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輪廻転生と祈祷神  作者: 春風 咲来
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初めての想い

私、朝子が朔さまの弟子になってから2年目を迎え、私は死神女子高等学校に進学し、放課後や休日は朔さまの教えを乞う日々だ。

そんな流れで、今日も朔さまと共に人間道へと出向いていたところ生きている男に付き纏う、女の霊を見つけた。しかし、朔さまは声をかけない…意を決して疑問を口にする。

「あのっ、師匠。なぜ、あちらの霊に手を貸さないのですか?」

「ん?あぁ、見てご覧なさい。あちらの生きている男性は霊感があるようだ、目を見て話をしているからな。女性も幸せそうな表情だし、比較的新しい霊だ。今回は、大丈夫だろう。もしかしたら、自然に成仏できるかもしれないしな。」

私が質問すると、すぐさま足を止めて、振り返り、丁寧に答えてくれる。周りからは、あの祈祷神様とよく一緒に生活できる、感情がわかるなどと感心されるが、本当は誰よりもお優しい方だ。今回の霊達を見逃すように…

「そうなんですね、教えて頂きありがとうございます。それで成仏してくれると、いいですがね…」

朔の表情が僅かに曇るが、朝子は気がつかない。

(死してもなお親しい人のそばにいる場合、伝えたい事を話てきちんと別れを告げられる良い例もあれば、お互い別れを受け入れがたくなる者、生者の方に亡くなった者より更に親しい生者が新しくでき、悪霊化するなどのケースもあるので、朔さまの考えは最善とは言えないかもしれない、でも、私が補えるようになれば良いんだ!)朝子が小さくガッツポーズをしていると、

「朝子、僕はそろそろ帰るが、君はどうする?」

朝子はハッとしてから、「私はこの後もう少し浄霊してから帰ります。」(早く一人前になりたいですし)

「わかった。気をつけるんだよ。」と言い残し、朔さまの背中は小さくなっていった。

(さて、未練を残した魂を探すとするか。)


しばらく飛んだ頃だった。夜の学校にたたずむ、一人の運動部の学生の霊の姿が、「初めまして、私は死神朝子、貴方の未練をお聞かせください。必ずやお力になりましょう。」朝子がにこりと微笑みかけると、霊は頬を赤らめ「ついに俺にもモテ期が‼︎女の子だ〜デートしようよ〜」と近寄ってきた。

(デートという事は、輪廻の輪のところまで誘導するいい理由になるか、手は霊とよく繋ぐし)

朝子が考えている時間を、霊は照れていると勘違いしたようだった。

「俺もさ、実はデートとか初めてなんだよね!!」

(もうデートと決まっているようだった。でも、まぁいいか)という事で「では、行きましょうか。」パッと霊の手を取り滑るように空中を移動する。

「やった‼︎」興奮気味の霊に、「いいですよ〜、デートく・ら・い」と朝子が言うが、霊の耳には届いていないようだ。


?(全く、ああいう事を無意識にやるから心配になるんだ。)


しばらくして、輪廻の輪の前。

「今日は、ありがとうございました!それでは、あちらに…」朝子が輪廻の輪を指差すと、霊は激怒し、「ハァ!?デートったって1時間くらいしか経ってないし、手しか繋いで無いだろ!?」

男の怒鳴り声に、思わず朝子は身をすくめる。

「キスくらいしてくれたっていいよな?俺のこと好きなんだろ?」

(なんて強引なやつ)朝子は腹を立てるも、声が出ない、じりじりとにじり寄って来る男の霊、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなり、雲行きが怪しくなって来る、これはまずい、なんとかせねばと思うも、指先が微かに動くばかりだ、もうダメかと覚悟し、目を瞑ったその時、閃光の如く鎌が振り下ろされ「強制浄化‼︎」聴きなれた声がこだまする。

「無事か!?朝子。」彼にしては珍しく息を切らし、声を荒げている。それが、朝子は妙に嬉しかった。

大丈夫、そう伝えたいのに、肩が小刻みに震えるばかりで、声が出ない。

そんな朝子を見て、朔はほっとしたような笑みを浮かべ、優しく包み込んだ。

朝子は、一瞬何が起きたか分からずに放心状態となったが、その暖かさが心地良くて、母を失った日から流さないと決めていた涙が溢れ出してくる。

朔は、朝子の背中を幼子にする様に一定のリズムでさすってやる。

朝子の涙の理由は、きっと今日の事だけでは無いだろうと考え、そっと引き寄せて、少し朝子の耳の方に顔を傾ける。

「親しい者、愛しくてたまらない者を失う悲しみは、僕にも覚えがある。全てをわかる事は出来ないかも知れないが、分かち合う事なら、できるはずさ。」(祈祷神の力が判明してから実の親からも崇められ、やっと家族になれたたった一人の妻さえも、そして、いずれは君も…でも、その時までは、そばで…)朝子が成長した姿に思いを馳せる朔、その姿には、哀愁が漂っていた。

朝子は、そんな朔を見上げ、祈祷神と妻の噂話を思い出す。

そして、その辛さを少しでも和らげられるよう、朔の胸にしがみつく。

朔は、朝子の頭を支え、「だから、泣きたくなったら、いつでも僕の胸でお泣きなさい。」

朝子を見つめる、憂いを帯びたどこか切なげな瞳、ふっと微笑みを浮かべようとする口元に、朝子の胸が締め付けられ、苦しくなる。

そのまましばらくして、朝子から離れようとする朔。

朝子は不意に、朔の羽織の袖をつかんでしまう。

朔は、驚いたような困った様な笑みを浮かべ、すまなそうに手を離させる。

「急に触れてしまって、すまなかったな。君は女性だというのに、気遣いが欠けていた… さぁ、夕飯にでもしないか?」

ぎこちなくなる朔に、朝子は、

(普段から、気にしすぎるくらい配慮はしてくださっているし、それに、朔さまだったら、朔さまだから、嫌じゃ無い、それに…もっと触れて欲しい)

自分でも思っても見なかった言葉が浮かんできて、振り払おうとする、しかし、一度自覚してしまったそれは、ふつふつと湧き上がりこぼれてしまいそうになる。

(私は、師匠が、朔さまが、好き。なのかもしれない。)

朔さまは、なかなか歩こうとしない私を少し離れたところから不思議そうに見つめ、「どうしたんだい?早くおいで。ところで今日は外食にしないか?」小さく手招きをしながら、私を待っている。

今すぐ伝えたくなる気持ちをぐっと堪え、私は何事もなかったかの様に小さく手を振り返し、真っ直ぐに朔さまのもとへ駆け出す。

近づくたびに鼓動が高なっていくのがわかる。自分が彼に抱いているのは、憧れだけではないとはっきりとわかる。しかし、この想いを伝えてしまった時、拒絶やその後の気まずさから、今の関係が崩れてしまう事は目に見えているかもしれない。それを想像し、理解できるくらいには、朝子は大人なのだ。

時はまだある、このままゆっくりと、想いを育んでいけたのなら…

朝子は朔の隣に並び、密かに一歩近づいて寄り添うのだった。

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