女神ヘラとの誓いのキス……プロメテウスの指輪
ピンポーン……
次の日の朝、突然ココアサンドラ号の入り口のインターホンが鳴った
マリアがカメラで見ると3人の少女か立っていた
「どちら様ですか?」
マリアが尋ねると少女の1人が答えた
「私達、ヘラ様に呼ばれてオリンポスから来たのですが……」
マリアはコックピットからリビングに来ると、朝ごはんを食べている俺とヘラ様とイーリスに向かって言った
「ヘラ様、この方達を知っていますか?」
そう言うとマリアは、リビングにある大型モニターをインターホンカメラに切り替えた
「おお! エウノミア、ディケ、エイレネじゃ……意外と早かったのじゃの……さては時間の女神ディケの仕業じゃな……マリア、すぐにここに案内するのじゃ」
マリアはすぐにエレベーターを降り少女達を連れてリビングにやってきた
「そなたたち、よく来たの! こちらへ来て座るのじゃ」
「はい、ヘラ様、その前にこれをお返しします」
そう言うとディケはヘラ様の王笏をヘラ様に渡した
「おお、すまぬの……乗り心地が悪かったでおじゃろう?」
「いえ、ヘラ様に会えると思うと嬉しくて乗り心地などは気になりませんでした」
「そうか、わらわもそなたたちに会いたかったぞよ」
「ヘラ様、この子達は誰ですか? なぜヘラ様の王笏をこの子達が持っているのですか? 王笏はたしか無くされたと言ってませんでした?」
俺がたまらず会話に割って入るとヘラ様は笑いながら言った
「王笏は無くしてはいないぞよ、昨日の夜、マンモスに追いかけられる前に、わらわが、この者らを連れてくるように王笏に申し付け、王笏をオリンポスに向け投げたのじゃ……この者らは、オリンポスでの、わらわの側近の侍女達じゃ……左から時間の女神ディケ、季節の女神エイレネ、秩序の女神エウノミアじゃ」
その時、ヘラ様の3人の侍女の中の1人、秩序の女神エウノミアが俺に言った
「ちょっとあなた! 従者のくせに、ヘラ様になんて口の聞き方をしているの? 恐れ多いわよ 部屋の隅にでも控えていなさい!!」
「誰が従者だ!」
俺が続けて何か言おうとするのをヘラ様は遮って言った
「これ、エウノミア、よいのじゃ、この者はルキと言って、わらわの特別な存在なのじゃ、許してやるのじゃ」
「ヘラ様……特別な存在とはペットのようなもの……ということでしょうか?」
「ま、まあ、そのように捉えてくれてもよいぞよ……とにかくルキはいつでも無礼講じゃ……分かったでおじゃるか?」
「はい、分かりました……ヘラ様のペット、ルキでございますね」
「う、うむ……分かってもらえて良かったの、ルキ」
「いや、ヘラ様……」
俺はヘラ様に抗議しようと思ったがイーリスはじめ、3人の侍女達が俺を睨んでいるのでやめておいたのだった
「マリア、この者達にも朝ごはんを頼むでおじゃる」
「かしこまりました」
朝ごはんの後、ヘラ様はイーリスに言った
「イーリス、使いを頼むぞよ、この手紙を今すぐアルテミスに届けるのじゃ」
「はい、分かりました、では行ってまいります」
イーリスがリビングを出て行くとすぐにヘラ様はマリアに3人の侍女達をイーリスの部屋に連れていくように頼んだ
マリアと3人の侍女達が部屋の方に歩いていくとヘラ様は俺の手を取り言った
「ルキ、すまぬの……さっきはああ言うしかなかったのじゃ……もちろんペットなどと思ってはおらぬぞよ……ルキ、お手!」
「ヘラ様!!!!」
「冗談じゃ……そうじゃ、ルキ、これから湖で釣りをしようぞ!」
「えっ、いいですけど、まさかヘラ様から釣りのお誘いを頂けるなんて……以前ご一緒した旅では、たしかフィギュアの中の豪華な部屋から出とうないの一点張りでしたよね」
「おお、懐かしいぞよ! まあ、それは何じゃ……あの時とは……」
「分かりました! すぐに行きましょう!」
俺は手を握りジッと見つめてくるヘラ様を見つめ返しているうちにヘラ様への想いが溢れそうになってきていた
俺とヘラ様は誰もいないことを確認し手を繋いだままエレベーターに乗り込んだ
エレベーターを降り外に出ても釣竿を持っていないことなど気にもしてなかった
ヘラ様と2人でいられる幸せを噛みしめ壮大な景色の中、湖のはるか向こうから吹き下ろしてくる冷たい風も寒くは感じなかった
俺とヘラ様は湖のそばに来た
広い広い空間……広い広い青空……広い広い湖……澄んだ空……澄んだ水……鳥の鳴き声……
冷たい風になびくヘラ様の長く美しい髪、柔らかな表情、俺を見つめる瞳
「ヘラ様……俺……昨日の夜からずっとヘラ様のことが頭から離れません……胸も痛くて……」
「わらわもじゃ……」
俺とヘラ様は見つめあった……
「仲がよろしいですね……」
突然後ろから声がした
俺は振り返りその者を見た瞬間、何かを感じた……その者の30m程後方の森の入り口にはトナカイ8頭立ての大型ソリがあり、ヤギ? と思われる獣人らしき者が乗っていた
俺はその上品で上等な服に身を包み、上品な言葉遣いをする者に言った
「一体あなたはどなた様ですか?」
「私はニコラウスです……皆にはセントニコラウスと呼ばれています」
「えっ! あの有名なセントニコラウス様……」
俺は無意識に何か予兆を感じた……
「ええ、有名かどうかは分かりませんが……ところであなたは何か願い事はありますか?」
そしてこの一言が引き金となり俺の心を決心させることになった
「あ、あの……立ち会ってください!」
セントニコラウスは俺のその短い言葉で全てを理解したようだった
「分かりました」
俺はヘラ様に向き直り空中から赤いバラの花を一輪取り出すと、ヘラ様のほうに差し出しそのまま地面に片膝をついた
そして勇気を出して言った……
「かの高名なセントニコラウス様の前で誓います……ヘラ様、俺と……俺と付き合ってください!!!!」
「よいぞ!」
ヘラ様は俺が差し出した一輪の赤いバラの花を受け取るとそう言った
俺はびっくりした……ヘラ様が即答だったからだ
「ヘラ様、ちゃんと考えましたか?」
「なんじゃルキ……そなた、わらわの気持ちにはとっくに気づいておったであろう」
「そ、それはそうですが……ではヘラ様、俺と付き合っていただけるんですね?」
「もちろんじゃ、あっ、そうじゃルキ……これは婚約ということでよいのじゃな?」
「えっ、婚約? は、はい……分かりました! 婚約しましょう!!!!」
「おお! では今からわらわとルキはフィアンセじゃな! あっ、あとひとつ……もしもルキが浮気をした場合じゃが……どうなるか知りたいでおじゃるか?」
「い、いえ……怖すぎて聞きたくありません……それに浮気はしないので」
「それは良かったのじゃ」
ヘラ様が言うとセントニコラウスが言った
「では誓いのキスを」
「セントニコラウスとやら、少し待つのじゃ」
ヘラ様はそう言うと何事が唱えた……その途端、岩のような巨人が現れた
「これは、ヘラ様……何かご用でしょうか?」
「プロメテウスよ、例の指輪を……」
ヘラ様がそう言うとプロメテウスは一瞬驚いた後、ヘラ様に2つの指輪を差し出した
「すまぬの、プロメテウス……お礼はするからの……」
プロメテウスが消えるとヘラ様は俺に言った
「ルキ、これはプロメテウスの指輪じゃ……この指輪に誓ったら永遠じゃぞ……それでもよいのかの?」
「もちろんです!」
今度は俺が即答したのだった
俺はヘラ様からプロメテウスの指輪を受け取り改めてセントニコラウスの前にヘラ様と立った
そしてヘラ様と見つめ合い、その指輪の事は全く知らないはずなのにまるでその指輪に導かれるように、2つの指輪のうち、金で加工した指輪をヘラ様の右手の薬指にゆっくりとはめた
ヘラ様は自分の右手を嬉しそうに見つめた後、俺の手から残りの指輪を受け取ると俺の右手薬指にプロメテウスのもう1つの指輪、鉄で加工した指輪をゆっくりとはめてくれた
セントニコラウスが言った
「誓いのキスを」
その言葉に俺とヘラ様は頷き、互いに近づくと、徐々にゆっくりと唇と唇が触れそうな距離まで近づいた……
そしてついに俺とヘラ様は誓いのキスをしたのであった……




