お菓子の家での思わぬ情報
俺とオリンポス最高神ヘラ様とその側近で虹の女神イーリスはお菓子の家の前にやって来た
その入り口の扉は、まるでチョコレートを大きくしたような形をしており、ほんのり甘い匂いがした……
俺は扉を開けようとしたが、どうやらカギがかかっているようだった
俺は扉についているドアノッカー……見るからに死神のような顔の両耳あたりから聴診器のように出ているそのドアノッカーを掴みドアをノックした
トントントン……
するとすぐに扉の目線の高さに一つだけ不自然についていたチョコクッキーが横に動いたかと思うと、チョコクッキーがあった場所に5cmくらいの穴が現れ、その穴からギョロッとした目玉がこちらを見たのであった
「あら、お客さんかしら……」
ガチャ……
ギョロッとした目玉が引っ込んで声がしたかと思うと、突然カギを開ける音がして扉が開き、中から、いかにも魔法使いのような女性が出て来た
「いらっしゃいませ……中へどうぞ」
その魔法使いのような女性はドアを左手で押え右手で中に招き入れるように5本の指先を店内に向けた
女性越しに見える店内は素朴なゆったりとした雰囲気だったが、その空間から溢れ出てくるパンの良い匂いはものすごいスピードで俺たちに襲いかかってきた
イーリスは空腹のせいか一瞬でその匂いにやられてしまった
「ヘラ様、早く中に入りましょう!」
そう言うが早いか勢いよく店内へ入っていったイーリスの後を追いかけ、ヘラ様、俺、そして魔法使いのような女性の順番で店の中に入っていった
「ところで、この店の名前はなんと言うのかの?」
イーリスに追いついたヘラ様が突然、振り返り魔法使いのような女性に聞いた
「はい、この店の名前は、森のパン屋【お菓子の家】でございます」
「いや、ややこしいな!!!!」
俺はヘラ様が質問したにもかかわらず、思わず魔法使いのような女性にツッコんでしまった……
するとヘラ様は急に俺を可愛く睨み、ほっぺを膨らましたのだった……
(あっ、きっとヘラ様……ご自分でツッコみたかったんだな……俺……やっちまった)
俺はすかさずヘラ様に向かって手のひらを合わせ、囁くような声でごめんなさいと言うと、ヘラ様は、今度は急にニッコリ笑顔になったかと思うとウインクをしてきたのだった
俺は当然その可愛すぎるウインクにやられメロメロになるはずだった……だがその時俺は自分の目の端に、冷たい視線を俺に向けるイーリスの顔があるのに気づきハッとして慌てて魔法使いのような女性に言った
「えっと……その……店の名前なのに変な事言ってごめんなさい……あなたは、この店の店員さんですか?」
「いえ、いいんですよ……店の名前のことはお客さんみたいなエラそうなかたによくツッコまれますし全然気にしていませんわ……申し遅れました、私はこの店のオーナーでジーナと言います」
「そ、そうですか……」
(ん? 今、俺のこと、さらっとエラそうって言ったよな……これはやっぱり怒ってるな……)
「昨日の旅のお客さんにはもっと酷い事を言われましたし……店の名前をちょっとイジられたくらいで気にはしていませんわ」
(いや、そう言いながら、めっちゃ俺を睨んでくるやん!!!!)
俺は自分へ向けられた敵意を、昨日来た客にすり替えるため言った
「あ、あの……昨日来たその酷い事を言った旅の客って一体どんなやつなんですか? とんでもないやつですね! きっとイカつい輩みたいなやつなんでしょうね!」
「えっ? いえ全然……ものすごい美貌の女神様でしたよ……」
「えっ? 女神様? 女神様が暴言吐くんですか? その女神様の名前は分かりますか?」
「え……っと、その旅のグループは4人組だったんですけど、その中の戦士の格好をした方が、たしか……ヘスティア様! 女神がそういうことを言うもんじゃありませんって怒ってくれて、その場は収まったんですよ」
「め、め、女神ヘスティアが!!!! どうしてこんな森の中に……しかも旅をしているなんて……あっ、あとの2人はどんなやつでした?」
「えっと……ひとりは可愛いエルフの少女で、もうひとりは山のような熊の獣人でしたよ」
「エルフの少女? 熊の獣人? 戦士? う〜ん……どういうことだ? 分からない…… 」
俺が考え込んでいるとイーリスが言った
「ヘラ様、ヘスティア様は一体、何をされているのでしょうか?」
「わらわも分からんぞよ……まあよいではないか……別にただ旅をしているのではないのかの?……ルキ、もうヘスティアのことはよいからパンを買うぞよ」
「分かりました……」
俺はそうヘラ様に素直に答えはしたが、頭の中では依然として、また女神ヘスティアが悪いことを企てているんじゃないかと思いつつ、目の前にあるパンの陳列棚を見渡したのだった……




