戦闘指南(2)
「えっと……じゃあ、来て!」
「はい、よろしくお願いします!」
アルバニアがダガーを両手に持ちながら、氷室の方へと駆け出した。
「はぁっ!」
アルバニアは氷室へダガーを振るう。
二刀流に素早い攻撃ができるダガーということも相まって、すさまじい速度と数の斬撃が氷室に襲いかかる。だがしかし、氷室が怪我を負うことはなかった。
「いいね、攻撃の密度がすごく高い、なかなか防ぎづらいよ」
氷室は負けじとアルバニアの攻撃を防ぐ。双方が二刀流ということもあり、あたりに金属音が連続的に鳴り響いた。
「……すごい音だな」
「えぇ、それにしても物すごい速さの攻撃ね。私には捉えることができないわ」
俺のつぶやきにアリスが応えた。
アリスの言うように、二人の攻撃速度には目を見張るものがある。俺でさえギリギリといったところだ。
俺では防ぐだけで手一杯になるような密度をもった攻撃だが、氷室は全くつらそうではない――いや、それどころか楽しそうですらあった。
……あいつ、もしかして戦闘狂なのか?
しばらく斬り結んでいるかと思ったら、二人はまるでタイミングを計ったかの如く同時に後ろにとんだ。
どうしたのかと思っていると、アルバニアが息を切らしているのが見えた。
「うん、これくらいにしておこうか」
「……はい、すみません」
どうやら氷室はアルバニアの限界が近いことに気がつき、模擬戦を切り上げたようだ。
確かにあのまま模擬戦を続けていれば、予期せぬ怪我を負う可能性があった。俺も氷室の判断には賛同できる。
「普段は弓を使うって聞いてたけど、近接の速度に威力、そして密度と全てにおいてかなり洗練されているね。でも、ちょっと正直すぎるかな」
「正直とは?」
「なんて言うか、直線的すぎるんだよ。あまりにも攻撃が読みやすいというか、見切ることさえできれば防ぐのに苦労しないんだよね」
氷室は簡単に言っているが、まず見切ること自体が難しいはずだ。
確かにアルバニアの攻撃は正直ではある。しかしそれがとんでもない速度で、そして密度で襲いかかってくるため、並の者ではまずかわすことができないのだ。
勇者になれるほどの実力を持つ氷室だからこそ、一瞬で攻撃を見切ることができたんだろう。普通なら大してなにもできずに斬り裂かれるはずだ。
「だから、もっと攻撃にフェイントを入れた方がいいと思うよ。そうすることでよりよけづらくなるからね」
「はい、ありがとうございました」
氷室のアドバイスも終わったようだ。次はアリスの番だな。
―― ―― ―― ―― ――
舞台の上でアリスと氷室が向かい合う。そして、互いの手には各々の武器が握られていた。
「確か、君はアリスさんだよね? 形式は模擬戦でいいかな?」
「えっと……はい、それでお願いします」
「別に敬語じゃなくてもいいんだよ? 気を使わず話してくれてかまわないから」
「……そう、ならそうさせてもらうわ」
「タイミングは好きにしていいから君から来て、僕はいつでもいいよ」
氷室は背中から魔乱の魔剣を引き抜く。しかし、どうやら今回はクラウ・ソラスを使わないようだ。
「それじゃあ、いかせてもらうわ! ウォーターブラスト!!」
アリスは杖を構え、爆発する水球を放つ。かなり速く、当たれば決して無傷では済まないであろう一撃。
「マジックバリアー!」
しかし、氷室が発動させた魔法の障壁を突破するほどの攻撃力は、あいにく持ち合わせていなかった。
今のは別にアリスの全力の攻撃というわけではないが、それでも俺では防御魔法を使ったとしても体勢が崩れるような一撃だ。
改めて、氷室がどれだけ化け物じみてるかがわかるな。
「アイシクルシュート!!」
アリスは魔法により氷柱を無数に放つが、氷室のまとう障壁を突破する決定打とはなりえない。
「えぇー……今のでも結構本気だったんだけど……。私の魔法ってこんなにも威力が低かったっけ?」
「そう自分を卑下することはないよ。僕じゃなければ普通に障壁を貫通するほどの威力があったし、全体的な魔法の操作を見ていてもかなり熟達していることがわかるからね。僕から特別なにか言えることはないよ。あとは鍛錬あるのみさ」
「そう……ならよかったわ」
まぁ、確かに普通ならアリスの魔法は脅威となり得るだけの威力と精度を誇っている。
あれを自分に向けられたら、俺は防ごうとはせず確実によけることを考えるだろう。それを防いでしまうんだから、氷室の障壁はどれだけ固いんだか……。
「近接戦闘はできる? できるなら少し見てみたいんだけど」
「本当に少しだけだけど、いちおうできるわ」
「そう、なら少し見せてもらうよ。さっきと同じように君から来て」
「えぇ、わかったわ」
アリスはそう言うと、勢いよく駆け出した。そして、氷室に杖の先端についている先のとがった水晶を突き出す。
「うん、なかなか筋がいいね」
氷室は魔乱の魔剣でアリスの杖を横へと弾き、攻撃を防いだ。
そういえば、今思えばアリスが近接戦闘をしている姿は初めて見たな。まぁ、俺とアルバニアがいれば近接戦闘をする必要はないからな、それもそうか。
「やぁっ!」
アリスは杖を横薙ぎに振るう。
「隙だらけだよ!」
「えっ!?」
しかし、氷室はアリスの杖を絡めとるようにして遠くに弾き飛ばした。杖はそのまま重力に従って地面に落ち、カランッ! という金属音を立てる。
「全体的に筋がいい……いいんだけど、まだまだ荒削りかな。やりようによっては武器を手放させることだってできるんだ。もっと相手の細かな動作を見て、そして相手の真意を見抜くことを心掛けるといいよ」
「……なるほど、勉強になるわね」
「それと、近接戦闘だからといってそればかりにこだわるのはよくない。君は魔法が使えるんだ、だからもっと積極的に近接戦闘にも魔法を取り入れるとより良くなると思うよ。近接でも使える魔法はたくさんあるんだし」
「ありがとう、参考になったわ」
二人は舞台から降りる。
アリスからは疲れが見て取れるのだが、氷室からは一切それらしい様子は見当たらなかった。ちょっとスタミナお化けすぎないか……?
「お疲れ様です」
「お疲れ、ほら」
「あっ、ありがとう」
俺は拾ってきた杖をアリスに渡した。
「このあとはどうしようか。まだ夕食を食べるには時間があるし、もう少しここで練習でもする? 僕は時間があるからつきあうけど」
「そうだな……特にこれといった用事もないし、もう少し付き合ってくれるか?」
「うん、いいよ。じゃあ、もう一度模擬戦をしようか」
「あぁ、次こそぎゃふんと言わせてやる」
俺と氷室はもう一度舞台へと上がり、模擬戦を始めるのだった。




