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本の虫令嬢は竜騎士に発見される 4



 ウェンライト男爵家の庭は、貴族の家の庭にしては小さい。けれど、広いばかりのアーロンの屋敷の庭と比べて、色とりどりの花が咲き乱れていて美しい。


「……美しい庭だな」


 門の外から、心底感心したように、アーロンはつぶやいた。


「母がいつもお世話しているので」


 少し自慢に思えるけれど、園芸が趣味のミリアの母と違い、ミリア自身はそれほど花が好きというわけではない。

 花を育てる時間があるなら、本を読んでいたい。それがミリアという人間だ。


「送って下さってありがとうございます。どうぞ、寄っていってください」

「……嬉しいな。だが、初対面のご令嬢の屋敷に訪れるなんて、君のご家族に常識外れだと思われたくはない」

「へっ?」


 アーロンが、常識を説いたことに驚いたミリア。

 その口からおかしな音が漏れた。


「……すまなかった。今日は、君に出会えたことが嬉しすぎて、浮かれてしまった自覚がある」

「あの、楽しかったですよ?」

「そうか……」


 今、感じている違和感が、いったい何なのか、ミリアは答えを持っていない。

 けれど、どこかさみしそうにアーロンが笑ったから。


「明日、王城に行くのは何時頃なのですか?」

「そうだな。教会の朝の鐘が二つ鳴った頃か」

「今日の庭園で、待っていても良いですか? 一緒に、お屋敷に行きたいです」

「……本当に、ミリア嬢は俺のことを喜ばせるすべを心得ている」


 古代文字で書かれた本を読み進めたなら、もう少しアーロンの気持ちがわかるのだろうか。

 喜んだと言いながら、なぜかさみしそうな瞳のままのアーロン。


 後ろで、玄関の扉が開いた音がした。たくさんの足音が聞こえる。母も父も、兄も、使用人達もみんな全員、ミリアのことを心配していたのだろう。


「愛されているんだな」

「そうですね。大切な家族です」

「……また明日」

「はい、また明日」


 不思議だった。今日会ったばかりで、番だと急に言われて、なぜかお屋敷にお邪魔した。

 そこで本に没頭しすぎて、この時間。

 そして、明日の約束を交わしている。


 そのことが、ミリアにはとても不思議だった。


 踵を返したアーロンは、馬車に乗り込む寸前に、たった一度ミリアの方を振り返り笑いかける。


 たったそれだけのことなのに、明日のことをもう考えているのは、なぜなのだろう。


 家族達が、総出でミリアを出迎える。

 もう、周囲はすっかり暗くなってしまった。

 このあと、ミリアが質問攻めに遭うのは、間違いない。


 ーーーーでも、少しだけ。ほんの少しだけ、秘密にしておきたいかもしれない。


 けれど、ミリアの兄は、絶対に今日の出来事を話させようという気迫を込めて、ミリアの両肩に手を置いている。

 母は、笑顔だけれど、少し怒っているみたいだ。

 父は、あの男は誰だ、とでも言い出しそうな表情をしている。


 そして、興味津々の使用人達。


 今日という日は、まだまだ終わりを迎えそうにない。

 ミリアはまだ気がついていないけれど、今日という日は、ミリアにとって、人生の岐路になる日なのだから。

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