しけったマッチ売りの少女
雪が積もる季節の中、少女が一人夜の町でマッチを売っておりました。
「マッチはいりませんか……?」
「マッチを買ってくれませんか……?」
通りすがりの人々に声を掛けますが、誰一人として見向きもしませんでした。
「どうしてマッチが売れないの……?」
やがて少女は疲れ果てて、家の壁に寄りかかり、かじかむ手足をすり合わせて温めました。
「ああ……皆がクリスマスで楽しんでいるのに……」
家の中を覗くと、美味しそうなご馳走を囲む家族が見えました。
少女の脳裏にかつて一緒に暖かい食事を食べたお婆ちゃんの顔が思い出されました。
「おばあちゃん……」
少女はマッチを一つこすりました。
しかしマッチはつきません。
「どうして……どうしてマッチがつかないの……?」
やがて少女は力尽きて倒れてしまいました。
そこへ天使が舞い降りました。ルーベンスの絵に取り憑き、見る者の魂をトランペットで殴打する、あの天使です。
「可哀想な少女よ……せめて最後に願いを一つだけ、叶えて差し上げましょう」
少女が天使に連れられてゆきます。少女は軽くなった体で空を泳ぎ、そして言いました。
「私のマッチが売れないのはどうして……?」
天使はトランペットを構えて答えました。
「湿気っているからです」