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サリエル山から吹き降ろす風

「さてと……」


俺は小型空浮艦ココアサンドラ号の中にある住居エリアのリビングのソファーからおもむろに立ち上がり、リビング左側の端にある操作パネルを操作した


ガチャ……ウィーン……


すると、少し大きめな音と共に左側の壁が、上から下に向かって動き出し、上の方から徐々に外の景色が見えてきた


実は、この部屋の外側の艦体は2重になっており外側の艦体だけをスライドさせて内側の巨大な全面ガラス張りの窓を出すことが可能なのである






しばらくすると、巨大な防弾ガラスの窓は全貌ぜんぼうを現した


「すごい!!!!!!!!」


徐々に強烈な太陽光と共に俺たちの前に現れたそれは、強烈な存在感を放っていた


「アーサー王国の王都に着いたぞ!!!!!!!!」


俺たちの眼下には自然豊かな緑のキャンバスのような森の中に、周囲20km四方にわたり広がる城郭都市アーサー王国の王都の雄大な景色が現れたのだった


城郭都市であるアーサー王国の王都は中央にあるアーサー城から放射状に鮮やかで美しい街並みが広がっていた


貴族や騎士が住むエリアや一般市民が住むエリア、その外側にある避暑地やさまざまな施設などは明らかに色合いが違い上空から見るとそれらはまるで最初からバランスを取るために描かれた絵画のように美しい配色のバランスを保っていた……


そしてアーサー王国の王都の向こう側……北側には黒い雲に覆われた高い山がそびえていた……






……大天使サリエルは死の天使と呼ばれている……


なぜなら人族の間に伝わる大天使サリエルとは、黒い衣をまとい大鎌を持ち人々の魂を狩る霊魂の看守という死神のようなイメージだったからである


だが天界に住む、死の天使と呼ばれる大天使サリエルは、見た目は冷たいオーラを放ち近寄り難い雰囲気ではあるが、実際は天使たちが学ぶ学校、エンジェルスクールの心優しき教師であった……


たしかに、かつて大天使ラファエルの右腕として働いていた時代は、天使の罪を執行し堕天させる役目をになっていた


だが仲間を想い、心を痛め、血の涙を流すほど優しき熱い男でもあった……






そして元々、天界信仰の国であるアーサー王国の王都のすぐ北にそびえる山を人々はサリエル山と呼んだ


サリエル山の北に広がる死の砂漠からその名が連想されたのか、このサリエル山一帯は、サリエルの名が多くついていた……


元々と言ったのは、最近追放となった(表向きは里帰りとなっている)ケレス第1王妃は、実は国民には隠していたが大地と豊穣の女神デメテルであった


よって、夫であるアーサー王も天界信仰からオリンポス信仰を推し進めるようになっていたのだが、女神デメテルがいなくなり、代わりに天界信仰派のギネヴィア第2王妃が第1王妃に繰り上がると天界信仰派の勢力が増し、息子のガヘリス王太子を擁立ようりつしようと画策かくさくしていた現政府の力も増し、今やアーサー王国は元々あった天界信仰国に戻っていたのであった……






あれから2週間経った今朝、アーサー王国の王都の北にそびえるそのサリエル山のふもとの樹海の目の前にある大きな湖、サリエル湖にある人工ビーチ公園に俺はオリンポスの最高神ヘラ様を王都から連れ出し、手を繋ぎながら散歩がてらやって来ていた


この噂に聞くサリエル山の雄大な景色を、みんなには秘密の愛するフィアンセ、ヘラ様と一緒に見たかったからである


季節は、やっと冬から春らしい季節になってきたとはいえ、まだサリエル山から吹き降ろす風は冷たくもあった


突然サリエル山の方から突風が吹いてきた


「ルキ、寒いぞよ」


俺は、ヘラ様がそう言い終わる瞬間には、もうヘラ様をギュッと抱きしめていた


「あったかいぞよ、ルキ……」


「ヘラ様……」


俺は幸せすぎてヘラ様が愛おしくなり、さらに強くヘラ様を抱きしめた……


そして……






えっ? なぜ2週間後かだって?


ちょっと……今、ヘラ様と幸せを噛みしめてる最中なんですけど……ね


まあ、いっか……


それは2週間前、俺たちは小型空浮艦ココアサンドラ号で、ギネヴィア・アリーナ完成記念、異種生物格闘レースを観戦するためやって来たんだけど、アーサー王国の王都手前からアーサー王国騎士団偵察空浮艦に大空浮場まで誘導され到着した際、このイベントが、突然アーサー王国から独立したアルテミス国の影響により延期となったことを聞いて、それからずっと王都にいるんだよ


しかも運が良いことに、たまたまアリーシャ公国の公爵令嬢アリーシャに出会って、今は王都の南エリアの西側にあるアリーシャ所有の別荘に滞在させてもらってるってわけさ


分かった?






その時、甲高い犬の鳴き声のような声が聞こえた


俺が声のした方を見ると、そこには2体のガラの悪そうな犬の獣人がいた


おそらく野良犬獣人だと思われるその獣人は言った


「ヒューヒュー、兄ちゃん、そんなところで、とびきり美人な彼女と抱き合っちゃってやけるね」


「うるさい、あっちいけよ」


俺がそう言うと、突然野良犬獣人2体が戦闘態勢を取りイキり出した


「なんだ、兄ちゃん、やんのか?」


俺はため息をつきヘラ様を体から離すと、ヘラ様を背にして野良犬獣人2体の前に立ちふさがり悪魔のオーラを出しすごみながら言った


「は? 俺と何だって?」


その瞬間、突然2体の野良犬獣人は体がビクッとなり言った


「な、なんだよ、お前、そのオーラ……まあ、今回は見逃してやるよ……じゃあな!」


だが、今、慌てふためき逃げ出したはずの2体の野良犬獣人が突然消えた


「あれっ、消えた」


俺はそう言うと振り返りヘラ様に聞いた


「ヘラ様、あいつらを消しました?」


「消したぞよ」


「あいつらは、一体どこへ?」


俺が再度ヘラ様に聞くと、ヘラ様は黙って樹海の方を、指さしたのだった……




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