20
誰か……助けてください。
僕の人生終わった……そう錯覚してもおかしくないほど、この凍りついた空間。
頭が真っ白でまともに思考ができない。
やばい、なにをしなければいけないんだっけ?
今の僕は初歩的なことすらも、わからなくなってしまっていた。
「………」
この静まり返った空間の中、僕は未だにアレイシアと視線があったままであった。
パーティ会場はざわめきが増していく。
周りが話している内容はおそらくこの状況についてだとおもうだが、話している人数が多すぎて声を拾えない。
だが、今はそんなこと気にしている場合ではない。
落ち着こう。
わかる範囲で状況を整理しよう。
まずは僕の視線の先にいるアレイシア。
彼女は僕がいきなり声を上げてしまったことに怒っているのか睨んでいる。
感情が読めず、怒っているのかもしれない。
なるほど。これが感情のない人形と呼ばれな由来か。
………いや、こんなことを考えている場合じゃない。
早くこの状況をどうにかしなければ。
アレイシアに関する現実逃避のお陰で冷静になれた。
ありがとうアレイシア。そして悪口言ってごめん。
さて、まずは謝罪をすべきだろう。
悪いことをやってしまったらまず最初にやるべきことは謝罪だ。
子供がやってしまったことだ。
素直に許してくれるだろう。
許してくれるよね?
許してください。
「アレイシア嬢、大変申し訳ありませんでした」
僕は頭を下げて謝罪をした。
この後どうすれば良いかわからないまま。
誰か……僕に助け船をください。
僕はそう期待するが、世の中そんなに甘くなかった。
「まずは、頭を上げなさい」
「はい」
「あの、ラクシル様、息子の粗相をーー」
「キアン殿。すまないが、少し黙っていてくれないか?」
僕に話しかけてきたはラクシル様だった。
父上は僕を助けるため、話しかけたがバッサリと切られてしまう。
だめだ。父上の助けは期待できない。
身体中から冷や汗がでる。
自分でどうにかするしかない。
ラクシル様と目が合うと特徴的なつり目で品定めをするかのように睨んでくる。
……その視線、10歳児にしていいものではないと思うのですが。
「何に対する謝罪だ?それと名はなんと言う?」
逃げ道を塞ぐようにラクシル様は僕に質問してくる。
「大変失礼致しました。私はアレン=ユベールと申します」
「そうか、アレン君か。……で、何に対する謝罪だ?」
「……アレイシア嬢の話を遮ってしまったことです」
「では、何故あのような反応を示した?」
「それは」
素直に言って良いものか。いや、だめだ。
ここは取り繕うべきだ。
アレイシアの鼓動にびっくりした。理由はこれだがもっと明確に言うなら、ギャップに驚いたと言うことだ。
あんなにも緊張しているにも関わらず、完璧な所作を行なっていたことに驚いた。
が、これを言うわけにはいかない。
それなりの理由で……怪しまれないもの。
「その……アレイシア嬢に見惚れてしまいまして」
「え……」
「ふむ……」
僕は何を言っているのだろう?
自分ですらわからない言い訳にアレイシアは戸惑い、ラクシル様は僕とアレイシアを交互に見て考え始める。
僕は自分の言葉を後悔した。もっと他に言いようがあったはずだ。
こんなの失礼極まりない。
でも、残念ながら一度してしまった失言は取り消せない。
「アレン君」
「はい」
「私は昔から口先から出まかせを言う人間は嫌いでね」
あ、バレてる。
いや、僕がおどおどしすぎてしまったから怪しまれているのかもしれない。
ラクシル様は二度目は無いぞと言わんばかりに威圧をしてくる。
「そんなに言えない理由なのか?」
ラクシル様の表情が険しくなる。
嘘は通じない。もう覚悟をきめるしかないかもしれない。
思考は刹那。
本当の理由に嘘を混ぜながら話始める。
「……アレイシア嬢に見惚れてしまったのは本当です」
僕は前置きとして、先ほどの発言は嘘ではありませんと言うアピールをする。これを話さないと……初めの発言を嘘と言ってしまったら後から指摘されかねない。
「ただ、アレイシア嬢の洗練された所作を見て驚いたのですが、その反面とても緊張されていたので、驚いて思わず声を出してしまった次第です」
嘘はついていない。実際に緊張していたことは分かっていたし、それに驚いてしまったことは真実だ。
それにアレイシアの容姿を綺麗と思ったのも真実。
ラクシル様は僕の言葉を聞いて小さくため息をした。
「キアン殿」
「はい」
「後日、私の屋敷に来なさい。……今回の件で話したいことがある。明日以降使いのものをよこす」
「……承知しました。失礼します」
今回のやりとりの最後にラクシル様から屋敷へ招待をされた。
地獄への紹介状だな。
これでソブール公爵家の挨拶は終わってしまった。
本当にこの先どうなるのだろう。
でも、ラクシル様はご機嫌だったので悪いことにはならないことを祈りたい。
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