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 お茶会はレイル様の挨拶で始まったのだが、空気が重い。

 僕はこの場で最も社交界の知識がない人間だ。

 だからこの口論っぽいやりとりに介入できない。


 ……てか、開始早々こんな嫌われ発言するとかバカなのか?

 これが俗にいう親の権力を傘に威張るクソガキってやつか。

 この会場にいる人は僕と同じ10歳くらい。

 しかも、親がすごいのに自分が優れていると勘違いしている痛い子供。

 こう言う発言は大人の言葉を鵜呑みにしている連中が多い。

 大方、茶髪メガネくんの出自について親のした発言をそのまま言っているってところか。

 お披露目会の時もそうだった。

 僕が孤立したのも親の言葉を鵜呑みにしている子供が多かった。

 本当に貴族というのは面倒くさい。


「皆さんもそう思いませんか?ここに集められた者たちは将来有望となる家が集まっている。そんな中に金で爵位を買った半端者がいては有意義な時間は過ごせないと思いますが?」

「ガスパル少し黙れ、気に入らねぇならお前が出てけばいいだろ」


 そして、この場の仲間を募る肥満体型のガスパルは茶髪メガネくんを自分から退席させようと煽り、白髪の男が言い返した。

 半端者、爵位を金で買った。この情報でわかることはメガネくんはウォーウルフ子爵家の人間ということ。

 最近商人から貴族になったばかりの家で王家に多大な寄付をして爵位を承った家。

 

「ギルメッシュ様、まさか肩を持つつもりで?」

「そうは言ってねぇだろ。この場の空気を乱してんのはお前だろ」


 口論はエスカレートする。ガスパルは丁寧な口調だが、相手を煽るように話す。

 だか、このやりとりで大体の立ち場がわかった。

 おそらくレイル=ギルメッシュ>ガスパル>メガネくん。

 レイル様相手にタメ口、呼び捨てにしている点。

 敬語を使っているガスパル。


 また、レイルはお茶会開始挨拶の時、敬語を使っていなかった。

 

 つまりこの場には公爵家の人はいない。

 侯爵家が最高ということになる。

 立場を気にしすぎなのは良くないけど、ある程度は把握するべきだ。


 この場でガスパルの態度を指摘したのはギルメッシュのみ。

 他は指摘する気がないか、指摘できない家柄か。

 まぁ、ほとんどが前者だろうな。


「相変わらず粗暴のようで。レイル様はギルメッシュ様と随分と親しいとお見受けします、ご友人を選ばれた方がよろしいのでは?」

「なんだと?」


 そして、ギルメッシュとガスパルは犬猿の仲と。本当になんでこのお茶会に招待したんだか。レイル様はこれがわかってて招待したのか?

 こんなの一触即発の雰囲気になるのわからなかったのか?

 まぁ、過程はどうであれ僕がやることは変わらない。

 今はレイル様には好かれる行動を前提にするが、こんな胸糞悪い状況は捨ておけない。


 僕は弱いものいじめが大嫌いなのだ。

 そんなの人として最低の行為。咎めてやるのも(精神年齢が)大人の僕がやるべきだろう。


 レイル様は特に咎めようとせずに静観して様子を窺っている。

 何かを見定めているのか……これはラクシル様と初対面にしていた目に似ている。


 レイル様の意図はわからないが、一先ず行動を起こすか。


 そう思考を終えると、僕はティーカップに入っている紅茶を飲み終えわざとソーサーに音を立ててティーカップを置いた。

 

 カチャッという音が会場に響く。  

 一触即発の空気の中、突然のことに全員の視線が僕に集まる。

 ガスパルはイラついた表情をして、ギルメッシュは驚いていた。


「有意義な時間を過ごしたいのであれば、その減らず口をやめてはいかがですか?嫌味は人を不快にさせますし」


 僕はガスパルにそう告げた。

 ガスパルは少し苛立ったが、僕の容姿を見て何かを思いついたようで言葉を発してくる。


「ユベール家のご子息……たしか名はーー」

「申し遅れました。ユベール伯爵家嫡男アレンと申します」

「コーラル侯爵家三男、ガスパルと申します」


 あれ?今侯爵家って言ったよな?

 あ、初手からミスった。……なんで侯爵家なのにギルメッシュに様付けしてるんだよ。

 

 と、色々と思うところがあるが、一度した発言は取り消すわけにはいかない。


 もうここまで来たらとことんやりあってやろう。ガキにいけないことを教えるのも年長者(精神年齢)のつとめ。

 

 色々と言い訳をしつつ、ガスパルを見る。

 ガスパルの態度にさらに苛立ちが増していた。

 こういう時下手に出るのではなく、少し強気でいた方が良い。

 ガスパルは相手を見下す傾向がある。少しでも難癖をつける場所を見つけたらそこに付け込んでくるらしい。

 その陰湿さはさっきの会話でわかった。


「はぁ、これだから社交界で嫌われるのですよ」

『ドクン…ドクン…ドクン』

「本当のことですので何も言い返せないですね。どこのお家からも声が掛からなくて困っておりましたし」


 嫌味を言う奴は大抵肯定されると機嫌を悪くする。

 鼓動を聞く限り早くなっているからガスパルも苛立っているのはわかる。つまり今の僕の対応はガスパル相手に効果的。


 ストレスをかけることで人は冷静さを失う。

 それで失言を引き出せれば儲けもん。

 相手の思い通りにはさせない。


「アレン様は悪い噂が広まっておりましたからね。誰も招待する気にはならなかったのでしょう。少しでも交流があるだけでも不快に思う方もいるでしょうからね」

「なるほど。僕はそう思われていたのですね。やはり孤立するのは良くないのですね。助言していただきありがとうございます」

「……」

『ドク……ドク……ドク』


 ネチネチしてるなぁ。

 そう思いつつ、ガスパルの鼓動が早くなっているのを確認する。

 相当苛立ってる。


 早く口閉じてくれないかなと淡い期待をするも……やはりダメだったか。


「ヘラヘラと……なんて情けない。あなたにはプライドがないのですか?」

「さぁ……どうなんでしょう?」

『ドク…ドク…ドク』


 僕はガスパルの発言に首を右に傾け煽るように反応した。

 相当苛立っている。

 これが成熟した大人なら冷静に対処するだろうが社交界デビューしたばかりの……しかもまだ思春期を迎えたばかりの子供なら対処はできないだろう。

 苛立ちは思考速度を遅め冷静さを欠かせられる。

 


「……本当にあなたという人は……人間性を疑いますね。こんな恥知らずを育てたユベール伯爵閣下は愚かですね」

「……」


 今、ガスパルは相当お怒りのようだ。そのせいで普段ならばしないような不注意な発言をしてしまう。

 ……まさか、ここまで失言を引き出せるとは思っていなかった。

 

 上手く行きすぎて言葉が詰まってしまった。だが、ガスパルは初めて見せた僕の反応に少しにやけた。してやったりとか思ってんのか?


 まぁ、別にどうでもいいか。

 このやり取りも面倒になったので、少しやり返すことにする。


「僕の両親は僕の自主性を重んじる教育方針をとっておりまして、僕が自発的に行動できる人間になって欲しいと思ってのことだそうです」

「は?……何を急に」

「僕が、ソブール公爵家の御息女アレイシア嬢と婚約していることはご存知ですよね?」

「はい。それがーー」

「僕の婚約の件はラクシル様からの申し出であり、婚約が決まった当日、父との会話で僕の教育方針について褒めておりました。つまりガスパル様はラクシル様の観察眼は曇っており、人間を見定める能力に欠如していると……そう言いたいのですね」

「……は?そんなこと一言も」

「このことはラクシル様にご報告してもよろしいですか?」


 めちゃくちゃな言い分だが、ガスパルの表情は苦虫を噛むような顔をしている。

 やはりガスパルは自分より身分が低い人間には強く出れるが、高い身分には出れないらしい。


 ふと、先程バチバチ争っていたギルメッシュ様を見ると笑いを耐えていた。

 隣に座るメガネくんも……え、肩揺れてるけど笑ってんの?なんで。

 

 場違いな反応に困惑するも、今はガスパルの反応に集中しよう。

 今度は何を言い返してくるのやら。

 そう身構えるが、ガスパルは自分が言い返されたことがないのかもしれない。

 ここまで論破されたのは初めてなのかな?

 

 ガスパルが急に黙りをしたせいで静まり返ってしまったこの状況。

 どうするか。


「ガスパル殿、アレン殿、これ以上続けるようなら他所でやってもらいたい」


 だが、この静寂を蹴散らしたのはレイル様だった。

 止めに入るならもっと早くしろよ。

 だが、それを口に出すわけにはいかないので、レイル様に謝罪をする。


「レイル様、配慮にかけておりました。大変申し訳ありません」


 僕は謝罪をするも、ガスパルは謝罪することはなかった。僕の謝罪のあと、レイル様はどこか満足したような表情でこう言った。


「否定意見が多いようだから明言しておこう。私はクルーガーを歓迎している。今のガスパル殿のように同意できない者は多いだろう。この場を退室してかまわない。口論が起こるようなら有意義な時間を過ごすことはできないからね」


 レイル様はそう宣言した。

 だが、やはりと言うべきか。

 

「どうやら貴方とは考えが合わないようですね。父にも伝えさせていただきます。本日は失礼させていただきます」


 レイル様の明言するとガスパルは退席、それに続くように5人が出て行った。  

 ここに残ったのは僕を含めて4人だけであった。


 へ、ガスパルざまぁ。

 僕は立ち去る背中を見て鼻で笑ってやった。

 













『……旦那様に報告しないと』


 ウェル……お願いだからそれだけはやめて欲しい。

 退席した使用人たちが主人を追って追いかける中、ウェルのそのつぶやきが聞こえ、少し調子に乗りすぎたことを後悔したのだった。

 

最後まで読んでくださりありがとうございました。


もし、少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら差支えなければブックマークや高評価、いいねを頂ければ幸いです。


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