王命による結婚 3
「ミリアにとって、俺はどんな存在?」
我ながらずるいな、と思いながらアーロンは口を開いた。
だが、もしもアーロンにとってミリアがどんな存在か語り始めたなら、一晩では語り尽くせない。
いくら恋人同士になれたのだとしても、二人の気持ちには温度差があるのだと、アーロンは思っている。
「……うーん。結婚するとしたらアーロン様しか考えられないくらい好きですよ?」
「えっ?」
「……えっ? アーロン様にとっては、違うのですか? わぁ、恥ずかしいです。初対面の時、求婚されたので、今でも有効なのかと……」
眼鏡の奥で、すみれ色の瞳を瞬き頬を染めるミリア。
「あっ、えっ。本当に……? いや、有効どころか、今すぐさらって結婚式にしたいくらいなのだが」
「極端です」
「……しかし、なぜ」
アーロンは口ごもった。
王命による結婚。アーロンは、ミリアのそばにいられるのなら理由は何でも良いが、ミリアはどう思うだろうと、頭を悩ませていたのに。
「アーロン様、陛下との謁見から帰ってきてから深刻な表情しかしていませんよ? きっと、私が関係しているのでしょう? 違いますか?」
「……違わない」
「アーロン様の想像する竜人の愛と、私が思う人間の愛にはずれがあるんです。竜人と番に関する本をたくさん読みましたけど、理解できる部分と出来ない部分があります」
「そうだろうな……」
ミリアの手は、未だにアーロンの手を強く握ったままだ。
「私とアーロン様は、人間と竜人。違うのかもしれません。……でも、人間同士だって、ちゃんと言わないとお互いのこと分からないんです」
番であれば、それだけでそばにいる理由としては十分だ。
そして、確かにアーロンとミリアは番なのかもしれない。
それでも、アーロンは、番というだけで、ミリアにそばにいてほしいとは、もう思えなかった。
「……そうだな。王命なんて伝える前に」
きつく握っているミリアの手の甲に、アーロンは口づけた。
それだけで、あれだけ強く握られた手は、ふにゃりと力を失って離れていく。
アーロンは、ミリアの目の前にひざまずいた。
金色の目が、上目遣いにミリアを見つめる。
「愛している。結婚してほしいのは、君だけだ。どうか俺の伴侶になってくれないか」
「……アーロン様。王命、ですか?」
「ミリアと結婚するようにという王命だから従うだけだ。別れろという命令だったなら、君が許してくれるなら連れて逃げる」
「そう、ですか」
出会ったばかりのアーロンとミリア。
ミリアだって、結婚するならアーロンがいい。
「私は、アーロン様の弱点になりますよ」
まっすぐ見つめるミリアの瞳は、思慮にあふれる。古今東西、強者の弱点は狙われるのだ。
「……俺の弱点? 弱点というより、ミリアを危険にさらすのは、俺だ。それでも、今すぐ結婚してほしいのは」
「私を守るためですか?」
「……守りたい。ミリアがいなくなったら俺は」
少し震えたアーロンの両腕に抱きしめられて、ミリアは覚悟を決めた。
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