走る悪魔と女神……そして魔界のクイーンとその側近たち
①エルフの国の王女ソラファのママ、エルフの国の女王エウリュディケの妹がアリーシャ公国の公爵令嬢アリーシャのママ、エレイン公爵夫人なので、ソラファとアリーシャは従姉妹どうしなのである
②テレポートはテレポート先がハッキリとイメージ出来なければ出来ないのである……ちなみに、今のルキの魔力では遠距離のテレポートは無理である
俺は薄暗いカーテンの中でヘラを両手でしっかりと抱きしめながらヘラとキスをしていたが、俺とヘラを探す等身大の餅人形、アイスの魔女セリーナの声が遠ざかって行くのを聞いて、セリーナがソファーから立ち上がったのを確信した
俺は自分の体がだんだん熱くなると同時にキスも熱くなりかけていたが、それを何とか……ほんと何とか……もうめっちゃ頑張ってやめて、息をひとつ吐き、ヘラにアイコンタクトをしながらテラスの方へ一度視線を送るとヘラはうなづいた
その次の瞬間、俺とヘラはテラスに立っていた
俺はヘラと部屋に入りながらセリーナに言った
「俺とヘラ様が何だって?」
セリーナは振り向き驚いた顔で言った
「あれっ? いつの間に私を通り越してテラスに……」
その時唐突に等身大の餅人形、大賢者ササーヤンがソファーから立ち上がると言った
「じゃあ、私はカーリンの所に行ってくるやん」
それを聞いてセリーナが言った
「えっ、じゃあ私アイス買ってくる」
さらに等身大の餅人形、エルフの国の王女、ソラファもソファーから立ち上がりながら言った
「2人とも行っちゃうの? じゃあ私もコロシアムを見学してこようかな……それに、従姉妹のアリーシャにも、叔母様のエレイン様にもご挨拶したいし……あっ、でもこの姿でびっくりされないかな……あはは」
それを聞いてセリーナがソラファと手を繋ぎ言った
「大丈夫よ、私も一緒に行くわ……その後、コンコースでアイス買いましょうよ」
さらにササーヤンもセリーナがソラファと手を繋いでいる反対側に回り込みソラファと手を繋ぎ言った
「じゃあ、まず、3人でアリーシャとカーリンのところに行くやん!」
そして3人はヘラに挨拶をしたあと連れ立って部屋から出て行ってしまったのであった……
俺は身分差のため周りに隠し密かに付き合っているフィアンセ、オリンポスの大女神ヘラに言った
「じゃあ、ヘラ、俺たちも時間つぶしてこようよ」
「そうじゃな」
「では、私も」
ヘラの側近で虹の女神イーリスもヘラに近寄ってきてそう言うとヘラはソファーから立ち上がって俺にアイコンタクトをしながら言った
「ルキ、先ほどの話、覚えておるかの?」
俺はヘラの目を見ながら答えた
「もちろん」
俺たちは部屋を出るとイーリスがドアを閉めた
そして……俺は太陽神アポロンの大ファンであるイーリスに向けて叫んだ
「あっ、イーリス、エレベーター前にアポロン様がいるぞ!」
「えっ? アポロン様? どこどこ?」
イーリスはエレベーターの方を向いて必死に探している
俺はふいにヘラの右手を自分の左手で取るとイーリスとは逆の方へとヘラの手を引き走り出した
「ルキ? アポロン様いないわよ」
そう言いながらイーリスが振り返った時には俺とヘラはイーリスから、かなり離れていた
「えっ……あっ! ルキ、騙したのね!!!! ちょっと待ちなさいよ!!!!」
俺はそのイーリスの声を聞いて振り向くとイーリスはこちらに向かって、ものすごい形相で追いかけてきていた
(や、やばい、イーリス、予想より遥かに怒ってるな……)
そう思いながらヘラの顔もチラッと見たがヘラはニコニコしていた
(なんで笑ってんだよ……)
その時さらに輪をかけてイーリスの大きな声が後ろから聞こえてきた
「お待ちください!!!! ヘラ様ーー!!!!!!!!」
俺とヘラがVIPルームが並ぶ4階の廊下の突き当たりまでくると、そこにはドアがあった
俺はドアを開けた
すると同時にドアの外から強烈な熱気が襲ってきた
さらにそのドアの外には見渡す限りの開放的な空間が広がり上を見上げると青々とした大空が広がっていたのだ……もちろんそれは魔術省の魔術で作り出された大空なのだが……
どうやらギネヴィア・アリーナの上部には、部屋以外にも直接外……地下にあるので厳密には外ではないが……ここから見渡す限り、その外からも観戦出来るスペースがいくつかあるらしかった……そして今、目の前にはオープンテラスらしき場所にテーブルとイスがたくさんあり、人々もたくさんいて騒いでいた
カフェのようだったが酒の匂いもする……どうやらBARもあるようだ
俺はヘラの手を引き、目の前のオープンテラスのテーブルの間をすり抜けるため走り始めた
だが、酒を持った男性にぶつかりそうになった
「おっとっと……危ないな! 気をつけろ! 酒がこぼれるだろ!」
「あっ、ごめんなさーい!」
俺は平謝りしながらオープンテラスのテーブルの間を全てすり抜けたところで立ち止まり振り返った
イーリスがドアから出てキョロキョロしている……そして見つかった……
イーリスはこちらへ向かって走り出した
俺は前方に向き直り、素早く見回すと少し先に子供用の複合遊具があるのを見つけた
「あれだ!!!!」
俺はそう叫び、再びヘラの手を引きその複合遊具まで走りよるとヘラと共にそこに付いている滑り台の下に潜り込んだ
その数秒後イーリスがやってきた
辺りを見回しキョロキョロしている
「あれっ、見失ったわ……」
突然、俺とヘラの前に小さな男の子がやってきて言った
「何してるの?」
俺は小さな男の子に向かい自分の口に人差し指をあてた
イーリスは数秒後、歩き始め行ってしまった
俺はイーリスが行ったのを確認するとヘラを見た
「どうやら、イーリスは行ったようじゃな」
俺はうなづき、しばらくヘラと見つめ合ったあと滑り台の下からヘラと共に出るとホッと息をついた
だが急に辺りがざわめき出した
「あれっ、あの方どこかで見た事あるわ」
「たしかに! それに、なんと、お美しいんだ!!!!」
それもそのはず、ひと目で高価だと分かる美しいふわふわなドレスを着ている上に、この世界の誰よりも美しいその美貌の持ち主であるヘラの輝きを隠せるはずもなかった
俺は思った
(しまった、考えてなかった!)
「ルキ、次はどうするのじゃ?」
ヘラは、何だか楽しそうである
「あっ、そうだ! たしか……たしかに来る時見たぞ……ねぇ、ヘラ、ちょっとテレポートするから」
「どこへじゃ?」
「うん、まあ、すぐ分かるよ」
俺はヘラの手を一旦離しヘラの体をギュッと抱きしめるとテレポートしたのだった……
ちょうどその頃、俺たちのVIPルームの隣の、さらに隣のVIPルームには、魔界のクイーン・チホリリスがソファーに座っていたが、突然そのソファーのそばに不気味に佇んでいる悪魔の扉がガタガタと揺れ始め、扉の表面に書かれている古代文字が光ったかと思った次の瞬間
ガチャッ……
ギーーッ……
悪魔の扉が静かに開き、中から声が聞こえてきた
「あのー、チホリリス様……冷や麦が出来たのですが……」
扉から顔を覗かせているのはチホリリスの側近であり侍女でもある魔獣使いのナツーキスだった
「あっ、出来たの? じゃあ、みんなここへ呼んできてくれるかしら」
「はい、かしこまりました……では、先に冷や麦を置いておきますね」
ナツーキスはそう言うと悪魔の扉を全開にし、重そうな大釜を持って部屋に入りテーブルの上にその大釜を置いた
チホリリスが大釜の中を覗くと、茹でられた冷や麦がスイスイと泳いでいた
「活きがいい冷や麦ね……美味しそうだわ……」
すぐにチホリリスの側近たちは勢揃いした
まず悪魔の扉から出てきたのは魔界の死神の異名を持つ魔界帝国……いや、ルキフェル帝国の宰相で女魔王リーパーだった……リーパーは、烏の濡れ羽色のような青みを帯びた黒いマントを羽織っている
次に現れたのはイケメン悪魔、マルバス男爵だ……そうソラファに黄金のソロモンの指輪によって呼び出されたあのマルバス男爵だ……マルバス男爵はリーパーの直属の部下の一人である
そしてマルバス男爵に続いてナツーキスがやって来た
手にはツユや器を持っている
宰相リーパーがチホリリスの前に来た
「チホリリス様、お招きいただきありがとうございます、最近ときたら夏でもないのに暑すぎますわね」
宰相リーパーはそう言うとチホリリスに礼を尽くした
「いや、まったくですね、リーパー様」
マルバス男爵もそう言ったあとチホリリスに礼を尽くした
ナツーキスがテーブルの上に器を置きツユを入れながらチホリリスに言った
「チホリリス様、ツユなんですけど、食べたかったラッコの肉が見つからなくて……代わりに豚バラとネギのつけつゆにしました……まさに悪魔の美味しさですよ、うふふふふ」
「ナツーキス、ラッコといえば……あっ、それよりベレトはどうしたの?」
「はい、ベレト様は先ほど魔界に戻ってこられ今こちらに向かっております」
その時、そのベレト……魔王の1柱でブーツを履いた猫の悪魔……あのベレトが悪魔の扉から出てきながら言った
「ナツーキス! 悪魔が悪魔の美味しさって言ってもおもしろくないんだよ……ったく」
ナツーキスが何か言いたげなのを制してチホリリスは言った
「ベレトはどこへ行っていたの?」
「はい、せっかくのお招きに遅れて申し訳ありません……実はチホリリス様に頼まれておりました人族と亜人の世界のアーサー王国の……なんて言いましたっけ……そうそうカフェ・ド・セリーナというカフェの近くに店を出して住みたいから良い場所を探して来いという命令を受け、いつ行こうかと考えておりましたところ、魔王ネビロス様の直属の部下グラシャラボラスにちょうどそのカフェ・ド・セリーナに無理やり連れて行かされましたので、店を出すのに良い場所を探してまいりました」
「そう、ありがとう……それで店を出すのに良い場所は見つかったの?」
「はい、それはそれは、とても良い場所が見つかりました」
「そうなの? じゃあ、ここでの用事が住んだら案内してもらえるかしら」
「はい、チホリリス様」
ゴロゴロと喉を鳴らすベレトを見て宰相リーパーが言った
「相変わらず、あなたはチホリリス様の御前だけは礼儀正しいのね」
「リーパー……なぜお前と同格の俺様がお前の部下で我慢してやってるかと言うとお前がチホリリス様の直属の部下だからだぞ! そのへんをだな……」
「まあ、いいから早くチホリリス様に玉座をお出ししなさいよ!!!!」
「分かってるさ! うるさいな!」
その言うが早いか悪魔猫、魔王ベレトは玉座をテラスの前に出した
チホリリスはその玉座にゆっくりと向かい座ると言った
「ナツーキス、さっきのラッコのことなんだけど……」
その時ベレトが叫んだ
「あっ!!!!」
「どうされたのですか? ベレト様」
マルバス男爵がそう言うと悪魔猫、魔王ベレトは言った
「チホリリス様、お話を遮ってしまい申し訳ありません……忘れておりました」
「いいのよ……どうしたの?」
「はい、実はグラシャラボラスにカフェ・ド・セリーナに無理やり連れて行かされた理由がですね……その……以前黄金のソロモンの指輪で俺……いや、私を呼び出した天使がもう一度私に会いたがってるから……という理由だったのです……で、その天使に会って話したところ、是非魔界の、えらい方と話がしたいという願いでして、その……なんと言いますか……ここに連れてまいりました」
その途端、宰相リーパーが叫んだ
「なんですって!!!! 悪魔の敵である天使を取引以外で帝都のチホリリス宮殿に連れて来たっていうの!!!!」
「リーパー、仕方ないだろ! いいやつだし、グラシャラボラスに聞いたところによるとあの大天使ミカエルを裏切った天使だっていうから……」
ケンカする宰相リーパーと悪魔猫、魔王ベレトを見たチホリリスが言った
「まあいいじゃない、リーパー、そんなに怒らないで……ベレト、とにかく連れて来て……」
「承知しました、今すぐ連れてきます」
そう言うと悪魔猫、魔王ベレトは不気味に佇む悪魔の扉の中へ急いで飛び込んで行ったのであった……




