去年の約束と、手袋を半分こした帰り道。
「ねえ、一緒に雪だるま作りに行こうよ?」
雪の積もった朝。
ラルクはココを誘いにやってきました。
「今日はだめだよ」
ココは淋しそうに、玄関先で首を振ります。
「二人で雪だるま作ろうって、約束してたじゃないか?」
「ごめんなさい。わたし、こんな寒い日に外へ着ていく服を持っていないの」
ココはラルクの手を振りほどきながら、悲しそうに言いました。
「そっか……」
ラルクが肩を落として帰っていってから、しばらく、再び戸を叩く音がして、ココは玄関に向かいます。
そこには、満面の笑みを浮かべたラルクが立っていました。
「ココ、雪だるま一緒に作ろう?」
「だから無理だって!」
思わず声を荒らげるココに、ラルクは後ろ手に隠すようにして持っていたコートを、広げてみせました。
「これ僕のだけど、ココにも着られるでしょ? これで一緒に遊べるよ」
ココの瞳が少しずつ輝いていきます。
「去年からの約束でしょ?」
昨年、ココは風邪を拗らせて一冬の間、外遊びを禁じられていました。
その、お見舞いに来てくれた時に交わした約束を、彼は覚えていてくれたのです。
大きいのを作ろうと、勇んで始めた雪だるま作り。
しかし途中でココの手が止まってしまいます。
「どうしたの?」
ラルクが尋ねると、ココは真っ赤な手に必死に息を吐きかけていました。
ラルクに気付くとごめんねと、申し訳無さそうに笑います。
するとラルクは、
「これで冷たくない」
自分の手袋を、ココの手へとはめました。
「いいの?」
「もちろん」
二人は夢中になって雪だるまを作りました。
出来上がったのは見事に大きな雪だるま。
明日、友達に見せようと、約束をして夕暮れの道を帰ります。
途中でココが、ラルクの手に気付きました。
自分と同じくらい真っ赤になっているラルクの手。
ココはラルクを呼び止めると、今度は彼の手に、手袋をはめようとします。
「僕は、いいよ。平気だよ」
胸の前で手を振るラルク。
その手を取って、ココは強引にラルクへ手袋をはめました。
「ココ」
今度はラルクが、ニコニコしているココの手を取り、片方の手袋をはめます。
「ラルク。それだと片手冷たいままだよ?」
「うん。でも、こうすれば冷たくないよ」
ラルクはココの手を取りました。
「本当だ」
ココはラルクに、握られた手を握り返します。
「あれ、ラルク、顔真っ赤だよ? 寒いの?」
「ううん、そうじゃない」
「??? 変なラルク」
二人は太陽がオレンジに染めた雪の中を、一緒に帰っていきました。