アイスの魔女セリーナ
小型空浮艦スキュアー・ダンプリング号のコックピットにいるノースフォートランドのマイーナ王女は月の女神アルテミスに言った
「アルテミス様、アーサー王国の領空に入りましたが、アルテミス神殿前でお降りになりますか?」
「いえ、買いたいものがあるから、お菓子の国のアイスタワーで降ろしてもらえるかしら」
「分かりました……ギンちゃん、アイスタワーに向かって!」
「承知しました! ではお菓子の国のアイスタワーへ向かいます」
小型空浮艦スキュアー・ダンプリング号の副操縦士でペンギンの獣人ギンちゃんはハンドルを左に切った……
その頃、お菓子の国のアイスタワーには一人の魔法族の少女がいた……
魔法族とは、魔法を操る能力を持って生まれた種族のことで、主に魔法界に住んでいる者のことを指しており、アーサー王国にある魔術師学校で魔法を学び、訓練によって魔法を身につけていく人族とは根本的に違う種族であった
その魔法族の少女は名前をセリーナと言い、周りからアイスの魔女と呼ばれていた
なぜそう呼ばれるようになったかと言うと、とにかくセリーナはアイスを食べることが大好きで、魔法もアイスに関連した魔法を使うことが多いだけでなく、このアイスタワーをセリーナの為に設計したセリーナのパパは、お菓子の国の伯爵でアイス大臣であるということも、セリーナがアイスの魔女と呼ばれる一因であった
ちなみにお菓子の国の伯爵令嬢、アイスの魔女セリーナのママは魔法界の名門の魔法族である
今、セリーナは、お菓子の国にある、タワー全体がアイスで出来た地上888mのアイスタワーのエレベーターの中にいる
アイスタワーには2つの展望台があり、地上326mの高さにある展望台のチョコアイス展望台と、地上696mの高さにある展望台の、もちもちアイス展望台があった
セリーナはそのうちの一つ、地上326mのチョコアイス展望台でエレベーターを降りた
色んなアイスが販売されているエリアを抜け、高精細双眼鏡が設置されている場所まで来ると、おもむろに双眼鏡を覗いた
肉眼でさえも遠くまで美しい景色が見えるよく晴れた日だった……
双眼鏡を覗いたセリーナは、まず眼下のお菓子の森を見ながらお菓子の領地が続く左方面に双眼鏡を向けた
そこにも、ずっとお菓子の国は続いていたが、お菓子の森を抜けた先には板チョコ野原が見えた
板チョコ野原には、たくさんの野良シュークリームが、風で転がっているのが見える……その奥には梅果汁の湖も見えた
さらにその先にはアイスの滝があり、豪快なアイスのうねりと共にアイスの飛沫が飛び散っていた
ちょうどそのアイスの滝の前辺りにお菓子の国の王都がある
次に、セリーナは双眼鏡を右に向けた
右方面は手前から奥まで広大なエルフの森が広がっている
そしてそのエルフの森の先にはエルフの女王が住む一際目立つ城があり、その城の周りには美しい街並みも見えた
セリーナは、最後に正面に双眼鏡を向けた
正面には妖精の森があり、そのさらに先にはアーサー王国が広がっている
そもそも、お菓子の国とエルフの国と妖精の国は仲が良く同盟も結ばれ、このアイスタワーの眼下に広がる広大な森にはアーサー王国も含め4つの国を繋ぐ大きな道が整備されていた
そしてその4つの道がちょうど交わる四辻のそばには、お菓子の国のプリンセス、ミホリーナが経営するレストラン【リストランテ・プリンチペッサ・ミホリーナ】があった
さらに、エルフの国とアリーシャ公国は友好国なので、アリーシャ公国からアーサー王国を抜けエルフの国までの大きな道がもう一本、別に整備されていた
セリーナは双眼鏡でお菓子の国から伸びている整備された道沿いに見ていくと、妖精の森から抜ける道の先には、ちょうどアーサー王国の東側の端の緩やかな丘の上に建つ巨大なアルテミス神殿とアルテミス宮殿が見えた
アルテミス宮殿には美しき月の女神アルテミスのシンボルが描かれた旗が風ではためいている
そしてアルテミス宮殿の庭と思われる場所には一本の巨大な月の木が見えた
今日は風が強いのか、月の花びらが美しく舞い、宮殿を包み込んでいるかのようにも見えた
アイスの魔女セリーナがその美しさに思わず感嘆の声をもらしていると、あることに気がついた
「ん? アルテミス神殿の向こう側にアリの行列のように長い列が見える……あっ、あれは軍隊だわ!」
だがセリーナが驚く間もなく、突然双眼鏡の前をものすごいスピードで通り過ぎる物体が見えた
アイスの魔女セリーナは急いで双眼鏡から目を離し肉眼でその物体を追った
「えっ! 何よあれは! なんだか、とても……美味しそう……」




