戦闘指南(1)
張り詰めた空気により、俺の頬に冷汗が流れる。
あまりの緊張感でこれが模擬戦だということを忘れてしまいそうだ。それほどに、氷室の放つ重圧はすさまじいものだった。
「――耐えられそう? 大丈夫そうなら奏多の方から来て、どんな攻撃も防いでみせよう」
どうやら、このプレッシャーは意図的に放っているらしい。プレッシャーを意図的に放つようなことができるなんて、正直驚きだった。
「じゃあ……行くぞっ!」
「こいっ!」
俺は走り出し、氷室の肩から脇腹にかけてバスタードソードを斜めに振るう。しかし、当然の如くその攻撃は防がれた。
「いいね! なかなか重い攻撃だ!」
氷室はそう言うと、攻撃を防いだもう一方のロングソードを横薙ぎに振るう。本当に当てるつもりはなかったようで、後ろにとぶと簡単によけることができた。
「ファイアボール!!」
「マジックバリアー!!」
火球を三つ放つと、氷室は透明な薄い膜のようなものを体の周りに発生させ、火球を防ぐ。
その膜はかなり薄く、それこそ少し力を加えただけで壊れてしまいそうであった。しかし、実際は俺の想像していた何倍もの強度があったようだ。
「うん、魔法の腕も立つみたいだね。ほら、もっといろんな攻撃を見せてくれ!」
氷室はニヤリとした笑みを浮かべ、両手を左右に広げた。
前からこんなやつではあったんだが……なんか、さらにウザくなってないか? ……見てて少し腹が立ってきた。
俺は身体強化の魔法を使い、氷室の胸部へバスタードソードを横薙ぎに振るう。
普通の者ならば、よけることができずに上下真っ二つになるような一撃――だが、やはり氷室はなんでもないかのように防いだ。
今のでもかなり本気で斬り込んだのだが、氷室は依然として動じているようには見えない。もっと、意表や虚をつくような攻撃をした方がよさそうだ。
俺は再びバスタードソードを横薙ぎに振るう……動作をした。
氷室が防御するために動き始めたのを確認すると、俺は転移魔法を使って氷室の後ろへと転移する。そして、今度はバスタードソードで氷室の腹部めがけて突きを放った。だがしかし――。
「――っ!」
「ぐあっ!?」
「そういう手でくるか! だけど、正直攻撃がみえみえだよ!」
氷室は俺の攻撃を見ずに横へとんでかわすと、俺の横腹を軽く蹴った。
力を調節していたようで痛みはなかったが、俺はなにもできずに吹き飛ばされる。俺は起き上がって体勢を立て直したが、心中では驚愕しかなかった。
「今の攻撃にはびっくりしたよ。だけど、まだまだ改善の余地があるね」
「……へぇ、どんなとこだ?」
「まず転移する際に、行こうとしている方向に目線が行ってるよね。戦闘中にそんな動きをしていたら不自然極まりないし、相手から一瞬でも目を離すのはとても危険なことだ。できるだけ早く改善したほうがいいよ」
氷室の言っていることには一理ある。戦闘中に相手から目を離すのは、死に直結しかねないしな。
……だが、これを改善するのはかなり難しい。転移魔法は今でも手一杯なのに、これ以上操作が複雑になるのはご遠慮願いたいものだ。
魔法行使力がもっと上がれば、それもどうにかなりそうではあるか。
「それと、奏多はもっと剣や魔法以外の攻撃手段を活用した方がいい。今でもそれなりに攻撃手段をもっているみたいだけど、もう少し対人用に攻撃手段を確保しておいた方がいいと思うよ」
「どういうことだ?」
「もう少し噛み砕いて言うと、奏多は攻撃を剣や魔法に頼りすぎていると思うんだ。攻撃手段が少ないのは、相手に行動を読まれやすいのと同義だ。攻撃手段が多いことに越したことはないんだよ」
つまり、『もっと攻撃手段を増やせ』ということか。
「そう言われてもな、具体的にどうすればいいんだ?」
「奏多にも足があるだろう? 奏多が使っているのはバスタードソードだから両手はあけておいた方がいいし、足を使った攻撃を増やすのはどうかな?」
「いや、足を使った攻撃って……全然殺傷力がないんだが」
足を使った攻撃で思いつくのは蹴りくらいだが、それでは殺傷力があまりにもなさすぎる。相手にダメージがないのなら、そんな攻撃はあまり意味がないと思うんだが……。
「それでいいんだよ。あくまでも相手の体勢を崩したり、隙をなくすためさ。殺傷力はそこまで重要じゃない」
確かに、最近は攻撃を剣や魔法に頼りすぎている自覚はある。使わなくなったわけではないが、最近はめっきり足での攻撃はしていなかった。
殺傷力を重視していたためか、攻撃の読みやすさについては全然頭になかったな……。いくら攻撃力が高くても、当たらなければなんの意味もない。
……なるほど、まだいくらでも改善の余地はありそうだな。
「さ、まだいけるよね? もう少し付き合ってよ」
「あぁ、わかった」
俺はバスタードソードを構えなおした。
「――はぁ、はぁ、はぁ……」
俺は地面に手と膝をついて、息を切らしていた。しばらくずっと動き続けていたからか、汗もかなりかいている。
「……うん、ここらでやめておこうか」
「お前……なんでそこまで強いんだよ。どうすれば、そこまで強くなれんだ……?」
「僕は奏多よりも早くこの世界に来たみたいだからね。その分、奏多よりもこの世界に長くいるのさ。だから、経験の量が全然違うんだよ」
氷室が手を差し出してきたので、俺は手を取って立ち上がった。
最初から強かったわけではないならそれでいい。努力は怠らず、いずれはこいつに追いついてみせよう。
――氷室とある程度戦って、こいつの戦闘方法が見えてきた。
どうやら主にクラウ・ソラスで攻撃を、魔乱の魔剣で防御しているようなのだ。必ずしもそうとは限らないが、そういう傾向にあるように思える。
まぁ確かに水晶でできているし、魔乱の魔剣は攻撃に不向きか。肉厚で刃がないのを考えると、最初から防御用に作られたのかもな。
「残念だったわね、なにもできずに」
「ソータさんでもここまで一方的に敗れるのですか……すさまじいですね」
模擬戦が終わったからか、アリスとアルバニアが俺たちに近づいてきた。しかし、二人の浮かべている表情はそれぞれ違った。
アリスは俺を慰めるように微笑みを、アルバニアは氷室の戦闘力の高さに驚愕の表情を浮かべている。
「こいつが強すぎるんだ。……まぁ、とりあえず俺は椅子に座っておくよ」
どっちが先に模擬戦をするかは決まっていないが、この後はアリスとアルバニアの番だ。
どのみち勝敗は決まっているようなものだが、いい経験になることは間違いないだろう。実際に俺はいい経験になったので、間違いないはずだ。
舞台を降りて、俺は椅子へと腰かける。そして、次の模擬戦が始まるまで待機するのだった。




