搬入
手を繋ぎギネヴィア・アリーナへ向かって歩き出した俺とヘラだったが、何歩も歩かないうちにヘラが言った
「ルキ……なんじゃ、あれは?」
俺はそう言われヘラの方を向くとヘラはギネヴィア・アリーナとは逆の方を向いていた
俺はヘラの視線の先を追った
ヘラの視線の先にはアーサー王国の王都である、ここ城郭都市の巨大な東の城壁が圧倒的な迫力でそびえ立っていたのだが、それ以外別段変わったところは無かった
「ヘラ……何のこと? 別に変わったところはないようだけど……あっ! あのこと?」
俺はそれに気づいた
「そうじゃ、あの東の城門の前の人だかりのことじゃ」
ヘラはそう言いながら俺と繋いだ手を引っ張りながら先に東の城門の方へと歩き始めたのだった
今俺とヘラは川沿いの道を少し歩きすぎたのか地下にあるコロシアム、ギネヴィア・アリーナの入り口とは反対の裏手側に来ていたのだが、ここから見る限り、俺とヘラからは東の城門まではそんなに離れてはいなかった
そしてその東の城門はというと、ほぼ全開に開いておりその東の城門の前には大勢の人だかりがしていたのだった
「ほんとだ……なんだろう、あれは?」
俺はヘラに手を引かれるまま、しばらく行くと人だかりが見えた
俺とヘラは東の城門の少し手前にある川にかかった橋を渡ると東の城門の下まで歩いていった
俺はすぐに、そこにいた人族に、この人だかりは何か聞こうとしたが、東の城門の外の少し先に見えるその光景を見た瞬間、その人族に聞くまでもなく、この人だかりは凶暴な巨大マンモスによるものだと分かった
「どけどけどけ!!!!!!!!」
突然、慌てた様子の大勢の騎士たちが大声で叫びながら、人だかりの間を通り抜け東の城門の外へと走っていった
俺はヘラを騎士から守るように抱きしめるとヘラに言った
「ヘラ、きっと、あそこが城壁の外からギネヴィア・アリーナにマンモスを搬入する入り口なんだろうね」
「そうじゃな、どうやらマンモスの搬入に苦労しとるようじゃな」
予想以上の巨大マンモスは凶暴な気質らしく大勢の兵士や騎士たちが周りを取り囲んで何とか城壁の外にある大型生物を搬入するための入り口に追い込もうとしていた
その時、見るからに上官らしき者が東の城門の上の望楼……つまり塔からここへ、降りてきたらしく近くの部下に命令するのを聞いた
「すぐに魔術省へ行って魔術師をここへ来させるように言ってくるのだ!」
「はっ! 」
どうやら、魔術で凶暴なマンモスを大人しくさせるようだ
それを聞いていたヘラが突然言った
「ルキ、少し上へ行って見るぞよ」
ヘラは人差し指で城壁の上の方を指さした
「えっ、ヘラ……ヘラの方から誘ってくれるなんて……なんか感動!!!!」
「な、なにを勘違いしておるのじゃ! マンモスを大人しくさせるためじゃ……ではな!」
ヘラはそう言うと消えた
どうやらテレポートで上に行ったらしい
俺も慌てて城壁の上にある通路とヘラを頭にイメージしてテレポートした
予想通り城壁の上の通路にはヘラがいたので俺は近づきながら言った
「さっきのことなんだけど……」
ヘラは俺が言い終わらないうちに走ってきて俺に抱きつき俺の唇に軽くキスをし言った
「さっきはルキをからかったのじゃ」
俺はそう言って、はにかんだヘラに胸がキュンとなった……
ヘラは突然空中から人形のようなものを取り出し俺に渡すと暴れている巨大マンモスの方を向き言った
「ルキ、それを吹くのじゃ!」
「えっ、人形を吹くって?」
最初は何のことだか分からなかったが、よく見るとその可愛らしい女性の人形の下には台がついておりそこから、オルゴールのゼンマイのような部分を手で回せるような取っ手とピアニカのような吹き口が付いてあったので、その人形を城壁の手すりに乗せ、吹き口を加え取っ手を回してみた
すると突然、目の前の可愛らしい女性の人形が動き出し、両手を合わせると深呼吸した後、歌い始めたのである
ぞ~うさん、ぞ~うさん
お~となしく、しててよね
そ~ね、あ~なたなら
で~きるわよ~•*¨*•.¸¸♬︎
可愛らしい女性の人形が歌い終わった次の瞬間、突然人形の口が裂けるように目一杯に開き、その口から、たくさんの音符の形をしたものが、ものすごい勢いで次から次へと飛び出し巨大マンモス目掛けて飛んで行ったのだ
そしてその数秒後にはもうあんなに凶暴だった巨大マンモスは優しいぞうさんのように大人しくなったのだった
人形は音符を全て出し切ると、えずいた
オェッ……
「いや、オェッ、じゃねーよ」
「ルキ、ではギネヴィア・アリーナへ参るぞよ」
ヘラは満足そうにそう言うと、可愛らしい女性の人形を消し去り俺の手を握った……
気づくと、俺とヘラはギネヴィア・アリーナの最上階に通じるコンコースに出るための地上の入り口……つまり、アーチ型のトンネルの前にいたのだった……




