賑やかな旅路(1)
まだ少しばかり雪の残る街道を馬車が走る。王都を出てからすでに数時間ほどたっているが、依然として景色は変わっていない。
俺はそんな景色をぼーっと眺めていた。
「セレスティア様、それペアになってますよ」
「あら、本当ですね」
「ねぇ姉さん、ジョーカーは誰が持っているのかしら?」
「さぁ? 少なくとも私ではありませんが」
馬車の中ではトランプを使って、いわゆる『ババ抜き』が行なわれていた。
このトランプは氷室の私物だ。なんでもトランプはまたもや先人が広めたものらしく、それなりに大きな店に行けば大体売っているらしい。
「はい、今回も僕が一番目だね」
「えぇー! まだ私こんなに残っているのに!」
「そうですよ、あなたは少し強すぎるのです。もう少し手加減なさい」
「いや、手加減って……したとして、それで負けたらもっと拗ねるじゃないですか」
氷室は苦笑を浮かべる。
「あっ、私あがりです」
「あー! 姉さんにも先を越せれたー!」
「ほら、今回も私が負けそうじゃないですか! これはアンドレのせいですよ!」
「えっ!? なんでそこで私になるんですか!?」
わちゃわちゃと、馬車の中はババ抜きで盛り上がっていた。
なお、俺は三回ほどやったあたりで飽きてしまった。以前にすでに飽きるほどやってたからな。
……それと、氷室が強すぎる。なんで何度も連続で一番目に上がるんだよ。
つねにニコニコしてるからどんな手札なのかわからないし、サクサクとペア作っていくから絶対に先を越されるんだよな。……あいつ、絶対なんかやってるだろ。
窓の外を眺めていると、馬車が急に減速して止まる。突然の事だったため、馬車の中では小さな混乱が起きた。
「きゃっ!」
「――とっ」
セレスが転びそうになったが、氷室がそれを支えた。
これだけ急に止まるんだ、確実になにかがあったんだろう。そう思っていると、氷室が御者席の方にある小窓を開けて、御者に何事かと確認をとる。
「なにがあったんです?」
「……盗賊です、数は二十から三十」
「そう……わかった、ありがとう。……盗賊ですけど、どうします?」
「盗賊ですか、また面倒なのに絡まれましたね」
セレスの言葉には同意できるが、その様子はまるで面倒そうじゃなかった。
俺から見て、セレスの態度は『なんだ、盗賊か』くらいにしか見えなかったんだが……。
「――おいっ!! 有り金と武器をすべてこちらに渡せ!! あと女もだ!! そうじゃなきゃ、てめぇらの命はねぇぞ!!」
馬車の外からそんな声が聞こえてくる。粗野で、聞いていて不快になるような言い回しだ。
「はぁー……本当に面倒だな」
「相手は盗賊なんだし、軽く捻ってやればいいんじゃないか?」
「そうだね、面倒だしそうしようか」
氷室は椅子から立ち上がった。
……盗賊たちも不運だよな。こんな化け物を相手にすることになって。まぁ相手は盗賊だし、憐れむ気持ちは一片たりともないがな。
「じゃ、俺も戦うか」
「奏多も戦うの? 別に僕だけでも充分かたづけられると思うけど」
「あぁ、お前だけに任せて待ってるのも落ち着かないからな」
氷室が負けるなんてことは絶対にないと断言できるが、だからと言って待っているというのはなんか違う気がするのだ。
「そう……じゃあ一つ注意を。奏多、できるだけ盗賊を殺さないようにしてほしいんだ」
「なんでだ?」
「聖王国には『私刑』を禁止する法律があるんだよ。まぁ、僕は勇者だからその法律には縛られないんだけど、だからといって自ら破るのは人々の指標としてはダメだからね」
私刑を禁止……つまり、盗賊はほかの場所でちゃんとした罰を受けるから、ここで殺したらダメ、ということか。……面倒な法律だな。
「わかった、できるだけ気をつける」
「そうしてくれ、頼むよ」
そんなに念を押さなくてもわかってるっての。
「……少し心配ですので、私も参加しましょうか」
「え? 別にセレスティア様はここでお休みになっていてもかまいませんよ?」
「そう言われましても、どうせここで待っていても暇ですしね。それなら少し体を動かそうかと」
そう言ってセレスが立ち上がる。
……ていうか、セレスって戦えるのか? 武器はなにも持ってないし、それらしい姿は一度も見たことがないんだが……。
「……わかりました、でも気をつけてくださいね」
「心得ています」
「アリスたちはどうする? 一緒に来るか?」
俺は座っていた二人に確認を入れる。
「私たちはいいわ。そんな大勢で行ってもごちゃごちゃするだろうし。それに、相手は盗賊だしそこまで戦力はいらないと思うしね」
「はい、ですので私たちはここで待っていることにします」
確かに、戦力という意味では飛び切りのが一人いるからな、全く心配はないか。
「わかった。じゃあ、このメンバーで行くか」
「はい、軽く捻ってやりましょう」
「ドアを開けるよ、準備はいいね?」
「あぁ、いいぞ」
氷室は扉についている鍵を解錠し、扉を開いたのだった。




