表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

86/101

20

「……はぁ、暇だ」


 僕、アレン=ユベールは現在一人ぼっちでランチタイムをしていた。食堂で一人ポツンと座っている。いつもなら友人と共に昼食をとっているはずなのに。



 アレイシアが学園を休んで3日が経過した。

 寮で療養をしているアレイシアに見舞いにいくもリタさんに追い返され何もできないまま不完全燃焼。

 

 レイルも休んでいる。

 レイルとアリスを仲介した後、ここ数日間はよく二人で食事をしていた。

 密会というべきか、レイルの権力使って人がいない場所、セバスさんがいる状態で話し込んでいる。

 やはり、婚約者もいない未婚の男女のみで密会はいけないらしい。


 アリスとレイルが廊下で移動中、一度すれ違ったが挨拶したが話してはいない。忙しそうにしているので止めづらい。


 ただいつも二人で一緒にいたため学園では色恋沙汰の噂が広がっている。


 まぁ、それもセバスさんが暗躍してあまり広がっていないが。

 レイルはどこか焦りのようなものを感じていた。何をやっているのだか。


 一昨日にギルメッシュが急遽帰省、昨日クルーガーがウォーウルフ商会に戻るようにと手紙がきたとかで学園を休んでいる。


 流石に少しおかしい。

 こんなに立て続けにいなくなるとは。

 それに出かける前日にレイルから呼び出され、内容まではわからないが二人きりで話をし、それから急ぐように行動を開始していた。


「僕だけ除け者感あるよなぁ」


 レイルが前々から何かしていることは知っていた。僕の過去を探ったり、決定的な証拠をもとに尋問まがいなことをしていたりと。

 それに、大切な話をした時に皆を集めるのでなく、個人話していたのがいつもと違っている。


「……ウェルも今はいないし」


 ウェルが居れば良いのだが、昼食と講義の時間は基本自由にしてもらっている。


 ウェルは勉強好きだ。学園の図書館は基本関係者であれば使える。古書から新書まであらゆる分野が揃っている。それは国一であろう。

 

 ウェルは過去に学園に通いたいと思っていた。権利がなかったため、通うことができなかった。そのため、ウェルにこのことを提案したら珍しく感情を表に出して驚いていた。


 学園の風習か、使用人を共に連れてきた人は同じようにしている人も多く、学生が授業等で図書館を使わない時間帯は使用人たちが勉強に使っていることがある。


「……ふ、これが孤高か」

「孤独の間違いですよアレン様?」

「鋭いツッコミありがとうウェル、もう時間はいいの?」

「一人で可哀想だと思いまして」

「いらない気遣いありがとう」


 僕の元に来たウェルがこんなことを話してきた。

 冷静に淡々と訂正してくるところを見るのは流石だ。まぁ、来ることは聞こえていたのでそのタイミングで突っ込んでもらうためにこんなことを言ったのだが。

 それにしても。

 

「はぁ、やっぱりいいよね」

「何がですか?」

「人がいるってことは」

「いや、まだクルーガー様が出かけて1日も経ってませんよ?」

「……確かに」


 ウェルの安定のツッコミ、このやりとりに癒されるなぁ。

 やはり、僕は一人じゃ生きていけないのかもしれない。ここは感謝を伝えておこうかな。


「いつもありがとうウェル」

「……話が支離滅裂してますよ?……病院にかかります?」

「いや、そういうんじゃないから大丈夫だよ」


 一人完結したのがいけなかったのかもしれないが、感謝を伝えただけなのにこの扱いは少しひどいと思う。

 そんな僕を見てか、ウェルは眉間に皺がよる。


「……レイル様のことが気がかりなのですか?」

「……まぁね」


 さすがはウェルだ。僕の考えていることを見抜いているようだ。伊達に長く付き合っていない。

 

 指摘された通り確かにレイルの様子はおかしい。最近焦っていたと思っていたらアリスと話すようになって余裕が生まれた。

 と、思ったら今度はギルメッシュ、クルーガーに順に話かけていた。


 ウェルは僕の言葉を聞くと向かい側の席に座る。ああ、真剣に話そうとしているのか。

 僕はウェルが聞こえるギリギリの声音で考えていたことを話す。


「何かやろうとしていることは確かだよ」

「アレン様は何も……」

「聞かされてないよ」

「不自然ですね。アレン様にお話が何もないなんて」


 ウェルは右手を口元に持ってきて考え込む。考える時の仕草だ。

 ウェルが言った通り僕に話がないのはおかしい。いつもなら以前と同様、全体で話をする。個人ごとに話している点が疑問である。


 それに今日は姿は見ていない。

 学園内で会うことがなかった。……何もなければいいが。

 

 アリスは学園にいるのは確かだ。朝教室であったし挨拶もした。

 アレイシアについて聞かれてその話題で話をした。特に変わった表情はしていなかった。

 ただ、お昼に誘ったら「今日はやることがありますのでごめんなさいっす」と断られた。


 僕だけ蚊帳の外、レイルは何故そこまでするのか。


「ちょっと、歩いてくるよ。ウェルも行こうか」

「わかりました。講義開始まで時間ないので遅れぬよう注意してくださいね」

「わかってるよ」


 座っていても何も始まらない。

 少し歩いた方がいいだろう。

 そう思い、ウェルを連れて退席した。

 

 それから適当にぶらついて数分が経過した。特に考えることなく、ぶらついていると……ん?何だあれは。


「人だかり?」

「何かあったんでしょうか?」

「行こうか」


 場所は中庭であった。大勢、というわけではないが20人くらい人だかりができていて、ザワザワとしていた。


『残念ながら、あなたには攻略は無理っすよ』

『どうりでおかしいと思ったのよ』

 

 ウェルと共に近づいていると……あれ?アリス?何を揉めているんだ?

 もう一人はどこかで聞いたことある声だった。

 

「アリスさんと……メーデン男爵令嬢でしたっけ?」

「な…なにやってるんだよ」


 遠目で眺めて現状がいまいち把握できず疑問符をあげるウェル。

 いや、アリスよ。油に火を注いでどうするんだよ。

 

『……もうアレン様の攻略は無理っすよ?諦めたらどうっすか?』

『……この世界は私を中心に回ってるのよ?幾らあなたがやったところで無駄なの』

『ですからもう無理だってーー』

『あなた……知らないのね?』


 ……何話してんだろう?意味わからない。 

 僕のことを話しているが、攻略?

 

 アリスはハーレムをやめるよう訴えてる?でも、レイルと話しているのにそんな無謀なことをするか?

 いや、そんなことはしないはず。


『……なんのことっすか?』

『べっつにぃ。……でも、あんたのやってきたことは無駄だってことよ。これ以上話すのは無駄ね。失礼するわ』


 訳もわからいまま、話は終えたのかフローラはその場を去る。

 アリスは引き留めることなく、去っていくフローラを見つめていた。


「ウェル、行こうか」

「え、よろしいので?」

「うん、とにかく行こうか」


 フローラはこちらに向かっている。人だかりは波のように避け、フローラのいく道が開いていく。

 

 今顔を合わせるのは良くない。僕は戸惑うウェルの袖を引きその場を立ち去った。


「ちょっとアレン様、どうされたんですか」


 ウェルの袖を引っ張り、早歩きで進んでいる中、戸惑うウェルはそう問うてくる。

 僕も訳もわからないが、少なくとも。


「後で説明するから今はあの場から離れないと。ここでフローラに会うわけにはいけないからね」


 これが、レイルが意図的にさせていることなのか、アリスの暴走なのかは不明。

 今僕にできることは弊害を作らないこと。


「とりあえず寮部屋で話すよ。今は講義に出ないと」

「……わかりました」


 とりあえずそう告げるとウェルは渋々納得したのだった。


 そして、その日の放課後。講義を終えた僕はウェルと自部屋に戻っていた。

 何をどこまで話すか、そう考えている時であった。


「アレン、ちょうどいいところに」


 教室の扉横で休んでいたはずのレイルが部屋の入り口付近で壁に背もたれをかけていた。

 

「……こんな時間にどうしたんだよレイル、一人で珍しい」

「立ち話もなんだ、中に入れてもらえないか?」

『ドク…ドク…ドク』


 雑談を挟もうとするも早く本題に入りたいらしい。余裕のない表情。

 鼓動も異様に早い。

 

「……ウェル、すまないが外してーー」

「いや、ウェル共々構わない」

「……わかった」


 僕はウェル、レイルと部屋に入る。

 ウェルは部屋に入ると部屋の奥まで進んだ。


「まずは謝罪させて欲しい」


 そう告げながらレイルは右手で自分の髪に手を乗せ、頭をカサカサと雑に髪の毛を払う。着色料を使っていたのか艶のあった黒髪の色はみるみる落ちていく。

 するとーー。


「……な、なんだよ……それ」

「騙すつもりはなかった」


 そう告げた黒髪であったはずのレイルの髪は絹のように透き通ったサラサラの金髪に変わった。

 そのままレイルは目からコンタクトレンズを外すと、霞色の瞳が露わとなる。


「……なんだよ、それ」

「その瞳……髪」


 僕とウェルは言葉を失う。言葉が出ないほど驚いたのだ。

 レイルの今、瞳髪の色は王族の証である。

 

 レイルの瞳はまっすぐ僕の目をとらえている。その力強い瞳は真剣味を感じる。


「まずは名乗り直したいと思う。私の本名はエルドウィン=グラディオンという」


 その名は10年前病死したはずの第二王子の名前であった。


 

 

 


 

 


最後まで読んでくださりありがとうございました。

予告ですが、後数話で予定していた章が終わります。最終章に入る前にプロット整理のため少し期間を空けたいと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ