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気づいた女神

ササーヤンマート:アルテミス国にある大賢者ササーヤンがオーナーのコンビニエンスストア


カフェ・ド・セリーナ:アルテミス国にあるアイスの魔女セリーナがオーナーのカフェ


ル・パン・ド・ソラファ:エルフの国にあるエルフの国の王女ソラファがオーナーのカフェが併設されたパン屋

VIPルームにいるのは、俺とオリンポス最高神の大女神ヘラ様とアルテミス国の大賢者ササーヤンだけになっていた……


俺は、それとなくササーヤンに聞いてみた


「ところで、ササーヤン、せっかくだから決勝が始まる前にコンコースとか見に行ってきたら?」


「別に見なくてもいいやん、お腹いっぱいやん」


20cmほどのドーナツ人形……いや、大賢者ササーヤンはそう言うと飲みかけのお茶をテーブルの上に置き、その場で大の字に寝そべったのだった


「あっ、そうスか……ちょっとササーヤン、 テーブルの上なんかで寝たら風邪ひくぞ! ドーナツなんだから皿の上で寝ろよ、あっ、そうだ! チョコレートソースを布団がわりにかけてやろうか?」


「はっ! ルキはそうやって誘導して、私を食べる気やん!」


「食べねーよ!」


その時、ヘラ様が俺の耳元でささやいた


「ルキ、わらわも、お茶が飲みたいぞよ」


「あっ、ヘラ様、起きていらしたのですか、分かりました」


俺はそうヘラ様に答えるとササーヤンに言った


「おい、ササーヤン、ヘラ様がお茶をご所望だ、賢者の杖で、お茶を出して差し上げろ」


すると、ヘラ様は俺の腕に手を回しさらに俺に体を寄せると再び俺の耳元で囁いた


「ミルクも入れて欲しいぞよ……」


俺は再びササーヤンに言った


「ヘラ様はミルクも入れて欲しいそうだ……ところでそのお茶は何茶なんだよ」


ササーヤンは起き上がるとダルそうに言った


「これは、言うなれば、エルフ茶やん」


「エルフ茶? 聞いた事ないな……とにかくそのエルフ茶で、エルフ茶ラテを出してくれよ」


「いいやん、でもこのエルフ茶は、ソラファが500年前に家庭菜園で庭に植えたお茶の木を先日やっとお茶の葉としてんだやん、そしてそのお茶の葉を3杯分、分けてもらったやん、今私が1杯飲んだから、あと2杯分しかないやん」


「いや、そんな貴重なものを、何で、ドーナツと一緒に、今飲んでんだよ……って、さらっとソラファが500年前って言ったけど、ソラファって一体、何歳なんだよ!!!!」


「それは、誰も知らないやん……でもエルフは長生きやん」


「まあ、そうだけど……じゃあそんな貴重なエルフ茶ラテを出してくれるんだな」


「さあ、それはどうやん」


「えっ、ダメなの?」


「いえ、出すやん」


「えっ、だって、あと2杯分しかないんだろ?」


「それは、嘘やん……ソラファの家庭菜園って言ってもソラファ城の庭のことやん、それはそれは広大やん……エルフ茶は、わんさかあるやん」


「だったら、なんで嘘ついたんだよ!!!!」


「ルキに対する、さっきの仕返しやん、私にチョコレートソースをかけるのは100年早いやん」


「ちょっと意味分かんないけど……まあいいや、じゃあエルフ茶ラテ出してくれるんだな」


「もちろん出すやん、ソラファから、たくさんもらったやん、実は今度ササーヤンマートとカフェ・ド・セリーナとル・パン・ド・ソラファ3店でエルフ茶を使った商品を何品か共同開発することになったやん」


「へぇー、そうなんだ、すごいな」


「じゃあ、エルフ茶ラテを作るやん」


大賢者ササーヤンはそう言うと賢者の杖を取り出し振った


すると、ティーカップが空中に2つ現れたか思うとそのまま浮かんでいる


「あっ!」


次の瞬間、ティーカップの中のエルフ茶らしき緑色の液体が、まるで竜巻のようにティーカップから回転しながら50cmくらいの高さまで上がっていくではないか


ガタンッ……


突然後ろの方から音がしたので俺が振り向くと、なんとミルクと大量の砂糖と思われる粒がこちらに向かって飛んでくるのが見えた


そしてその天の川のような空中でのミルクの流れはそのままティーカップから上がっているエルフ茶と思われる竜巻の中に吸い込まれていったのであった


しばらく回転しエルフ茶とミルクと砂糖が混ざり濃い緑色がだんだん薄くなっていくと共に、竜巻の回転は徐々に弱くなりながら下がり、ついに竜巻はティーカップの中に飲み込まれ、そして静かな水面となった……


「エルフ茶ラテ出来たやん」


俺はササーヤンから2つのエルフ茶ラテを受け取ると、ひとつをヘラ様に渡した


そしてエルフ茶ラテを一口飲んだ俺とヘラ様はその美味しさに驚いた


「う、うまい!!!!」


「うむ、美味じゃ!!!!」




突然テラスに何かが飛び込んできた


「ん? なんだあれ?」


エルフ茶ラテを飲むのをやめ、その飛び込んできた物を、よく見るとそれは手のひらサイズの剣闘士のかぶとを逆さまにしたような物だった


その逆さまの兜はそのまま勢いよく部屋の中に入ってきたかと思うと、部屋の中を旋回したのだった


「あっ!!!!」


その瞬間、俺は叫んだ……なぜなら逆さまの兜の後ろ側には20cmほどのチュロス人形が、しがみついていたからである……背中には剣闘士の剣らしきものを装着していた


旋回した逆さまの兜は、そのままササーヤンの横のテーブルの上に着地した


「おい、セリーナじゃん、一体どこ行ってたんだよ! それにその兜みたいなのなんだよ!」


「えっ、ルキ、この兜の中は甘〜い、いちごアイスよ……実はさっき、この部屋から観客席を見てたら、アイスの売り子を見つけて、その時イーリス様が飛び立ったから私慌ててイーリス様の肩に飛び乗って、アイスの売り子の上まで行って飛び降りたの! そしたら何と商品の中に落ちちゃって、私、子供に買われそうになったのよ……じゃなくて、えっと、それから急いでアイスの売り子の肩まで登って行って、アイスひとつくださいって言ったら私を見た売り子が叫び声を上げて……それで、えっと……とにかくお金を払って魔法で急いでアイスを飛ばして私はそのアイスにしがみついて、ここまで来たってわけよ……でも、どう? ここにしかないアイスは! 素敵でしょ? 剣闘士の兜の中に、いちごアイスが入ってて、丸い剣闘士のたてでふたがしてあって……そして、ヨイショっと……この剣闘士の剣の先に付いたスプーンで食べるというわけよ」


そう言いながらセリーナが背中に装着していたスプーン付きの剣闘士の剣を持ちながら、丸い剣闘士の盾のふたを開けると逆さまの剣闘士の兜の中にはセリーナが言う通り美味しそうな真っ赤な、いちごアイスが入っていた


そして、セリーナがその美味しそうな真っ赤な、いちごアイスを食べようとした瞬間、ササーヤンが、いちごアイスに近づいてきた


「私も食べるやん!!!!」


大賢者ササーヤンは、そう言って賢者の杖で素早くスプーンを出しイチゴアイスにスプーンを入れたのだが本来、人の手で持って食べるタイプの逆さまの剣闘士の兜はテーブルの上では不安定だった……ササーヤンがスプーンを入れた瞬間、見事にひっくり返り、いちごアイスはテーブルの下に……まるで奈落の底に落ちるがごとく消えていったのである……


一瞬の静寂のあと、セリーナの叫び声がしセリーナがダッシュでササーヤンに近づいたかと思うと相撲の突っ張りのごとくササーヤンに突っ張りし始めた


パンパンパンパン……


「ちょっとササーヤン、どうしてくれるのよ!」


「私は悪くないやん、逆さまの兜のせいやん!」


ササーヤンはそう言うとセリーナの突っ張りを交わしセリーナの上手うわてを取った……そしてササーヤンとセリーナは、がっぷり四つなった……いや、違う……ドーナツ人形とチュロス人形は、がっぷり四つになったのだった


「ん? 相撲かの?」


エルフ茶ラテを美味しそうに飲んでいたヘラ様が突然そう言ったので俺は答えた


「どうやら、そのようですね」


「では、観戦いたすことにするかの」


その瞬間ササーヤンとセリーナの周りは箱庭のようなミニ相撲会場に変わった……いつの間にかササーヤンとセリーナも東西の土俵の外に立っている


(ヘラ様、完全に楽しんでるな……どうなるんだこれ?)


だが、俺の心配をよそに、土俵の周りにビッシリいる観客人形の声援の盛り上がりのせいか、セリーナはどんどんテンションが上がっていくように見えた


そしてセリーナは土俵に塩をまき、土俵の中に入ると四股しこを踏み始めた


「おい、セリーナ! 可愛いのにそんなにまたを開いて四股しこを踏むんじゃないよ! 冷静になれよ!」


俺がそう言った途端、ヘラ様から、一瞬、音波のような圧力の波を感じた後、ヘラ様は少し冷たい感じで俺に言った


「相撲にはBGMも必要じゃな」


すると突然耳をつんざくような爆音が聞こえてきた


ヘヴィメタルだった


「ヘラ様ー、なんで相撲にヘヴィメタルなんですかー?」


だが、ヘラ様はそれには答えてくれなかった……俺は仕方なく土俵に目をやると、その爆音のヘヴィメタルに合わせてセリーナが首を縦に振り始めているところだった……セリーナは徐々に激しく首を上下させていった


「セリーナ! 何ヘッドバンギングしてんだよ! もうこれは相撲じゃないよ……」


俺がそう言った数秒後、あまりにも激しく首を上下に振りすぎたのか突然セリーナのチュロス人形の首がポロッと落ちたのだった


その瞬間俺は後ろから肩を叩かれた


「わっ!!!!!!!!」


俺は叫び振り返った……そこにはイーリスがいた


「あはは、ルキ、何ビビってんのよ、私よ、わ、た、し」


「イーリス、てめぇ……」


「あっ、怒った? あはは……って、私、ルキの相手してる暇はないんだったわ……ヘラ様、ただ今帰りました」


「うむ、ご苦労じゃったな……して、どうであったのじゃ?」


「はい、ヘラ様、この大会の優勝杯サルピンクスはおそらく本物だと思われます……なぜならサルピンクスの胴の部分には、でかでかと人族には見えない天使文字で書かれた神の言葉と5という数字が刻まれておりましたので……」






俺がテーブルの方に向き直ると、いつの間にかそこには、箱庭らしき物や土俵は消え、ただドーナツ人形のササーヤンと、首が元通りになっているチュロス人形のセリーナが仲良く握手をしている光景があるだけであった……

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