王命による結婚 6
王からの手招き。
いつも気負うことなく、国王と接しているアーロンだが、今日ばかりは緊張を隠せずにいた。
「ふーん。ウェンライト男爵令嬢、もっと近くに来なさい」
「は、はい……」
ここに来て、さすがに緊張したのかと、アーロンが見つめている中、ミリアは優雅な礼を見せた。
「……美しいな。さすがは、孤高の竜騎士を射止めただけある」
「孤高」
ミリアが言いたかったことが、アーロンにはわかってしまう。
初対面で、番を見つけたうれしさでミリアに詰め寄ってしまったことは、すでにアーロンの中で黒歴史になりつつある。
もちろん、ミリアにも番としての認識があったのなら、問題ない行動だったのかもしれないが……。
「……も、もったいないお言葉でございます」
視線を前に向けながら、微笑んでみせるミリア。
そういえば、アーロンがあんな勢いで詰め寄ってしまったときも、ミリアは逃げ出したりしなかった。
「ふむ。祝いの品を与えよう。ウェンライト男爵令嬢は、なにが欲しい? 何でもいい、言ってみろ」
会場がざわつく。
国王陛下から、直々に、しかもなにが欲しいかと問われる。
それは、最高の栄誉であると同時に、ほとんど全ての願いが叶えられるということだ。
「何でも、ですか?」
会場の視線が、全てミリアに集中する。
なにを願うのかと、誰もが興味を持つ。
なにを願うのか、すでに予測してしまった約1名を除いて……。
ミリアは、コテンッと首をかしげた。
「竜人に関する本……でしょうか? 読んだことのないものがいいです」
「そうか……。つまり、バルミール卿ですら手に入れることが出来なかった資料が読みたいと」
「というより、まだ見ぬ本が読みたいです」
口元をニヤリと歪めて、国王はアーロンに視線を向ける。
王国の騎士、誰一人として敵わず、誰にも興味を示さなかったアーロンが、確かにミリアの一挙一動に翻弄されている。
「なるほどな」
シーンッと会場が静まり返る。
ミリアの願いは、竜人の秘密を知りたいというものだと周囲には聞こえるだろう。
けれど、アーロンは知っている。ミリアは、本当に見たことのない本が読みたいだけなのだと。
「とっておきを用意しよう」
「ありがとうございます!」
「ところで、アーロン・バルミール卿の願いも、念のため聞いておこうか」
「は。ミリア嬢との婚姻を認めていただきたく」
はっ、しまった! という顔を隠しきれず、先ほどまでのよそ行きの表情が剥がれてしまったミリアと、あきらめきった表情で微笑むアーロン。
珍しく軽く目を見開いて、素の表情を見せた、国王ガルーダ・ドルトムント。
「…………はは! 認めよう。二人の子どもは、必ず俺に一番に見せに来るように。名前をつけてやろう」
貴族達の隠しきれないざわめきの中、微笑んだままのアーロンと、やはりどこか引きつった微笑みのミリアは、二人仲良く腕を組んで退場したのだった。




