骨の群れ
俺たちは少し早めにチェイスを出て、聖王国へ行くことにした。
期限はまだ一ヶ月半ほどもあるが、早く着くことに越したことはないだろう。
雪が少なくなったので、少し前から乗合馬車が運行を再開していた。なので、今回は乗合馬車を使って聖王国まで行くことにする。
例によって、今回も一等級のものに乗ることにした。そうなると必然的に乗車料金が高くなる。
しかし、今回の報酬で提示された金額は乗車料金なんて気にならないほどの額だったので、さほど気にしてはいなかった。
「――そういえば、ソータは少し前に一度聖王国に行ったのよね? そのときに今回起こったことの前ぶれみたいなものは感じなかったの?」
「そうだな……アンデッドと一度戦ったくらいで、そこまで深刻だとは思わなかったな」
アリスの言った今回起こったこと――それは、通常ではありえないほどのアンデッドが、聖王国の各地で目撃および討伐されているというものだ。
それだけ聞くと異常事態ではあるが、特別脅威ではないように聞こえる。だがしかし、実際はかなり危険なのだ。
アンデッドは死体が元となった者が多い。……つまり、死体がその辺をうろうろと歩き回ることになるのだ。
死体はその内腐る。そうなると、強烈な腐臭や病気をまき散らす存在になりかねない。
肉が完全に腐り、骨のみになっているならまだいい。しかし、腐肉をつけたまま歩かれるというのは、深刻な病の流行につながりかねないのだ。
多少そういった存在がいるという程度であれば何もする必要がないのだが、いかんせん今回は数が多すぎる。
だからこそ、今回の調査は重要なのだ。
……まぁこれくらいの事なら、あの勇者にかかれば解決するのはそこまで難しいことじゃないんだろうがな。あいつの顔をあまり見たくはないが、これも仕事だと割り切ればまだ我慢できる。
「そう……でも、本格的に暖かくなる前には解決しないと、いろいろとまずい事になるわね」
確かに今は初春といったくらいで、まだ大丈夫である。しかし、暖かくなってくると死体が腐敗しやすくなるのだ。そうなると、事態が一気に悪化する。
どうにか、夏になるまでには解決する必要があるのだ。
―― ―― ―― ―― ――
聖王国への道のりは、チェイスから乗合馬車を使って約二十日。
到着まではとにかく暇だ。本を読むか、寝るか、なにか話をするくらいしかできることはない。ストレージに大量の本が入っているといっても、それで暇をつぶすのには限度がある。
魔力の操作を練習したりしていたが、それでも魔力を体に循環させたり、一転に集めたりくらいしか移動中はできなかった。
なにか物語の本でも買っておくべきだったか。一冊も持っていないわけではないが、すでに持っているものはすべて読み切ってしまったのだ。
聖王国に着いたら、適当に買い足しておくことにしよう。
旅路は順調だったので、すでに俺たちは聖王国に入っていた。
別に景色はそこまでベネット王国と変ったりはしていないが、雪がまだ残っているのは同じだった。
窓の外を眺めていると、馬車が急に減速した。突然のことだったため、ほかの乗客たちからは小さく悲鳴が上がる。
何事かと思っていると、御者の男が小窓を開けて中にいた護衛の冒険者に声を掛けた。
「アンデッドの群れです! 護衛の皆さんは早急な対処をお願いします!」
馬車の中にいた護衛たちは、その声を聴いて各々の武器を持って馬車から出ていった。
混乱している者はいなかったが、それでも、少なからず乗客たちには戸惑いが見て取れた。
「どうする?」
アリスが俺とアルバニアを見ながらそう問いかける。
『どうする』とは、俺たちも参戦するかそのまま待っておくか、ということを聞いているのだろう。
「このまま待っているのもなんだし、参戦していいんじゃないか?」
「私もその方がいいかと。それに、最近はあまり体を動かせていませんしね」
「そうね、私もそう思うわ」
満場一致で俺たちは参戦することになった。
おとなしくしていなければならない――なんて取り決めはないし、勝手に行動しても問題はないだろう。
俺たちは乗合馬車から出ると、件のアンデッドの群れを見た。
それは、小さな魔物の群れだった。肉は完全に腐り落ちており、なんの魔物かはわからなかったが、骨格で犬や狼の類であることはわかる。
体高は五十センチほどと大きくはなかったが、全部でそれが二十五匹もいた。
骨だけの魔物の群れというのは、中々に奇妙な絵面である。
「うおおおおおぉっ!!」
戦斧を持った男の冒険者がその斧を振り下ろすが、アンデッドはそれを後ろに跳んで軽々とよけた。
動物が元になっているためか、素早く動くことができるようである。
俺はストレージからバスタードソードを取り出し、走り出そうとした。しかし、アンデッドの方が先に攻撃を仕掛けてくる。
「――っと!」
俺はかみつきをよけると、アンデッドをバスタードソードで横薙ぎに斬り裂く。それによりアンデッドコアは破壊され、纏っていたオーラは空気中に拡散していった。
別にこの魔物の素材は高そうではないし、ぞんざいな扱いをしてもかまわないだろう。
「ウォーターカッター!」
アリスの方を見ると、水の刃を放ってアンデッドを一刀両断しているところだった。
相変わらず凄まじい切れ味だ。剣などではなくただの水でそこまでの切れ味を出すことができるのは、アリスほどの技量があってこそだろう。
アルバニアはどうやら弓は使わないようで、短剣の二刀流で戦っていた。
攻撃をよけたと思ったらすれ違いざまに斬り裂き、圧倒的手数でアンデッドを薙ぎ払っている。
「あぶねっ!?」
二人を見ていたら、アンデッドが俺に飛びかかってきた。
俺はとっさにアンデッドの首を掴むと、地面に打ち付ける。ガシャンッ! という音を立てながアンデッドはバラバラになった。どうやら、素早いが防御力はあまりないようだ。
アンデッドの群れは一体一体がそこまで強くなかったこともあり、五分ほどで全滅したのだった。




