ドリームコントローラー
【ある商品のCM】
にこやかな笑みを浮かべた女性が、ヘッドギアのようなものを片手に持ち、画面の向こうに話しかけています。
「大好きな芸能人と一緒に過ごすことができたらいいのに……睡眠時間を削らず受験勉強をしたい……お金はないけど、宇宙旅行に行ってみたい……我がDC社は、そんな皆様の『夢』を叶える魔法の装置を開発致しました。その名も『ドリームコントローラー』です」
「使い方は簡単。まずはこの装置をPCに繋ぎ、あなたの希望する夢の内容を設定します。登場人物も世界観も展開も、すべてあなたの思うがままに決められます。それが終われば、後は頭に装置を装着して眠りにつくだけ。あなたの望みが全て叶う場所で、今までにない幸せを味わうことができるでしょう。さあ、今すぐ夢の世界のチケットを手にいれてみませんか?」
「これから30分オペレーターを増員してお待ちしています。ご注文は0120……」
【ある一般人の日記】
信じられない……。夢の中とはいえ、もう一度、麗子と会って話しができるなんて……。たとえ全て俺の考えた通りに動くだけのまやかしだとしても、眠っている間はそんなこと知らずに幸せな時間に浸ることができる。ああ……退屈でしんどい仕事は憂鬱だが、ベッドに入ってまた彼女と過ごせる夜は楽しみだ。制限時間さえなければ家にいる間はずっと寝ていたい。
【政府の緊急記者会見】
「DC社が販売している『ドリームコントローラー』の利用者は既に世界人口の3割を超えていると言われておりますが、多数のトラブルも報告されています。特に現実での生活を捨て、夢の世界に引き籠ろうとする利用者が増加している問題は深刻です。元々そのような事態を引き起こさないよう同製品には一日における使用制限が組み込まれていましたが、ハッカーによりそれらのロックが解除されている改造品が流通していることが確認されました」
「また、この製品には過度の暴力行為、犯罪行為については設定できないようにあらかじめプログラムされていましたが、それらの規制が外されているものもネットで販売されております。これらの事態を非常に重く受け止めた各国首脳により緊急会議が繰り返し行われました」
「その結果、『ドリームコントローラー』の使用に際し、ネット接続を必須とし、DC社がその内容について常に監視を行うことを決定いたしました。勿論、個人情報保護には万全の体制を整え、収集したデータについては外部に漏れることのないよう徹底した管理を行なうよう指導しておりますのでご安心ください」
【ある一般人の日記 その2】
麗子の幽霊が今日もまた昼間に現れた。見た目も話す内容も昨日と全く同じ。「あなた……早く夢から覚めて……」ただそれだけ。『ドリコン』の使い過ぎで、ついに頭がおかしくなったのか……。それとも……俺は、本当に今も夢を見続けているのだろうか?
【政府の緊急記者会見その2】
「現在巷を騒がせている幽霊騒動ですが、医師や研究者の調査によれば『ドリームコントローラー』使用によって酷使された脳が引き起こす幻覚であると判明しました。医師の処方に従い治療薬をしばらく服用することで、幻覚は見えなくなることが確認されています。また幻覚が口にする言葉にも特別な意味はないとの結論がでております」
【テロリストの独白】
「こんなに簡単に国は滅ぶものなんだな。あと数日もすればこの国の人間の9割は夢を現実だと思い込んだまま餓死するだろう。ドリコンをネットに繋ぐなんて、どうぞプログラムを書き換えて下さいと言っているようなものだと分からなかったのか。馬鹿な奴等だ」
「…………あれ……なんだ……これ……頭が……痛ぇぇええ!!! ……くそ……まさ……か……」
【ある実験室】
「御覧いただきました通り、ドリコン監視システムを使えば、このように潜在的な犯罪者を見つけ出すことも容易です。今回は、ただ単に無力化しただけですが、そのまま排除することさえ可能です。現在、我々研究チームは、更に夢を通じて記憶を改ざんし、性格を矯正する実験を行っています……」