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 馬車から香水キャンドルを取って部屋に戻る。

 部屋に戻ると相変わらずアレイシアの顔はいつも通り少し険しい表情をしていた。

 だが、少し時間が開いたお陰で鼓動はわずかに遅くなっていた。少しは落ち着いたようだ。


 僕は席に着くと持ってきた香水キャンドルを出す。

 一度これを渡すのはどうかと迷ったが、話題が尽きては意味がないし、話題の一つになれば良いと思った。

 お茶会終了予定時間は後30分ほど。


「これは……色のついた……蝋燭ですか?」

「そうです。実はこれ、僕の手製でして。ただの蝋燭ではないのです」

「不可思議なものをお作りになるのですね。……どのようなものなのですか?」


 初めて質問してくれた。

 どうやら少し休息を挟んでよかったかも知れない。

 このまま香水キャンドルの説明をと思ったが、実演したほうがいいかもしれない。


「よろしければ実演してもよろしいですか?蝋燭に火を付けさせていただきたいのです。よろしいですか?安全は保証します」


 アレイシアは少し考え始める。

 10秒ほど経つと答えが返ってきた。

 

「……アレン様を信じましょう。もしも何か起こるようならユベール家に訴訟を起こしますので」

「わ……わかりました」

 

 何それ怖い。でも安全は保証済み。 

 仮に火をつけて全て使い切っても周りに可燃物がなければ引火しない。安全を配慮すれば問題ない。


「リタ、マッチを持ってきてくださる?」

「かしこまりました」


 アレイシアはリタに頼んでマッチを持ってくるように指示した。

 そして、リタはすぐに用意したマッチをアレイシアに手渡した。


「ありがとうリタ。アレン様、こちらをお使いください」

「ありがとうございます」


 手渡されたマッチを受け取ると、すぐに香水キャンドルに火をつける。

 

「……いい香りです」


 匂いを嗅いだアレイシアはそう言った。

 反応がいい。どうやら成功だったようだ。


「すずらんの香りです。これは香水キャンドルといって火をつけることで香りがして、リラックス効果があるんです」

「……」


 アレイシアは匂いを堪能しているようだ。

 ここで作った目的を伝えたらどう反応するか気になる。

 正直、踏み込みすぎるのも怖い……でも、踏み込まないでいたらいつまでも進展しない。

 賭けを怖がっていてはアレイシアの分厚い壁は壊せない。

 そう決意して、話し始める。


「アレイシア嬢は常に気を張っているご様子でしたので少しでも気が休まればと……思いつきで急いで作ったもの故、不恰好ではありますが、こちらももらって頂ければと」

「わ……わたくしのために」

「はい。アレイシア嬢のためにです」


 僕はおうむ返しで返答した。


 そうするとアレイシアは俯いてしまった。

 だが、表情は無表情のままだが、初めてみる反応。

 見間違いでなければ口元が微妙に震えている。


「……大切に保管します」

「……そうですか」


 保管……か。やはり、使わないってことか。

 端的な返答だしそこまで良い印象はないかもしれない。

 まぁ、仕方ないか。今思えば訳のわからない物を贈られて困るのはアレイシアだ。


 話のネタになったし、アレイシアの初めての表情も見れた。


 作ってよかったかな。


 これも大きな収穫だ。

 アレイシアという大きな山は一歩ずつ登っていけば良いか。

 そう考えを改めた。

 香水キャンドルのおかげで時間が早く経ち、お茶会が終了したのだった。


「本日は楽しい時間を過ごすことができました。ありがとうございます」

「はい」

『ドクドクドクドク』


 見送りのため、屋敷の玄関口で別れの挨拶をしている。だが、香水キャンドルを渡した後、表情は変わらないが、声がどこか弱々しい。

 やはり香水キャンドルは失敗だったかもしれない。


 だが、気を遣ってこのまま帰るわけにはいかない。

 デートに誘わなきゃいけないのだから。

 今日のことである程度予想が着く。

 多分このままお茶会を繰り返したところで発展しないと。

 ならば早めに手をうっておく。

 

「アレイシア嬢、来週末は予定は空いていらっしゃいますか?」

「はい」

「よかった。よろしければ次はお茶会ではなく外に出掛けませんか?是非、一緒に行きたい喫茶店がございまして」

「……構いません」


 随分と即答だなぁ。

 返答は後日手紙ですると思ったが。

 ま、了承してくれるなら別にいいけど。


「では、詳細は後ほど手紙にてご連絡致しますね」

「……はい」


 そう言ったあと、僕とウェルは馬車でソブール公爵邸を後にした。

 今日は色々と空回りしてしまった。今後は別のアプローチの方法を考えようかな。

 デートの約束にこぎつけただけよしとしよう。


 それにしても今日の失敗を活かしたいが、僕の行動でアレイシアに嫌われていたらと少しゾッとする。

 少し慎重になったほうが良いかもしれない。


 










 ……あれ?何か二人が話している?



『アレイシア様。お疲れ様でした』

『……』

『あの……どうしたんですか?急に黙って』

『リタ……さっきから胸が熱くて』


 ……これって聞いていい話なのか?馬車の中にいるとアレイシアとリタの会話が聞こえてきた。

 この会話内容は聞くべきでないと思うけど、聞かなきゃ損するような。

 でも、聞こえてきちゃうから仕方ない。うん。


『体調が優れないのですか?』

『いえ……違うの……心がポカポカするというか。……でも苦しいわけではなくて、どこか心地がいい』

『なら大丈夫です。安心してください』

『大丈夫なのね……なら、この胸の温もりは』


 リタ……なんて返答するんだ。

 ずばり答えるのか?


『いつかわかりますよ。私から言えることは今はその気持ちを大切にしてくださいというだけです』

『……大切に……わかったわ』


 なるほど……そう促すのか。

 流石は良き理解者だ。


『……アレン様とのデート楽しみですね』

『へ?…でーと?リタ……まさかデートするのですか!』

『いや、私じゃなくてアレイシア様とですよ。今約束したばかりじゃないですか?』

『へ?……誰と?』

『アレン様とです』

『そ……そんな約束してないわ』

『……アレン様と別れる時の話聞いてなかったんですか?』

『………はい』

『はぁ……全く貴方って人は。来週末、アレン様とお出かけする約束をしてました。よかったですね。予定がなくてーー』

 

 ここで会話が聞こえなくなった。

 公爵邸から離れたからだ。

 

 それにしても聞いて楽しかったけど、何だろう会話を盗み聞きしたこの罪悪感は?


 でも、聞こえてしまうんだよなぁ。

 

 気になりすぎて耳を塞げない。

 でも、耳がいいからアレイシアのことを知れたわけで。

 反応を知れたので良かったということにしておく。

 

「アレン様楽しそうですね」


 だが、その自問自答は長くは続かなかった。

 向かいに座るにウェルが話しかけてきたからだ。

 


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