごいのかの?」
ヘラはそう言うとキンキンヒエヒエダイナソーパンチを一気に飲み干した
「あっ、ヘラ様、そんなに一気に飲んで大丈夫ですか?」
俺は心配してそう言ったが数秒経ってもヘラは顔色ひとつ変えてなかった
「大丈夫とはなんじゃ、ただの炭酸の効いた美味しいジュースじゃ」
(さすがヘラ……やっぱりヘラは世界最強だな)
その時突然テラスの外でファンファーレが鳴り響いた
「どうやら、始まるようね」
イーリスは、そう言いながらソファーから立ち上がりテラスの方へ歩いていった
俺たちもイーリスに続き全員でテラスに移動した
テラスの左側のベット・マシーンの2人がけのソファーには俺、ヘラ、イーリスの順でぎゅうぎゅう詰めで座り、右側のベット・マシーンの2人がけのソファーには、ササーヤン、ソラファ、セリーナの順でぎゅうぎゅう詰めで座った
うまうまうまうま……
隣から聞こえてくるその声に俺は右を向いた
(ああ……なんてキレイなんだ…………いやいやいや、思わずヘラを見つめてしまった)
俺は隣のベット・マシーンを見た
すると隣のベット・マシーンのソファーに座っている3人が、代わる代わるカリカリポテトスティックを平面水晶モニターの上の立体的な巨大タラコ唇に食わしていた
立体的な巨大タラコ唇はそれを美味そうに食っていた
うまうまうまうま……
俺はすかさずツッコんだ
「おい! タラコ唇に連続で、なんぼ食わしとんねん!」
するとセリーナがすぐに反論した
「だって、タラちゃんが、美味しそうに食べるから」
「いや、タタタタ、タラちゃんって! セリーナ……すぐ何にでもニックネームつけるのやめろよな!」
「いいでしょ! 可愛いタラコ唇なんだし」
「ていうか、そんなもの食わして壊れないのかよ」
「知らないわよ! タラちゃんに聞いてよ!」
「は? 何だよその言い方……ちょっとセリーナ、こっちこいよ、ご主人様がお仕置してやるから!」
「は? 何ご主人様気取りしてんのよ! 言ったでしょ! 契約はしたけど、服従はしないのよ! ていうかルキは私が契約した魔界の皇帝ルキフェル様とは別人じゃなかったっけ?」
「うっ……それはそうだけど……もういい!」
俺がガキのように拗ねているとヘラが冷たく言った
「もう済んだかの?」
「えっ? ああ……ごめんヘラ」
「なぜ、わらわに謝るのじゃ? 謝るならセリーナにであろう?」
「だね……セリーナ! ごめ……」
その瞬間、昼間のように明るかったギネヴィア・アリーナが突然夜になった
空の辺りを見上げると星が瞬いている
ヘラは俺の耳元に唇をつけ言った
「ルキ、もうよいから落ち着くのじゃ」
「あ、ああ、分かった」
その途端、ものすごい音と共に花火が上がり、それを合図に、次から次へと連続で、派手な花火が上がっていく
俺はイーリスに気づかれないようにヘラの手を握った……
ヘラも俺の手を握り返してきた……
しばらくして花火が終わり、また夜になったかと思った瞬間、突然4階正面に設置されている超巨大水晶玉が光り、超巨大水晶玉にアーサー王が映し出された
そして超巨大水晶玉の中のアーサー王は簡単なスピーチのあと、高らかに開会宣言をしたのだった
超巨大水晶玉の光りが収まると突然星々が一斉にスポットライトの如くギネヴィア・アリーナグラウンド中央の一点を明るく照らした
その次の瞬間、その明るく照らされた地面の一部がマンホールのような大きさだけ下降していき、ポッカリと穴があいた
そしてその数秒後、その穴の中から、何かがせり上がってきた
どうやら人族のようだ……
だが、俺の予想は司会者によって見事に覆された
「では皆様、拍手でお迎えください! アーサー王国、国家独唱は、今をときめく大スター、地蔵界の歌姫こと、レディーーーーーーーー、ボサツストーーーーンさんでーーーす!!!!!!!!」
その途端、観客20万人の地鳴りのような大歓声と拍手で耳がキーンとなった
ボサツ、ボサツ、ボサツ、ボサツ……
自然と観客の大歓声と拍手はスタンディングオベーションでのボサツコールに変わり、それらの人の声のうねりはアリーナ中にこだました
レディー・ボサツストーンの国家独唱は素直に素晴らしかった
透き通った美しい歌声であった
国家独唱が終わり魔術省の制服を着た大勢の魔術師たちがグラウンドに出てきて輪になった次の瞬間、魔術師たちは両手を高く上げた
その両手からは次々と火の玉が飛び出し、それらは、星空の中央の一点に注がれた
火の玉は太陽へと変わった……
ギネヴィア・アリーナは再び昼間のように明るくなった
だが、前と違うのは聖火のような太陽が加わったことだった
「では、皆様、プレイヤーの入場です! 正面の超巨大水晶玉にご注目ください!」
その瞬間、再びギネヴィア・アリーナは真っ暗になった
いや、今度は光のない真っ暗闇だった
その時、超巨大水晶玉が光り、10という巨大文字が映し出された
すぐに20万人の観客はカウントダウンだと分かり地響きのような「じゅう!」という言葉がこだました
俺は握っていたヘラの手を引き寄せ手探りでヘラを抱き寄せたあとヘラをギュッと抱きしめた
地響きのような「きゅう!」という言葉がこだました
俺は暗闇の中、ヘラの頬に自分の頬をつけた
地響きのような「はち!」という言葉がこだました
ヘラは小声で言った
「ルキ、隣にイーリスがおるのじゃぞ……」
「いいから、黙って……」
地響きのような「なな!」という言葉がこだました
俺はヘラの頬に唇を置き、ヘラの唇を探すように自分の唇を移動させていった
地響きのような「ろく!」という言葉がこだました
俺はついにヘラの唇を感覚で見つけ熱い熱いキスをした
地響きのような「ご!」という言葉がこだました
ヘラの俺を抱きしめる手に力が入った
地響きのような「よん!」という言葉がこだました
俺はさらにヘラを強く抱きしめた
地響きのような「さん!」という言葉がこだました
俺はヘラの唇から自分の唇を離した
地響きのような「に!」という言葉がこだました
俺はヘラから体を離した……
地響きのような「いち!」という言葉がこだました
俺は高ぶる感情を抑えヘラの指に自分の指を絡ませた
その途端、ギネヴィア・アリーナは大歓声と共に再び昼間のように明るくなったのでグラウンドを見ると、そこには全てのプレイヤーと巨大マンモスがいたのであった……




