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郷に入っては郷に従え?

「ヘラ様、紅茶と、アリーシャ様とルキ様が買われてきた食べ物でございます」


ヘラ様が時を戻し世界が再び動き出した途端、そう言いながらメイドがヘラ様の前にワゴンを押してやって来た


バタン……


その時突然入り口のドアが開き、宮廷魔術師リコッチーが現れた


「ルッキー、ルキルキ、ルッキのキー!!!!!!!!」


リコッチーが叫びながら俺たちが座っているソファーの方に歩いてきたので俺はリコッチーに言った


「おい、ヘラ様の前だぞ!」


「えっ、あっ……これは大女神ヘラ様であらせられますか……お久しぶりです、リコッチーです……ペッコリ、リコッチ、90度……からの130度!」


「おい、なんだよリコッチー、その挨拶は! どうでもいいけど顔がとんでもない方向に向いとるぞ!!!!」


「これは失礼いたしました、ヘラ様」


ギギ……ギ……ギギ……


「ロボットダンスみたいに姿勢戻すなよ……そんなことより、何しに来たんだよ」


「あっ、そうだった! ヘラ様……先程ルキが、当たりさわりのない美味しい食べ物を持ってこの部屋に入ったという報告を受けまして……」


「いいだろ、当たり障りなくて、普通に美味しそうな物が1番だろ……ていうか俺を部下に監視させてたのかよ!」


「リキ、レキ……いやロキだっけ? ああ、ラキか……なあ、ラキちゃんよ、ここでは、そんなことは当たり前よ……まあ、とにかく面白みのない食べ物をヘラ様にお出しするラキの代わりに私のおすすめの食べ物を持ってきたのよ」


「ついに俺の名前を変えてきやがったな、いい加減、しばくぞ」


「いいのよ、名前なんてどうでも」


「よかねーよ! で、どんな食べ物持ってきたんだよ」


「ああ……郷に入っては郷に従えっていうでしょ」


「ふーん……リコッチーにしては、いいこと言うじゃん、じゃあ、王都の珍しい食べ物を持ってきたっていうわけだ」


「全然違うわよ!!!!」


「はっ? 何、突然キレてんだよ! もう意味分かんねーよ、いいから、早く持って来たもの出せよ」


「まだ持ってきてないわよ!!!!」


「てめぇ……ヘラ様、ちょっとリコッチーをやっちゃってもいいですか?」


「ルキ、興奮するでない……リコッチー、よいから早く持ってきてたもれ」


「わっかりましたー」


そう言うと、リコッチーはヘラ様に敬礼をしたあと部屋を出て行ったのだった






しばらくするとリコッチーがワゴンを押しながら戻ってきた


「では、さっそく、私のおすすめの食べ物をご紹介いたします……まずはキンキンヒエヒエ酒をどうぞ」


「いきなり酒かよ……品のあるヘラ様は紅茶を飲まれるんだよ」


「ルキ、わらわはキンキンヒエヒエ酒がよいぞ」


「えっ、そ、そうですか、分かりました」


俺はリコッチーから、グラスに入ったキンキンヒエヒエ酒を受け取るとヘラ様に渡した


ヘラ様は美味しそうにキンキンヒエヒエ酒を飲みながら言った


「やはり、太陽の元で飲む……いや、ここは地下じゃが……そうじゃが……とにかく美味なのじゃ……リコッチー、食べ物も出してたもれ」


「分かりました、では最初にこちらをお召し上がりください」


そう言ってリコッチーは、ヘラ様の前にあるテーブルにラーメンどんぶりを2つ置いた


だがパッと見、普通のラーメンではなかった……


ラーメンどんぶりの中に、ひとつは塩がドーム状に、ひとつは味噌がドーム状に、てんこ盛りに盛られていたのだった


不思議そうに見ていたヘラ様がリコッチーに聞いた


「リコッチー、この2つのラーメンどんぶりに盛られた塩と味噌は何じゃ?」


「はい、ヘラ様、これは、塩、(ごにょごにょ)ーメンと、味噌、(ごにょごにょ)ーメンです……」


「おおー! わらわは、塩ラーメンも味噌ラーメンも好物であるぞよ! ルキ、皆に取り分けてたもれ」


「はい、ヘラ様……では……」


俺はまず、塩ラーメンと思われる塩のかたまりに箸を入れようとした


カチン……


「リコッチー、固くて箸が通らないぞ、この塩の下に塩ラーメンがあるんだよな?」


「えっ? ええ……あっ、このミニハンマーで割ってみて」


俺はリコッチーからミニハンマーを受け取るとラーメンどんぶりに、てんこ盛りに盛られたカチカチのドーム状の塩の塊にミニハンマーを打ち付けた


ピキピキ……割れた……俺は割れた塩の塊を外した……


「おわっ、えっ、わー!!!!」


俺は叫び、俺に続いてヘラ様とイーリスも叫んだ


「何じゃ、それはー!!!!」


「何なの? これ一体何なの!!!!」


俺は心底びっくりした……なぜなら割れた塩の塊の中からリアルな男の顔が出てきたからである


しかもさわやかな笑顔だった……


「リ、リコッチー、これは一体何なんだよ……」


「ああ、ルキ、驚いた? うふふ、それは塩顔イケーメンよ、美味しそうでしょ?」


「何が涼しい顔で、美味しそうでしょ? だよ! 腰抜かしそうだったぞ! ていうか、これは食い物なのか? 食えるのかこれ?」


「もちろん、食べられるわよ、麺で出来ているんだから……ただ……食べてるうちにグロテスクな状態になるから、そこは覚悟しとかないといけないわよ、うふふ」


「やかましいわ!!!! あっ、ヘラ様食べます?」


「いらぬ!!!!!!!!」


「ですよね……じゃあ、もうひとつのラーメンどんぶりに、てんこ盛りになっている味噌の下にも……」


「ええ、笑顔の味噌顔イケーメンがいるわ」


俺はスプーンで味噌をよけていくと、味噌まみれの顔が出てきたので、すぐに周りの味噌で埋めなおしたのだった……


「気分が悪くなったぞよ……」


ヘラ様はそう言うと俺の胸に倒れ込んできた


「大丈夫ですか、ヘラ様!」


俺はそっと包み込むようにヘラ様を抱きとめるとリコッチーをキッとにらんだ


するとリコッチーが、あたふたしながらヘラ様に言った


「あっ、これは、申し訳ありません、ヘラ様、次……そう、次こそは、お気に召されると思います……では」


リコッチーはそう言うと大きな皿をヘラ様が座っているソファーの前のテーブルに置いたあと、顔ほどもある大きな容器を取り出し、ひっくり返すと、そこに付いている突起を引っ張った


すると中から何かが勢いよく、大きな皿の上に落ちてきた


「プッチーン! おい、てめーら、おいらを食おうってんじゃないだろーな!」


大きな皿の上に落ちてきたのは、顔ほどもある巨大なプラムらしき物に、目と鼻と口が着いた奇妙な物だった


しかも少しキレているらしかった


「プッチーン! さっさと答えろや、そこの兄ちゃん!」


その物体は俺に向かって言ってるらしかった


「えっ、俺の事? い、いや、君を食べる気はないんだけど……リコッチー! 今度は何なんだよ、これは!」


「ああ、これは、王都の近くにある、ぶどう村産のプッチーン・プラムよ! とっても美味しいから食べてみて」


「食えるか! こんなもん!」


「なんやて、兄ちゃん、ワイに言っとるんちゃうやろな!」


「あっ、違いますよ、プラムさん、そこの魔術師に言ったんです」


「そうなんか? ほな、ええけど……」


「リコッチーさん、プラムさんお帰りになるって」


その時、俺は、たしかに一瞬リコッチーの口角が上がるのを見逃さなかった


「えー、プッチーン・プラム、食べないんですかぁー? 分かりました、じゃあ……」


そう言ってリコッチーは魔術師の杖を取り出し振ると、プラムさんは皿の上から消えたのだった……


俺は皿の上にプラムさんが居なくなったことにホッとし、リコッチーに抗議するため、リコッチーの方を向いたが、そこにリコッチーの姿はなかった


「あれ? リコッチーは……まさか、ヘラ様……」


俺はヘラ様にそう言ったが、ヘラ様は何も言わずグラスに入ったキンキンヒエヒエ酒を美味しそうに飲み干したのだった


するとその時、公爵令嬢アリーシャが言った


「あの、ヘラ様、私が買ってきたドーナツとチュロス食べます?」


「何? ドーナツとチュロスとな、食べたいぞよ!」


そう言って急に元気になったヘラ様を見て俺は思った


(リコッチー、どこ行ったのかな? まっ、いっか……)






すぐにアリーシャ公国の公爵令嬢アリーシャがドーナツとチュロスを持ってヘラ様の前にやってきた


このドーナツとチュロスは俺とアリーシャがさっき、コンコースにある店で買ったものだ


目の前にあるドーナツとチュロスは皿の上に山のごとく盛られている


形状はというと、ドーナツは輪つなぎドーナツといって、誕生日などに飾る輪つなぎのように小さなドーナツがリンクチェーンのような形で繋がっている


チュロスも同じように、小さなチュロスが、こちらはマンテルチェーンのような形で繋がっているのである


「ヘラ様、お紅茶いかがですか?」


「うむ、もらうぞよ……アリーシャきょう……いや、レディ・アリーシャと呼ぶべきかの……すまぬの……レディ・アリーシャもここに座って一緒に食べようぞ」


そう言うとヘラ様は嘘のように一気に機嫌が良くなった


俺はドーナツをもらいテラスの方に歩いて行った


ドーナツを食べながら眼下を見た


どうやら、全ての本大会の予選が終わったらしい


「しかし、パンフレットにもあったように、カーリンが市民大会の予選1位とは……やはり、カーリンは強いんだな……ん? えっ、なんだあれ?」


俺はそうつぶやいたあと、前方から、ものすごいスピードでこちらへどんどん近づいてくる物体に対し目をらしたのであった……

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