食料調達……そして魔剣マジカルデビルソードのソーちゃん
「馬よ、歩け!!!!」
湖のそばにテレポートしたアンドロイドホース1頭立てカブリオレ型二輪馬車に乗った俺は前方のアンドロイドホースに向かってそう言った
ガチャ……ウィーン……ガシャン……ギギギ……ガガガ……
「ヒヒ、ヒヒ、ヒッヒヒ〜ン!!」
すると突然アンドロイドホースが機械音と共に人間のように立ち上がり高い声で嘶いたかと思うと二足歩行で歩き出した
「いや、そうじゃなくて……馬! ちょっと止まれ……おい、マリア! マリア! 聞こえる? ちょっとこっちに来て!」
次の瞬間、マリアは俺の膝の上にいた
「なによ」
「いや、なによ、じゃなくて、どけよ、前が見えないだろ」
「あー、そっちのことか、ごめん」
するとマリアはみるみる体が小さくなっていき20cmくらいになると俺とヘラ様の間にちょこんと座った
「それで、私に何の用?」
「えっ、マリア小さくなれるの?」
「ええ、体のサイズは自由自在よ……だって所詮、私は3Dホログラムが基本になってる物体にすぎないんだから……」
「それでさマリア……アンドロイドホースが人間のように歩くんだけど」
「ちょっと! 私の感傷的な部分をスルーしないでよ! まあ、別にいいけど……それで、何だっけ? ああ……たしかにアンドロイドホースはおもしろい反応したわね、でもまあ、まだ研究段階だからガマンして……上手く言葉の意味を理解出来ないんだと思うから」
「うん、まあ馬車が進めばいいわけなんだけどさ……なんか、こう……ロマンチックな感じを想像してたから……ねえ、ヘラ様、そうですよね?」
「まあ、ロマンチックなほうがよいが、これはこれでよいのじゃ」
「そうですか? じゃあマリア……もういいや……じゃあ行ってくる」
「あっ、ちょっと待って渡すものがあってちょうど追いかけようと思ってたのよ……取ってくるから待ってて」
「ああ、分かった」
そう言うとマリアは消えた
しばらく待っているとマリアが再びやって来た
「お待たせ……はい、まずは釣り竿! ルキ、マンモスはいいから、せめて魚くらい釣ってきてね……今調べたら、あそこに見える湖の中から突き出た大きな岩の周りに魚がいっぱいいるわ」
マリアはそう言って湖の左およそ50メートルほど先にある岩を指さし、2本の釣り竿を俺に渡した
俺が釣り竿を受け取るとヘラ様は興味津々な顔で俺に体を寄せてきて俺の手から釣り竿を1本奪うと釣り竿をじっくり眺め始めた
これが噂に聞く釣り竿という物かの?
「そうですよ、ヘラ様、いっぱい釣りましょうね……ってあれっ? マリア……釣りのエサは?」
「ああ、エサはいらないわよ、この釣り竿はモモーナが忘れていった魔法の釣り竿だから」
「えっ……ああ、 そういえば以前、アレスの店でモモーナは釣り竿を買ってたな……たしか、店員が時々魔物も釣れますとか何とか言ってたような……まあ、とにかくやってみるよ」
「ええ、頑張って! あとこれは釣った魚を入れる箱……魚を入れてこの画面を操作すると魚の説明をしてくれるから……そしてあと……はい、水筒とコーヒーカップ、中に熱々のコーヒーが入ってるからね……さっき渡すの忘れてたのよ」
「えっ……マリア、何から何までありがとう……じゃあ行ってきます」
「ルキ、行ってらっしゃい」
「マリア、わらわも行ってきますのじゃ」
「ヘラ様も行ってらっしゃい」
馬車は湖を左回りに進み、すぐに湖から突き出た岩のそばのほとりに着いた
俺は馬車を先に降りてヘラ様に手を差し出すとヘラ様は俺の手を取り馬車から降りた
イーリスも立ち台から降りてこちらにやってくると言った
「ヘラ様……私だけ後ろに立ってて寂しかったです……ルキ、あんた私と代わりなさいよ!」
「仕方ないだろ! 俺は御者としての音声認証してるから座らなきゃいけないし、ヘラ様を後ろに立たせるわけにはいかないだろ!」
「そ、それはそうだけど……分かったわ、じゃあ釣りは私とヘラ様の2人だけでするから、ルキは森の奥の奥の奥の奥に行って食料調達してきなさいよ!」
「おい! どんだけ俺を森の奥に行かせたいんだよ! あっ、ヘラ様はどう思われますか?」
ヘラ様は一旦俺に軽く目配せしたあと俺に言った
「そうじゃな……わらわはイーリスと釣りをしておるから、ルキは森に行って来てたもれ」
「分かりました……じゃあお昼ご飯を食べたら森の中へ食料調達に行ってきます」
ヘラ様の真意は分かったので俺は素直にヘラ様に返事をするとイーリスから食料を入れる袋を受け取ったあと、水筒に入った熱々のコーヒーを3つのコーヒーカップに注ぎヘラ様とイーリスに渡した
湖を見ながら飲むコーヒーは格別だった
そして俺はお昼ご飯のでっかい三段重ねの重箱を開けた……
一段目にぎっしりとおにぎりが、二段目に玉子焼きがぎゅうぎゅう詰めに、そして三段目にゆで卵がぎっちぎちに入っていた
「いや、おにぎりとたまごだけですやん」
俺が言うとヘラ様がすかさず言った
「ほれ、だから言ったであろう! 食料がないことは、ルキが言う、そんなことではないのじゃ!」
「はい、分かりました、肝に銘じておきます……ですがヘラ様、すぐにアーサーー王国の王都に向かえば良かったのでは?」
「それは、嫌なのじゃ! ゆっくりと行きたいのじゃ!」
ヘラ様はふくれっ面になり俺を見つめてきた
か、かわいい……
俺はその可愛さに悶えた……
「はい、ゆっくり、楽しんで行きましょう!!!!」
俺がそう答えるとヘラ様はたちまち、満面の笑みを浮かべたのだった
「ヘラ様……では森の中へ行ってきます」
俺はお昼ご飯の後、しぶしぶ森の中へと入っていった……
「暗い……寒い……寂しい……」
俺は森の中をブツブツ言いながら歩いていた
しばらくすると……
バサバサバサ……
鳥の羽ばたく音がして俺は木の陰に隠れて音のする方を見た
「ホネツキチキンドリだ!!」
それは、この辺り一帯に生息する、お肉が羽を生やして飛んでいるホネツキチキンドリだった……今は木の枝にとまっている
「ツイてるな……この寒い時期にホネツキチキンドリに会えるとは……だけど一匹だけか……って待てよ……どうやって捕まえるんだ? 弓矢がないぞ!」
俺はしばらく考えていたが、ある事を思い出した
「そういえば、リュウト君が魔剣を召喚出来るって言ってたな……剣自身が意思を持ってるとも言ってたけど……どういう事だろう……まあ、何にもないよりマシだし召喚してみるか……」
俺はすぐに魔剣マジカルデビルソードを召喚した
ボワ〜ン
煙と共に現れた見るからに毒々しいその魔剣はふわふわと空中を漂っていたかと思うと突然喋り始めた
「誰だよ、俺を突然召喚しやがったやつは!! 俺は今メシの最中だったんだぞ!!」
(魔剣が……喋ってる……しかもあんなにいきり立って……怖いよ……リュウト君、魔剣の説明、大事な所が抜け落ちちゃってるよ)
俺は魔剣に話しかけた
「あのー、すいません、ちょっといいですか? 」
「なんだー? お前は! まさかお前が俺様を呼び出しやがったのか?」
「はあ……まあ、そうですね、俺が呼び出しちゃいました……お食事中の所、大変申し訳ありませんでした」
「おう! なかなか出来た野郎じゃないか! 礼儀正しいやつは好きだぜ! 気に入った……ところでお前の名前はなんて言うんだ?」
「はい、ルキと言いますが……」
「何、ルキ……ル、キ……えーっ!! もしかしてあのルキ様ッスか? これは大変失礼いたしました!! リュウト君から聞いてましたー!! すいませんっした!! この上は腹かっさばいてお詫び申し上げまする~……って俺に腹はないんスけどね、あはは」
「いや、あははって……君、すごい変わりようだね、二重人格って言われない?」
「チーっす、よく言われまッス」
「まあ、いいけど、とにかくこれからよろしくね……ところで君の名前はなんて言うの?……あっ、あと喋り方は普通でいいよ」
「はい! 分かりました、ルキ様! わたくしの名前はマジカルデビルソードのソーちゃんであります!」
「へー、ソーちゃんって言うんだ、よろしく」
「こちらこそよろしくお願いします……ルキ様、何なりとお申し付けください」
「じゃあさっそく、ソーちゃん、弓矢に変身出来るかな?」
「はい、出来ます……それっ!!」
ボワ〜ン
ソーちゃんは煙と共に弓矢に変身したのだった
俺は左手で弓を構えると矢を右手の人差し指と中指と薬指で弓の弦にかけ目一杯引いた
そして木の上にいるホネツキチキンドリに狙いを定め矢を放った……が、その瞬間ホネツキチキンドリは飛び立った
「あっ、だめだ……」
俺がそう呟いた瞬間、飛んでいる矢が突然急上昇したかと思うと今飛び立ったホネツキチキンドリに命中したのだった
「やった!!!!」
俺は地上に落ちてきたホネツキチキンドリを拾い上げた
するとホネツキチキンドリに刺さっていた矢が自然と抜け弓のほうに向かってきてそして一体となった
ボワ〜ン
煙と共に弓矢は再び魔剣に戻りふわふわ浮いている
「ルキ様、お見事ッス!」
「いや、全てソーちゃんのおかげだよ……ありがとう」
「そんな……お褒めに預かり光栄であります」
「じゃあ、ソーちゃん……ご飯を食べに魔界に戻ってもいいよ」
「分かりました、ルキ様、またいつでもお呼びください」
ソーちゃんはそう言うとその場から消えたのだった
俺はホネツキチキンドリを袋に入れヘラ様の所へ戻ろうと元来た道を進んでいると右の森の奥に赤い物があるのが見えた
「あれっ、さっきは気づかなかったけど、何だろう……」
俺はその赤い物を確認する為、右の森の奥の中に入った……その途端……
シャキッ、シャキッ、シャキッ……
俺が歩く度に足元で歯切れのよい音がした……俺は足元をよーく見た
「あっ! シャキシャキタケだ!!」
それは生で食べても美味しいシャキシャキした食感のキノコだった
「またまた、ツイてるな!」
俺はシャキシャキタケ数本を袋に入れた
そして赤い物を目指して森を進んでいたのだが徐々にその赤い物がはっきり見えてきた……その数秒後……
「で、で、でかっ!!!!」
赤い物が何か分かった……
それは野生の野いちごだった
しかもでかい…… ひとつの大きさが20cmはあった
「いや、これ、ツキまくりでしょ!」
俺はその巨大野いちごを5つ取ると袋に入れ……入れ……いや、入らないんですけど……俺は袋にギリギリ入る巨大野いちご4つを袋に入れ、意気揚々とヘラ様の元へ急いだ
俺がヘラ様の所へ戻ると、ちょうどヘラ様とイーリスは魚と格闘中だった
俺はヘラ様のそばへ歩み寄ると言った
「ヘラ様、ただいま……魚釣れましたか?」
「おお、ルキ、おかえりなのじゃ……いや、魚はまだじゃ……この当たりが初めてなのじゃ、釣り初体験なのじゃ、重いのじゃ、すごい引きなのじゃ」
ヘラ様は興奮している……
俺はヘラ様の後ろへまわり、バックハグをしながら一緒に釣り竿を持った
そして魚との格闘は終わりを告げ、見事50cmの大物をヘラ様と一緒に釣り上げたのだった
「ルキ、この魚は何という魚なのじゃ?」
「さあ、見たことありませんね……ですが脂がのってて美味そうですね」
俺はその魚を魚鑑定機の箱に入れ画面の指示に従って操作するとスピーカーらしき所から声がした
「カンテイシマス……コノサカナハ……オオトロン……デ……ス……」
「えっ、これがオオトロン? ヘラ様、オオトロンはとても美味しい魚ですよ」
「おお! 美味な魚、早う食べたいのじゃ!」
その時、イーリスも魚を釣り上げた
オオトロンより一回り小さいその魚も鑑定機の箱に入れ鑑定すると、オオトロンになる前の出世魚チュウトロンだった
俺はヘラ様に食料の袋の中を見せた
「ルキ! すごいのじゃ! よくやったのじゃ!」
俺とヘラ様は喜びあい抱き合いかけたが、イーリスがさっとやって来て俺とヘラ様の間に割って入ってきたかと思うと言った
「ヘラ様、雪がチラホラ降ってまいりました……さあ、帰りましょう」
「そ、そうじゃな、帰るとするかの……ルキ、帰るぞよ!」
俺がヘラ様に返事をしたあとイーリスを見るとイーリスは俺に向け不敵な笑みを浮かべていたのであった……




