アーサー王国の王都に建設された巨大コロシアム、ギネヴィア・アリーナ
……ある天使がギネヴィア王妃の耳元でそっと囁いた……
今回、第2王妃から第1王妃へと繰り上がったギネヴィア王妃……アーサー王国の元敵国キャメロット王国から政略結婚で嫁いできたプリンセスである……きっとアーサー王も分かっていたはず……だが、ギネヴィア王妃の美貌と調略により、ガヘリス王太子は産まれたのであった……
ワァァァーーーー!!!!!!!!
アーチ型のトンネルの向こう側から大歓声が聞こえてくる
俺とオリンポス最高神ヘラ様とヘラ様の側近で虹の女神イーリスとアリーシャ公国の公爵令嬢アリーシャは、異種生物格闘レースが行なわれるギネヴィア・アリーナへ続くトンネルを抜けようとしていた……
その1時間前……
異種生物格闘レースを観戦するため王都の南エリアの西側にある公爵令嬢アリーシャが所有する別荘で着飾った俺たちはアリーシャの4頭立ての大型馬車に乗りギネヴィア・アリーナへ向かっていた
よく晴れた日で俺の隣に座っているヘラ様の右手薬指にはプロメテウスの指輪が光り輝いている
馬車は中央にある大通りに出て北へ向かいアーサー城の手前を右に進んだ
しばらくして、アーサー王国騎士団の施設が立ち並ぶエリアに着くと、ギネヴィア・アリーナへの道案内が表示されており、その通りに進むと無事駐車場に着いた
そして今からほんの少し前、俺たちは、城郭都市である王都の地下に建設された巨大コロシアム、ギネヴィア・アリーナの最上階に通じるコンコースに出るために地上からアーチ型のトンネルに入ったのであった……
「なんだこれ……」
トンネルを抜け最上階に通じるコンコースに出た俺たちがアリーシャのあとについてエレベーターに乗りメイド付きのVIPルームらしき部屋に入ると、俺は1番奥のテラスのように張り出した場所に走って行き、手すりを両手で持ちながら辺りを見回し開口一番そう言った
とにかく壮観だったのだ……
まず驚いたのは、そこが地下であるにもかかわらず昼間のように明るく開放感に満ち溢れていたことである
「驚いた?」
公爵令嬢アリーシャが俺の気持ちを見透かしたように言った
「ああ、なんで、地下……」
「なんで、地下なのに外にいるかのように明るく、開放感があるんだー! でしょ?」
「えっ、そうだけど……その喋り方、ほんとアリーシャ、性格変わったな」
「そう? 弟が出来て王都に来てからいろんな問題が解決して少し気持ちが楽になったせいかな……」
アリーシャはそう言うとおどけた表情を見せたあと続けて言った
「ルキ……ミーナが退陣した後……(ミーナとは可愛いうさぎの獣人でアーサー王国の元首相である)、今の政府は更に魔術省に国の財源の中から多くの予算を割いていろんな魔術の開発に力を注いでいるらしいわ……今、眼下の擬似草原で戦いが行なわれている人族の剣闘士同士の戦いが、4階正面に設置されている超巨大水晶玉に映し出されているでしょう……つまりこのギネヴィア・アリーナは魔術省の主導で建設されたのよ、それに、なにより……」
「なにより、なんだよ」
「うん、これはここだけの話にして欲しいんだけど……なにより、新しく魔術省のトップになった魔術大臣の……」
ワァァァァーーーー!!!!!!!!
その時剣闘士同士の勝負がついたのか再び耳をつんざく歓声が聞こえた
俺は考えていた……
(なるほど、この昼間の明るさや開放感は魔術省の魔術のせいか……しかし巨大なコロシアムだな……このVIPルームまでの高さは一体どのくらいあるんだ? クラクラする高さだな……しかも満員の観客……10万人以上は、いるかな……噂を聞きつけて各地からやって来たのかな……)
「ねぇ、アリーシャ、ここは全体が見渡せるのはいいけど、、少し地上まで遠いよね……あっ、それで新しい魔術大臣が何だって?」
「はっ? ルキ!!!! せっかく1番高い席を予約したのに、地上まで遠いとか言っちゃってムカつくわね」
すると横で聞いていたヘラ様がすぐさま言った
「アリーシャ卿、すまぬな、わらわの顔に免じてルキの暴言を許してたもれ」
「えっ、そんな、ヘラ様、冗談ですよ……ルキはいつもこんなやつですし」
「おい、アリーシャ、こんなやつって何だよ! いや、それにしてもアリーシャ性格変わりすぎだろ! あの上品なアリーシャ様はどこにいったんだよ!」
「はっ? ルキ! 教えといてあげるわ、上品な人はみんな演技なのよ、24時間上品な人なんているわけないじゃないの!」
「怖ーよ、アリーシャ……ヘラ様も何とか言ってくださいよ」
「もうよいからルキは静かにしておるのじゃ、それよりアリーシャ卿、このアリーナの観客席はどうなっておるのじゃ?」
「はい、ヘラ様、ではこのVIPルームのメイドに説明してもらいましょう」
アリーシャはそう言うと部屋の隅に控えているメイドに向かい説明するように言うと、メイドはヘラ様のそばに来て、かしずいた後、説明を始めた
「では、ご説明させていただきます……まずこのギネヴィア・アリーナの観客席は下から4つのエリアに分かれておりまして地面に近い1階席は招待客の席になっており主に王族や貴族の方の席になっております……次に2階席は騎士の方の席、3階席は一般市民の方の席……そしてこの4階席は中央に向かって少し張り出している食事が出来るメイド付きのVIPルームになっております……ちなみに収容人数は20万人となっております」
「なるほどの……じゃが、この地下アリーナに、どうやって巨大なマンモスを登場さすのじゃ?」
「はい、この地下にあるギネヴィア・アリーナからは王都の城壁の外へと地上に繋がる別の入り口がございましてそこから、マンモスなどの巨大生物を搬入しています」
「分かったぞよ、それにしても、ものすごいものを作ったものじゃな」
「そうですね」
俺がそう言ってヘラ様の隣の席に座ろうとした途端、イーリスが俺の前に割り込んできて言った
「ルキは何か適当にコンコースにある店で食べ物や飲み物を買ってきなさいよ」
「はっ? この部屋にもいろいろあるだろ!」
「コンコースにある店にしかないものを食べたいのよ……ヘラ様もそうですよね?」
「うむ……まあ、そうじゃな……」
「ほら、ヘラ様もこうおっしゃっておられるんだから、早く行きなさいよ! そして戻って来なくてもいいから」
「おい、イーリス! 戻って来なくていいってどういうことだよ! まあ、俺もコンコース見たいから見学がてら行ってくるけどさ……じゃあ、ヘラ様、行ってきます」
俺が部屋を出ようとすると慌ててアリーシャが言った
「わ、私も行くわ!!!!」
VIPルームを出てエレベーターに乗りコンコースの階で降りアリーシャとコンコースを歩き始めるとアリーシャが言った
「それで、ルキ、さっきの話なんだけど……」
「えっ、何? そこの美味しそうなもの見てて聞いてなかった」
「ちょっと! ルキ、こっち向きなさいよ!」
「えっ? ああ、何だよ……」
「さっきの話……新しい魔術大臣のこと……」
「うん、それは気になってた、それで?」
「ええ、リコッチーのパパがね……」
「はっ? なんでそこでリコッチーのパパが出てくるんだよ」
「いいから、聞きなさいよ! 張り倒すわよ!」
「おい! ほんとにあのアリーシャか? 絶対影武者だろ!」
「はいはい、じゃあ、影武者でいいから……実はギネヴィア王妃が第2王妃からから第1王妃に繰り上がる日にリコッチーのパパ……元魔術大臣で長い間、魔術省のトップだった大魔術師マーリン様が白馬に乗って現れたんだけど、その新しい魔術大臣……湖の貴婦人こと、魔術師ヴィヴィアンと会ったあとに忽然と消えたのよ……ヴィヴィアンはマーリン様が一線から退いた原因を作った女性だから、オリンポス派のみんなはそれ以来、酷く心配してるというわけなの……」
「なるほどな…………えっ? はっ? えーーーー!!!!!!!!」
目の前にいたパンフレットを配る女性からすれ違いざまに、何気なく手渡されたパンフレットに書かれてある名前と写真を見て俺は驚き叫んだ……と同時に俺は何者かに後ろから肩を叩かれたのであった……




