異種生物格闘レースにベットだぜ!
俺はヘラを伴ってテラスに出ると、テラスの床から徐々にせり上がってきた大きな二つの物とは、ちょうどゲームセンターのアーケードゲームのような物であった
俺とヘラは揃って左のアーケードゲームのような物の前に立つと、それは正面に平面水晶モニターが付いており、その手前の台の上にはジョイスティックとテンキーとボタンが一つあった
さらにその台の下には紙幣の投入口らしき穴が開いているのも見えた
そして操作するために座るものは椅子ではなく2人がけのソファーであった
そのソファーに俺が左にヘラが右に一緒に並んで座ると突然、平面水晶モニターの上から立体的な巨大タラコ唇が現れ言った
「わたくしは、異種生物格闘レースに賭けるためのベット・マシーンです……何か分からないことがございましたら、なんなりとお聞きください」
その言葉と共に平面水晶モニターが光り出し文字が浮かび上がってきたので俺は立体的な巨大タラコ唇に聞いた
「これは何?」
「これは、異種生物格闘レース決勝、つまりメインレースの一覧表で、決勝のプレイヤー、100人の名前と種族、そしてそれぞれのオッズでございます……あっ、あと、左上の時間表示は賭けの締め切り時間になっております」
「へー、そうなんだ……えっ、今100人って言った? でも、このモニターには全部で101人の決勝のプレイヤーが表示されてるけど」
「えっ……あっ! 本当ですね、わたくしが聞いておりましたのは100人なのですが……一体どういうことなのでしょう……ハハハハハ」
「知らんがな……まあ、それはいいとして、このレースは、何をどうやって賭けたらいいのかな?」
「はい、まあ、ざっくり言うとですね、その決勝に残った101人のプレイヤーが、各自、剣と、マップ表示及び全プレイヤー位置表示メガネだけを支給されて、この下のグラウンドのスタート地点にあるマジカルサークルゲート、つまり魔法円の門を通って、サリエル山の北側に広がる砂漠の中にある、広大な人工オアシスでありながら北側方面からの攻撃の為の防衛拠点であり、またアーサー王国陸軍及び騎士団の軍事訓練施設でもある、通称エデンと呼ばれる人工オアシスに、ランダムに配置されて、そこにいる恐竜兵器やら怪物兵器やらを、人工オアシスに散らばって配置されている宝箱に入っている、武器、防具、乗り物などを使って、かいくぐり、さらにこれから送り込まれる凶暴な巨大マンモスをも、かいくぐりながら……まあ、いわゆるバトルロイヤルをしながら、砂漠の人工オアシス・エデンの中央の丘の上にある巨大なりんごの木からりんごを取り、巨大なりんごの木のそばにあるギネヴィア・アリーナへ戻るためのマジカルサークルゲートへ入り、りんごをいち早くこの下のグラウンドにあるゴール地点へ持ち帰った者が優勝ということになっております」
その時突然ヘラが言った
「ルキ、わらわは、もう一度、あのホテルの部屋でルキと2人きりの……あの夜みたいに……またルキに、あれを食べさせてほしいぞよ」
「えっ、ヘラ、あれを食べさせてって、それはどういう……」
「なんじゃ、ルキ! 覚えておらぬのか? アルテミスウォーターフォールホテルの夜のことじゃ!」
その時、俺は後ろから激しい殺気を感じ振り返った
そこには、いつの間にか俺の背後に来ていたヘラの側近で虹の女神イーリスが、目を血走らせ指をポキポキと鳴らしながら立っていて俺を睨みながら静かに言った
「ちょっと、ルキ……ヘラ様とホテルの部屋で2人きりで何をしたって?」
「ちょっ、待てよ、イーリス! 今考えてるとこだから! えっと、 アルテミスウォーターフォールホテルっていえばアーサー王国国立公園にあるアルテミスの滝に行った時に泊まったホテルだよな……あっ! 思い出した! なんだよヘラ! それって、たしか、俺の肩にヘラの人形が座ってて、その人形の中にヘラが居たから俺がヘラの泊まってる部屋にヘラを連れて行った時にヘラにりんごを剥いてアーンってして食べさせたことを言ってるんだろ?」
「そうじゃ!」
「いや、そうじゃじゃねーよ! 誤解だよ、イーリス! それは、りんごだよ、りんごをヘラに食べさせたんだよ」
「えっ、なんだ、りんごなんだ」
急に冷静になったイーリスをよそ目にヘラは俺に言った
「じゃが、ルキ、あの時、わらわと一緒に風呂に入ってやってもよいとわらわが申したのにルキは誤魔化しおったが、今はどうじゃ? わらわと一緒に風呂に入るかの?」
「そ、それはもう!!!!!!!!」
だがその先はイーリスが拳を振り上げたので俺は慌てて口を閉じ、急いで立体的な巨大タラコ唇に聞いた
「それはそうと、観客はどうやってここから、その人工オアシスで行われるバトルロイヤルを見るんだよ」
「ああ、それはですね、人工オアシスの至る所にドローンカメラが飛んでおりまして、面白そうな戦いなどは4階正面に設置された超巨大水晶玉に映し出されますし、それに何より、お客様のお手元にあるメガネをかけて頂きますと、お客様がベットされました推しのプレイヤーが見ているリアルな映像と音声が聞こえ、まるでその場所にいるかのような臨場感溢れる感覚が味わえるのでございます」
「へー、それはすごいな……」
その時、俺の視線の先のヘラ越しの、すぐ隣の右側のベット・マシーンのソファーに、部屋付きのメイドを装ってはいるが、実はMSRのエージェントでスパイのサラが座った
サラの左肩には身長20cmほどのドーナツ人形の大賢者ササーヤンが座り、右肩には同じく20cmほどのチュロス人形のアイスの魔女セリーナが座っていた
だが俺はすぐに目の前の美しいヘラに視線をやり思わずヘラを見つめるとヘラも見つめ返してきた
俺はイーリスに見つからないようにソファーの死角で、こっそりヘラの手を握った
ヘラも俺の手をしっかりと握り返してきた
俺は急に胸が熱くなりヘラ以外何も見えなくなりかけたが、突然左側から聞こえてきたベット・マシーンの声に強引に現実に引き戻された
「あの……締め切り時間が迫っておりますが、どうされますか?」
「えっ、ああ、それでレースに賭けるってどうやればいいの?」
「はい、それは簡単でございます……単勝……つまり優勝者のみを予想して賭ける金額を入力し決定ボタンを押したあと紙幣を投入口に入れていただければ完了となります」
俺はヘラを呼び捨てで話しかけようとしたが、すぐ隣のベット・マシーンにササーヤンたちがいるので、ヘラに敬語で話しかけた
「ヘラ様どうされますか?」
「それはもちろんカーリンに賭けるぞよ」
「他の者の情報は見なくてもよろしいのですか?」
「よいのじゃ……では、賭けるとするかの」
ヘラはそう言うとジョイスティックでカーソルを動かしカーリンの欄に賭ける金額を入力すると決定ボタンを押した
「ヘラ様、そんなに賭けるのですか?」
「うむ」
「では、投入口に紙幣を入れてください……それで賭けは完了となります」
立体的な巨大タラコ唇がそう言った途端、ヘラの頭上に光り輝く王冠が現れた
ぷかぷか浮いているその宝石が散りばめられ細かな装飾が施された王冠の中から突然キラキラした見たこともない小さな鳥が次から次へと飛び出してきたかと思うと一斉に投入口へと向かった
そのキラキラした小さな鳥たちは投入口の50cmほど手前まで来ると次々に紙幣に変わり投入口へと飛び込んでいった
そして数秒後、キラキラした小さな鳥たち全てが紙幣に変わり投入口へと消えた瞬間、立体的な巨大タラコ唇は言った
「これでベット完了となりました……わたくしの口から投票券を取り、しばらくお待ちください」
立体的な巨大タラコ唇から投票券を取ったあと俺は立ち上がり隣のベット・マシーンに近寄ると、サラの肩の上にいる20cmほどのドーナツ人形の大賢者ササーヤンが、ちょうど投票券を隣の立体的な巨大タラコ唇から受け取りメイドの肩に乗ったまま部屋に入っていく所だった
俺は振り返りヘラに言った
「ヘラ、俺たちも部屋に入ろうか……」
だがヘラは俺を見ず、俺の後ろの方を見ていた
俺は再び振り返り、隣のベット・マシーンの方を見ると特に何も無かったが、すぐにヘラが見ているものが分かった
隣のテラスに王太子ガヘリスが佇んでいたからだ
俺はもう一度振り返りヘラに言った
「ヘラ……ガヘリス王太子が気になるの?」
「いや、なんでもないぞよ……ルキ部屋に入ろうぞ」
そう言うとヘラは部屋に入っていき、俺もヘラを追いかけ部屋に入った
俺はヘラが座ってるソファーの隣に腰を下ろすとすぐに入り口からドアをノックする音が聞こえた……
メイドがドアを開けた……
「えっ……あ、悪魔……」
その声に俺は振り向きドアの方を見た
そこには、背の高い、漆黒のフードの付いたローブを着た者が立っていた
足首辺りまで届くほど長くゆったりとした外衣……袖も長く、顔はフードでスッポリと覆っている
「失礼ね……」
突然フードの下から女性の声がし、その女性と思われる者は、おもむろにフードを取った
「あっ!!!! あなたは……」
フードを取ったその顔を見たメイドは驚きの声をあげたのであった……




