捨てられたもの
「次、剣城」
席を立って教卓に向かう。
教卓に立って前を見るとクラスのみんなが俺を見ていた。
これさえ終わればもう後はどうでもいい。
大きく息を吸って前を見て
「僕の今年の目標は自分の価値を認めてもらうことです」
俺が言うとみんなは少しざわつき始めた。
多分言っている意味がよく分からないんだろう。
「剣城、それは一体どう言うことだ?」
「これは……えと、僕は自分に自信がないので誰かに自分の良いところを認めてもらって自分に自信を持ちたいということです」
流石に父さんに自分の価値を認めてもらいたいなんて言えるわけない。
「なるほど、いい目標じゃないか。ほい次、手越」
「ていっ」
自分の発表が終わるとさっきまでの緊張が解放されると同時に疲れがどっときた。
だがこれでもう今日は終わりだと考えれば気分は楽だった。
そして全員分の発表が終わった、それと同時に終業のチャイムがなる。
「ちょうどいいな、それじゃ今日はこれで終わりだ。特に知らせることもないからこのまま帰っていいぞ」
よっしゃ、特に面倒な事なく帰れる。
友達と一緒に帰るなんてことがない俺には待ち時間は存在しない。俺はバッグに荷物を急いで詰めて一番乗りで教室を後にした。
廊下に出ると女子トイレの前が水で濡れていた。
誰かがトイレの前で水でもこぼしたのかと考えたがそれにしては水がまばらに散らばっている。まるで何かから滴って落ちたみたいな。
うーん、まぁ、よく分からないけど先生に話しておくか。
俺は教室に戻って先生に話した。
「わかった、後で事務の人に掃除してもらうよ、伝えてくれてありがとう」
「はい、それではさようなら」
「さようなら」
三階から一階の下駄箱に向かって昇降口を出た。外では生徒が部活に励んでいた。頑張ってるなーと思いながら校門に向かうと俺の後ろを歩く2人の会話が聞こえた。
「もうすぐ最後の大会だろ。今年は去年みたいに全国行けない部活出てくるのかな?」
「流石にないだろ。去年の陸上部は事故だよ。だってうちの中学は全国から様々な分野で突出した人間が受験資格を得て、さらにその中から試験で厳選する。そんな化け物が集まる場所だ。そんなとこで全国行かないわけないだろ」
「それもそうか」
全国大会か……俺もやめる前は毎回出てたな。
やめたのは確か秀が小6の時に飛び級で中学生の部の全国大会で1位を取ったあたりかな。懐かしいな、毎回大会では5位以内には入ってたっけ。まぁ、これも過去の栄光か。
ーーー昔は良かったなぁーーー
また思ってしまうか。
そして学校を出てバス停に向かった。いつも通りの通学路、何も刺激がない住宅街だけど今日はいつもとは違うようだった。
にゃーにゃー
声の方を見ると自販機の前に猫がいた。黒と白の毛を持っている、見た感じ雑種だったが一つおかしな点があった。尻尾が2本あるのだ。
「なんだあの猫。病気か?」
気になって近づくと猫は走った。逃げるのかなと考えたが猫は俺から少し離れた位置で俺の方をチラチラ見ながら立っていた。まるで俺を待っているかのようだった。
再び猫に近づくとまた少し離れて俺を見た。
「ついてこいって言っているのか?」
俺は猫について行った。住宅街を越え、居酒屋が並ぶ通りの路地に猫は入った。
猫はそのまま路地裏に進んで行った。人気が全く無いところで猫は俺の方を向いて止まった。
「剣城 拙、ここまで来てくれてありがとう」
「ね、猫が喋ったぁぁぁぁ!?」
猫って人語話せる?てかそもそも何で俺の名前知ってるの?疑問に疑問が積み重なる。
俺は驚きで腰が抜けてえっ?しか話せないでいる
「まぁ、落ち着いて。確かに人の言葉を話すのはおかしいけど、それは一旦そういうものとして受け取って欲しい」
「いや、無理でしょ」
「無理じゃなくてしなさい」
なんかこいつの話し方はどこか懐かしさを感じるものだった。
正直、猫が人語を話すことをそういうものとして受け取るのは無理があるけど取り敢えず飲み込んでおかないと話が進まないのでそうした。
「わかった。取り敢えず飲み込んでおくよ。
それでお前は一体何で俺をここまで連れてきたんだ?」
「剣城 拙。きみ、私と契約しないかい?」




