天使の休日……そしてまったりVIPルーム
(うーん、これ、サルピンクスに似てるわ……でも、優勝杯なわけだし……違うわよね……)
ここに、もう一人、ギネヴィア・アリーナのコンコースでヘラ様と同じく、食い入るようにパンフレットを見ている者がいた
それは大天使ミカエルから、しばらく休みをもらいアーサー王国の王都に遊びに来ていた大天使軍アークエンジェルス、西方面、小隊長の天使ヒナスタシアだった
ヒナスタシアはパンフレットを見るのをやめ顔を上げると歩き出した
(そこでパンフレット配ってるお姉さんに突然パンフレットを渡されて、思わず優勝杯の写真に見入っちゃったけど……まあ、そんなことより、周りのお店から、いろんな良い匂いが先を争うように私の元へ漂ってきてる……さあて……と、何を食べようかな……えっ?)
ヒナスタシアは、ある1本ののぼりを見た途端、足が止まった……なぜなら、そののぼりには、剣闘士の串揚げと書いてあったからである
「け……剣闘士の串揚げですって! どういう事かしら……まさか、本当に戦いに負けた剣闘士が串揚げになってるわけじゃないでしょうね……」
だが、そのヒナスタシアの疑問はすぐにその店のおっちゃんによって解消されたのだった
「お嬢ちゃん! 剣闘士串、美味しいよ、1本どう?」
そう言って店のおっちゃんが取り出した剣闘士串とは、串の部分が串の代わりに小さな細長い剣になっており、剣闘士の形をした揚げ物が、その細長い剣に突き刺さっているものであった
「あ、あの、この剣闘士串の具は何ですか?」
ヒナスタシアがおっちゃんに聞くとおっちゃんは言った
「えっ、具? ああ、この剣闘士串の具は戦いに負けた剣闘士のバラバラになった肉だよ……なあんてね、実はただのマンモスのバラ肉を串揚げした物なんだよ、ガハハハハ、ワシのギャグ炸裂~、ギャグはサービスで~す、ガハハハハ……」
「な、なるほど、そうなんですね、ギャグ最高でした、ア……ハハ……あの、ひとつ剣闘士串ください」
「あっ、買ってくれるの? 毎度あり~!!!!」
俺は俺の肩に、もたれかかっているヘラ様の顔を見つめながら思った
(ヘラ様、寝ちゃったのかな? それにしても、目をつぶったヘラ様もめっちゃ可愛いな……こんな素敵で誰よりも可愛いヘラ様が俺と付き合ってるなんて……幸せすぎて……やばい……顔がニヤけてきた……こんなとこイーリスに見られたら何て言われるか……ん? あれっ、そう言えばさっきから、イーリスの声がしないな、イーリスどこ行ったのかな……)
俺はそう思いながらヘラ様を見つめるのをやめ、テラスの方を向いた瞬間驚いた
「おわっ!!!! ササーヤン、何やってんだよ!」
大賢者ササーヤン……いや、20cm程のドーナツ人形が、目の前のテーブルの上で正座をしドーナツを食べていたからだ
「何やってるって? ドーナツ食べてるやん」
「いや、ドーナツ人形がドーナツ食ってどうすんだよ! 共食いしてるようにしか見えないぞ! それになんだよ、正座って! めっちゃ窮屈そうじゃん!」
「デブって言ったら殺すやん」
「いや、怖いっすよ、ササーヤンさん」
「お茶を飲むやん」
ドーナツ人形……いや大賢者ササーヤンは賢者の杖を取り出し振ると、熱いお茶が現れた……ササーヤンはその熱いお茶をフーフーしながら飲んでいる
「いや、何こっち見ながらホッコリしてんだよ!」
「そんなことより、ルキ……ヘラ様と何かあったやん?」
「えっ、な、何かって何だよ! 」
「いえ、その、肩に、ほら……ヘラ様がルキに、もたれかかっておられるから」
「べ、別に いつも通りだよ! ヘラ様は、ちょっとお疲れになったから、俺に、もたれかかってこられたんだよ! それよりイーリスがいないようだけど……」
「ふーん……お疲れにねぇ……イーリス様なら肩にセリーナを乗せてテラスの外へ飛び出して行ったやん」
「えっ、なんで?」
「それは知らないやん、でも、どうせセリーナは十中八九、アイス目当てやん」
「だよな、きっと2人でアイス食べに行ったんだな……」
その時、俺たちがいるVIPルームをノックする音が聞こえた
部屋付きのメイドが返事をしドアを開けると、そこにはアリーシャ公国の紋章付きの執事服を着た狼の獣人が立っていた
「アリーシャ様を……」
その執事らしき狼の獣人がそう言うとアリーシャが気づいたのか歩いてきて言った
「バトラー、どうしたの? 何かあった?」
「はい、アリーシャお嬢様、旦那様と奥様がご到着になられました」
「そう……分かったわ、でも、ちょっとだけドアの外で待っててくれるかしら」
「かしこまりました、アリーシャお嬢様」
そう言うと執事らしき狼の獣人はドアから出て行ったのだった
アリーシャは俺のそばまで歩いて来ると言った
「ルキ、ヘラ様はお休みなのかしら……私、ちょっと出て来てもいい?」
「ああ、いいけど、何かあったの? 誰か来てたみたいだけど」
「いえ、何でもないわ……じゃあ、すぐ戻るから」
「ああ、分かった」
すると部屋付きのメイドが慌てて走り寄ってきて言った
「アリーシャ様、先程のリコッチー様が持ってこられた塩顔イケーメンと味噌顔イケーメンを、部屋の外に捨ててきてもよろしいでしょうか?」
「えっ、ええ、そのままでもいいけど、たしかに不気味だし、臭うわよね……リコッチー、一体どこ行ったのかしら……じゃあ、お願いね」
「かしこまりました、では行ってまいります」
メイドはそう言うと塩顔イケーメンと味噌顔イケーメンを持って、部屋を出て行き、その後、アリーシャもメイドの後を追うようにして部屋を出て行ったのであった……




