アリーシャ・ファミリー
アリーシャ・ファミリーは俺たちがいるVIPルームの前で揉めていた
「やっぱり突然押しかけるのは、やめましょうよ……ヘラ様はお忍びでいらしてるんだし……」
公爵令嬢アリーシャがため息混じりでそう言うと、アリーシャのパパ、ランスロット卿は言った
「何を言ってるんだアリーシャ、ヘラ様のご滞在を知ってしまった以上、ご挨拶しないと失礼だと思うがね」
すると、アリーシャのママ、エレイン公爵夫人は両手に抱いたアリーシャの弟、ガラハッドを見ながら言った
「ねぇ、ガラちゃん、お姉ちゃんは、ああ言ってるけど、どう思う? あっ、そうだ! ガラちゃんをヘラ様に抱っこしてもらいましょうよ!」
その言葉を聞いてランスロット卿がプチ興奮状態に陥った
「そ、そうだね! それがいいよママ! ナイスアイデアだぞ! あのオリンポスの大女神ヘラ様に抱っこしてもらえたら、きっとガラハッドは将来、スーパースターになるぞ!」
それを聞いたアリーシャが慌てて言った
「やめてよ、パパもママも……きっとご迷惑よ……」
その時、アリーシャ城の執事バトラー……いや、悪魔のコピー人形が化けた狼の獣人バトラーが、アリーシャの元に戻ってきた
「あっ、バトラー、サーラに聞いたわよ、昔お世話になった方がいらしたんですって? もういいの?」
「はい、アリーシャ様、お気遣いありがとうございます」
「そう、それは良かった……あら、あなた、いつもと……何か……」
アリーシャがバトラーの顔をじっと見て何か言いかけた時、ランスロット卿にノックするように言われたアリーシャ公国騎士団長サーラが目の前のVIPルームのドアをノックした……
俺たちがいるVIPルームのドアからノックの音がした
「ちょっとルキ、あなたドアを開けてきなさいよ、メイドいないんだから」
「はっ? なんで俺が……イーリスが開けてこいよ」
俺がイーリスの言葉に渋っているとヘラ様が言った
「イーリス、すまぬが開けてきてたもれ」
「えっ? ヘラ様……そんな……私よりルキの方が大事なのですか? 大体、ヘラ様の下僕であるルキなど甘やかしてはなりません!!!!」
「誰が下僕だよ!!!!」
「あんたがよ!!!! いつまでもヘラ様の隣でデレデレしてんじゃないわよ!」
俺がイーリスに言い返そうとするのを制してヘラ様が言った
「わらわは、ルキもイーリスも大事じゎぞよ、今ドアに行くのはイーリスが良いと思っただけじゃ」
「分かりました……」
イーリスはブツブツ言いながらもドアまで歩いていきドアを開けた
そこにはアリーシャ公国騎士団長サーラがいた
サーラはイーリスに礼を尽くしながら言った
「ランスロット公爵閣下がご挨拶に参りました」
サーラの言葉を聞きイーリスがサーラの後ろを見ると、そこにはアリーシャ公国のランスロット卿が立っていてイーリスを見るなり口を開いた
「おお、これはイーリス様、お久しぶりです、突然申し訳ありません、ヘラ様にご挨拶したいのですが、よろしいでしょうか?」
「これは、ランスロット卿……お久しぶりです、少しお待ちいただけますか?」
イーリスは、よそ行きの顔のまま振り返りよそ行きの声でヘラ様に言った
「ヘラ様、ランスロット卿が、お見えになりました……」
今VIPルームのソファーに座っているヘラ様の目の前にはアリーシャ・ファミリーが座っている
左からガラハッドを抱いたエレイン、その次にランスロット卿、そしてアリーシャだ
サーラとバトラーとイーリスと俺は……いや、俺の左肩にはササーヤンが、右肩にはセリーナが座っているのだが……とにかく俺たちはヘラ様のソファーの横に立っていた
「何か面接みたいだな」
俺がイーリスに言うとイーリスは俺を怖い顔で睨んだ
その時、アリーシャ公国騎士団長サーラが言った
「ルキ、久しぶりね、その両肩に座っているお菓子は何なの?」
俺は説明するのが億劫だったので嘘をついた
「ああ、これは俺の今日のおやつだよ」
「そうなのね……」
(何だよ、疑わないのかよ! サーラって案外素直なんだな)
だが突然ドーナツ人形ササーヤンが俺の左肩から俺の頭に登り始めた
「えっ、ルキ、左肩のお菓子があなたの頭に向かって登ってるわよ!」
「ああ……それはこのドーナツが、ボルダリング好きなドーナツ職人の手で作られたあと、魂が込められたドーナツだからな」
「へぇー、そうなんだ……」
(なんだよ、サーラって、ちょろいな)
その時、セリーナも俺の右肩から俺の頭に向かって登り始めた
「ちょっとルキ、こっちのお菓子も登り始めて……今あなたの耳にぶら下がってるんだけど……」
「ああ、上級者コースが好きなやつだからな」
「チャレンジャーなお菓子なのね」
「ああ、そうだよ、向上心の塊だよ……いや、チュロスの塊か……」
そうしているうちにドーナツ人形ササーヤンとチュロス人形セリーナは俺の頭の上まで登ると、なにやらゴニョニョと相談をしたあと組体操のサボテンを始め、それを見たサーラは言った
「ちょっとルキ、お菓子たちがあなたの頭の上で組体操のサボテンをしてるわよ」
「ああ、そろそろ、お菓子体育祭が近いからな」
それを横目で見ていたイーリスが言った
「ちょっと、ルキ、そこで適当なこと言ってないで、ルキも紅茶入れるの手伝ってよ」
それを聞いたサーラが急に怒ったように言った
「適当なこと? まさか嘘なの? この私を騙したってこと?」
俺は慌ててサーラから逃げるようにイーリスのあとについて行った
サーラはその後もずっと俺を睨んでいたが、この場では声を荒らげるわけにもいかず我慢しているようだった
「あんた、そんなことしてると、いつか痛い目にあうわよ」
イーリスが紅茶を入れながら呆れた顔をしながら俺に言った
アリーシャファミリーがヘラ様への挨拶を終え、ヘラ様がまだ赤ん坊のアリーシャの弟ガラハッドをエレインから受け取り両手で抱いているのを見て、イーリスが紅茶を出すため俺に合図をした
イーリスと俺はソファーに近づきイーリスはアリーシャファミリーの前のテーブルに、俺はヘラ様の前のテーブルに紅茶を出した
その時ヘラ様が俺に言った
「どうじゃ、ルキ、ガラハッドじゃ、可愛いであろう?」
「はい、ヘラ様、ガラハッド様、なんとも可愛らしい……」
その時ランスロット卿が言った
「ヘラ様、この者は……」
ヘラ様は俺の方を向き素早くウインクするとランスロット卿に向き直り言った
「この者は、わらわの眷属じゃ」
「そうでしたか、これは失礼いたしました」
突然ヘラ様の腕の中で笑顔を浮かべていたガラハッドが俺を見た……いや、どうやら俺の頭の上を見ているようだ
(あっ、ヤバい……)
俺はピンときて俺の髪の毛にしがみついているササーヤンを左手で、セリーナを右手で掴み背中の後ろに隠そうとした……セリーナはすぐに隠せた……だがササーヤンは俺の髪の毛を掴んで離さない
「おい、ササーヤン、手を離せよ!」
俺は何とかしてササーヤンを俺の髪の毛から引き離したが、時すでに遅しガラハッドに興味を持たれてしまっていた
「バブー、アババババー」
ガラハッドがドーナツ人形ササーヤンに手を伸ばしたので、俺は仕方なくササーヤンをガラハッドの目の前に差し出した
「キャッ、キャッ、キャッ」
ドーナツ人形ササーヤンを間近で見るとガラハッドは嬉しそうに笑った
(うーん、このままでは、ドーナツ人形……いや、ササーヤンが食べられてしまう)
俺はすかさずアリーシャを見た……アリーシャは俺と目を合わせると、すぐに俺の言わんとすることを理解したらしい
そしてガラハッドがドーナツ人形ササーヤンに手を伸ばしかけた瞬間、間一髪アリーシャが慌てて駆け寄ってきてガラハッドをヘラ様から受け取り抱き抱えると言った
「へ、ヘラ様、ありがとうございました、もうすぐ決勝も始まることですし、私たちは王族、貴族の招待客の席がある1階の席に戻りたいと思います」
「そなたも行くのかの?」
「はい、私も参ります……ヘラ様も楽しんでくださいね」
「すまぬな、レディ・アリーシャ、感謝いたすぞよ」
「いえ、ヘラ様、そのような身に余るお言葉ありがとうございます……ではパパ、ママ行きましょう」
するとアリーシャからガラハッドを受け取り抱いたエレインが言った
「私、ヘラ様と一緒の写真が撮りたいわ」
「ママ! ご迷惑よ!」
「よいのじゃ、皆で撮ろうぞよ」
「ヘラ様良いのですか? ありがとうございます……バトラー、カメラを持ってきて」
「かしこまりました、奥様」
その時ヘラ様が初めてバトラーを見た
「お主……一体、何者じゃ?」
「私は執事のバトラーでございます」
バトラーがヘラ様に答えると、ランスロット卿が話に割り込んできてヘラ様に言った
「ヘラ様、この者が何か?」
ランスロット卿がそう言うとヘラ様は少し考えたあと言った
「いや、ランスロット卿……何でもないぞよ……バトラーとやら、すまぬの……」
「いえ、では私はカメラを取りに行って参ります」
そう言うとバトラーは部屋を出ていった
数分後、バトラーはカメラを台車にのせ戻ってきた
台車の上には、高さ50cm、幅1m、奥行30cmのカメラがのっていた
ヘラ様はエレインから再度ガラハッドを受け取り抱くと、一同でテラスに移動し並んだ……それを見たバトラーはカメラのセルフタイマーをセットして一同に加わると、その瞬間シャッターが切れた
カシャ……
その後、ヘラ様と何枚か写真を撮ったガラハッドを抱いたエレイン公爵夫人は満面の笑みでヘラ様に感謝の言葉を言うと、ランスロット卿と公爵令嬢アリーシャとアリーシャ公国騎士団長サーラとアリーシャ城の執事バトラーと共にVIPルームを出て1階の王族、貴族の招待客の席へと向かったのであった……




