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本の虫令嬢は竜騎士様の最愛つがい  作者: 氷雨そら


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番と恋人 4



 規則正しい振動は、お互いの心臓が伝える気持ちの昂りだ。

 ただ、竜騎士として鍛えられたアーロンの腕の力は、少々強い。

 ミリアは、苦しいという意味を込めて、トントンとアーロンの背中を叩く。


「ミリア……」

「アーロン様」


 腕の力が緩まって、ホッとしたのに、どこか寂しいのはなぜなのだろうか。


「アーロン様は、旅をされていたのですよね?」

「……ああ」

「私も行ってみたいです」


 細められた金の瞳は、まるで三日月のようだ。

 

「だから……。私のこと、置いていかないでください」

「ミリア。だが、俺がけがをするたびに、君は……」


 ミリアと過ごして、ミリアの人となりを知れば知るほど、アーロンの竜人としての常識は音を立てて崩れていくようだった。


 番は、ともにいるのが当たり前。

 喜びも、苦しみも、痛みすら平等に分け合うべき。それが、竜人の常識だ。


 けれど、ふわふわの綿あめみたいなミリアに、アーロンは幸せだけを分けたかった。

 それは、おそらく竜人には理解できない感情のはずだ。


 それなのに、目の前のミリアの笑顔を見た瞬間、先ほどよりもさらに好きになったことをアーロンは思い知らされる。


 不変なはずの、番に対する感情ではない。

 アーロンが、今ほしいのは、番ではない。


「アーロン様。私、ここ三日ほど食べれなくて、しかも眠れなかったんです」

「え……?」

「本で読みました。番は離れると生きていけないと」


 事実だ。実際、何らかの理由で引き離された番の片割れが、何も食べず、眠ることも出来ずに弱っていく姿を、幼い頃アーロンは目にしていた。


「……これが、番だからなのか、アーロン様のことを好きになってしまったからなのかは、分かりません。でもきっと、置いて行かれたら私……」


 ……アーロンは、しばらくの間、呆然となってミリアを見つめていた。

 ミリアから、こんな風に気持ちが返ってくるなんて、考えたこともなかった。


「……けがをした痛みが、私に影響を与えたせいで、離れていこうって考えていませんか?」

「…………」

「だめですよ。そばにいてくれないと。……こんなに好きにさせておいて、それから置いていくなんてひどいです」


 アーロンは、もう一度腕の中に小さくてふわふわの存在を閉じ込めた。

 うれしくて、切なくて、番が出来たら楽しいことばかりだと思っていたのに苦しい。

 そして、全ての人生の中で一番幸せだ。


「けがをしたら、隠さず私のそばにいて下さい」

「ミリア、それは」

「……アーロン様が遠くに離れたら、ご飯が食べられないので」


 その言葉は、アーロンがミリアのそばにいるための、優しい鎖のようだった。




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