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間話 リタ

アレンとウェルが馬車の中で言い合いをしていた同時刻。

 

 ソブール公爵邸のアレイシアの自室。

 アレイシアとリタはやりとりをしていた。

 

 

「リタ、アレン様から頂いた花束はどこにあるの?」

「まだ別室にありますが」

「わかったわ。今すぐに持ってきて欲しいの」

「わかりました」

 

 アレイシアはリタに青い薔薇の花束を持ってくるように頼む。

 頼まれるとリタはすぐに別室に置いてある青い薔薇の花束を持ってきた。


「お部屋に飾るのですか?」


 リタはアレイシアに花束を手渡した時にふと疑問に思ったので聞いた。

 アレイシアはアレンから花束を受け取った時、屋敷で大切に保管すると答えていた。

 

「ええ。アレン様からの頂いた大切なものですから」

「……そうですか」


 リタはアレイシアの返答に何も言わなかった。アレイシアの受け取った後の文言は一貫しているのだろう。いや、緊張のしすぎで一貫してしまっている。

 今回の発言ではアレンに対して何かしらの誤解を与えてしまっているかも知れないと思ったリタだった。

 

「でも、お花って枯れてしまうので惜しい……ずっと飾って置ければいいのに」


 アレイシアは少し悲しがる。

 花は枯れてしまうもの。でも、アレイシアにとって花束はアレンから初めての贈り物。

 そのことが悲しいらしい。

 だが、その悲しみはすぐになくなる。リタの提案によって。


「では、ドライフラワーにするのはどうでしょうか?少し手間はかかりますが、生花と違い枯れることはありませんし」

「本当?!」


 アレイシアはリタの提案に笑顔で反応する。


(私以外にもそのくらい素直になれればいいのに。……いや、アレイシア様にとってそれが一番難しいか)


 リタはそんな主人を見ながら少し呆れていた。

 今更かと一人自己完結させた。


 そもそもアレイシアがここまでリタ以外に素を晒せないのは幼少期が原因だ。

 リタは生まれた時からアレイシアに仕えている。



 リタは今年で19歳。

 アレイシアが生まれてからずっと従者として支えてきた。

 アレイシアと最も時を共にしているのはリタだろう。

 


 アレイシアは幼い頃から人見知りだった。

 貴族の教育が始まる5歳になる頃から悪化した。

 「公爵令嬢として恥じない令嬢になりなさい」というラクシルの言葉を聞いた後から。


 アレイシアは幼いながらもそれを重圧に感じてしまった。 

 人前で恥じないように。立派な令嬢になるために。

 一つのミスもしてはいけない。アレイシアは幼いながらもラクシルの言葉をそう捉えてしまった。

 実際、ラクシルもまさかここまで重く受け止めてしまうと考えていなかった。言ったことを後悔していたりする。


 ラクシルの言葉を重く受け取ってしまった結果、アレイシアは常に気を抜くまいと重度の緊張状態に(おちい)るようになった。

 父に認められるように。父に指摘をされないように。

 使用人に気丈に振る舞う。舐められてはダメ。誰もが認める令嬢にならなければと。

 その思考はアレイシア自身の首を絞めていく。

 

 そんなアレイシアを気遣いラクシルもあまり自分の言葉を気にしなくて良い。もっと気楽にやりなさいと声をかけたが、時すでに遅し。

 アレイシアのその癖は治らない。

 

 しかも不運が重なり、ラクシルの言葉をアレイシアは失望と捉えてしまった。


 そのせいでさらなる悪循環。

 気がつけばアレイシアは常に気を張り続け結果、人前で笑えなくなった。

 人と接する時、顔の筋肉がこわばって、表情を変えられなくなってしまった。


 アレイシアは一度できてしまった癖を治すことが出来ず……その表情のせいで周りに誤解されるようになった。

 唯一の救いはリタの存在だろう。


 リタは普段のアレイシアのことをラクシルに報告していた。

 他の使用人にも話しているが、公爵家の令嬢に無礼を働くのを恐れ、主人と使用人の壁は越えることができず……いつしかアレイシアに怯える者も現れた。

  

 アレイシアの周りには理解者は少ない。

 理解者だけでも片手で数えられるだけ。

 アレイシアが素で接することができるのはリタと……5歳年上の海外留学中の兄だけ。

 

 リタはアレイシアの将来が心配だった。


 だが、そのリタの心配は一瞬でなくなる。

 それは婚約者のアレンが現れたことにより。


 お披露目会当日、心配で夜も眠れなかったアレイシアは睡眠不足で余計に頭が働かずに絶不調の時だった。

 お披露目会の独特の習慣で挨拶を担当する。

 数多くの貴族子女と接するため余計に緊張した。

 結果は言うまでもない。


 この日の貴族子女たちは社交界デビューで緊張していた。アレイシアはその挨拶で表情をこわばらせて、それを目にした子女達を怖がらせてしまった。

 そのことを気にしてアレイシアは余計に緊張。


 そんな時にアレンが現れた。アレンは10歳とは思えない冷静な分析をしてアレイシアの本質を一目で見抜いた。


 その日の晩、ラクシルはリタに言った。

 「娘の良き理解者が現れた。絶対に逃してなるものか、娘の婚約者はアレンくんしかいない!」と。

 そのラクシルの先見は正しく、アレンはアレイシアのよき理解者になった。


(よかったですねアレイシア様)

 

 アレイシアの幸せそうな表情を見て自分のことのように喜ぶリタであった。



「リタ、見てください」

「あの、何で飾ってるんですか?」


 少し考え事をしていたリタであったが、アレイシアの行動に一つの疑問を覚える。

 アレイシアは自分の部屋に今日アレンからもらった青薔薇の花束と香水キャンドルを持って来ていた。

 すると部屋のドレッサーの上に香水キャンドルを飾り始めたのだ。

 緑、ピンク、水色と色とりどりの三つの香水キャンドルを。


「綺麗だからよ」

「いや……使わないのですか?」

「使うわけないわ。勿体無いじゃない」

「……はぁ」

「どうしたのリタ?」


 と、リタはこのやりとりで大きくため息をした。


 リタはアレンとアレイシアのやり取りを見ていて、香水キャンドルを渡された時、アレイシアは花束を受け取った時と同じように「大切に保管する」と答えた。


 リタは表情からアレンは「気に入らないけど、せっかく贈り物をくれたから断るのは失礼になるから受け取るだけ受け取る」……と解釈していたと察した


 だが、アレイシアの今の言動では「嬉しすぎて使うのが勿体無いから大切に飾りたい」ということだった。


 リタもアレイシアの言動を全て理解できる訳でなく、何となく別の理由があるのではと思っていた。

 アレンもそのように解釈しておらず、むしろ前者の解釈。


「どうしたの、浮かない顔して?」

「いえ何でもありません」


 そのことを伝えていいものかとリタは悩むも、やはりそれはアレイシアの成長に良くない。

 アレンも別に気にしてなさそうだったことを加味してリタはアレイシアが自分で気がつくべきかと判断してそのことを伝えなかった。


 

「アレイシア様、頑張ってくださいね」


 リタはそんなアレイシアに小声で声援を送ったのだった。

 その後は青薔薇をドライフラワーにするための準備をしたのだった。


 

最後まで読んでくださりありがとうございました。


もし、少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら差支えなければブックマークや高評価、いいねを頂ければ幸いです。


評価ポイントはモチベーションになります。


よろしくお願いいたします。

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